迷宮都市編1
━王国辺境西方街道━
早朝
王都を離れてはや20日を数えると景色も大分変わってくる、森と湖の大地から荒涼とした荒野にそしてそれを過ぎると西方街道以外は馬車の走れぬ砂漠とかす。
そんな荒涼とした砂漠の景色を毎日眺めながら俺は、お願いだから早く何かしら出てくれ〜と不埒な事を考えていた。
平和を愛する俺が何故この様な事を考えるかと言えば、
原因ははっきりしている。
俺の前の席でじっと目を閉じているお嬢様だ。
この20日お嬢様は1度として血とアンデット汁を浴びる事もなく女性のいるお店にも行けてない。
スリルとバイオレンスの申し子の様なお嬢様に至ってはこの状況は地獄その物そのストレスと来たらそりゃあもう・・・
「ゴン。」
"ビクッ"
お嬢様の声に怯えながら俺は何とか返事をした。
「以下がなされましたかお嬢様。」
「周囲に魔物やアンデット何なら盗賊の気配はなくって。」
お嬢様の質問に俺はなるだけ穏やかに答えた。
「今だその様な動きは見当たりません。」
「・・・そう、では見つけ次第報告なさい。」
そう言った後お嬢様は静かに目を閉じられた。
マジで恐い、何時もテンション高めのお嬢様がじっとしてる、これはいつ切れても可笑しくない状態、お嬢様のストレスは最早マックスに達してらっしゃいます。
是非とも別の馬車に避難もとい移動したいところなのですが誰も場所を代わってくれません。
何よりもお嬢様のストレスを助長してる存在がこの馬車の周りを取り囲んでいます。
俺は静かに窓の外を眺め、この状況が変化してくれる事を祈りました。
そうして緊張に満ちた時間が数時間経った頃、街道の外、斜め前方に幾つかの尾びれが見えました。
「お嬢様右手に砂漠ザメとおぼしき尾びれが見えます!」
俺の言葉を聞いたお嬢様は凄まじい速さで馬車のドアを蹴破ると私の横に置いてある旅行鞄に手を突っ込み突撃用のモリを掴み出すと一瞬で馬車の屋根に飛び乗りました。
しかしそこでお嬢様が見た景色は周囲を囲む騎士達に依って処理された砂漠ザメでした。
「メアリー様ご覧の通り魔物の退治は終えております。
そこは危のうござります、どうか屋根からお降り下さい。」
騎乗にてそう答えるイケメンはこの騎馬隊の指揮を執られているマックス隊長だ。
お嬢様はマックス隊長を見ると静かに車内に戻った。
「ねぇゴン、あの男やはり私の敵だと思うのだけとどう思いますか。」
俺はびくびくしながら決して悪気は無いと思いますよと答えた。
お嬢様は不機嫌そうに次は奴等より早く獲物を見つけなさいと仰り目を閉じられた。
━西方街道沿いの砦━
午前
予定通りに次の休息地にたどり着いた馬車は砦の中にあるホテルにチェックインした。
普通の旅ならば、まだまだ馬車を進ませる時間帯なのだがこの地域の気候を考えるとそうも行かないらしい。
我々は日が沈む頃動きだし、お昼頃には休むという生活を1週間程過ごしていた。
お嬢様以下皆がホテルに入って行くとロビーにてボーイさん達から敬礼を受けた。
砦内ホテルはこれだから・・・既に幾日も泊まっては居るのだかどうしても馴れる事が出来ない。
チェックインのロビーにいる受付は何かと云えば敬礼して来るし、ボーイさんへのチップは賄賂と呼ばれる、正直これ程寛げないホテルは他に無いんじゃないだろうか・・・俺は国営ホテルの限界をまざまざと感じた。
そして国営ホテルに対して俺以上に不満を抱えている方が約1名いる。
「ゴン、私はこの監獄に泊まる位なら砂漠で野宿をすべきだと思います。」
俺を通して執事殿に不満をぶつけるお嬢様と俺を盾として話をスルーする執事殿との攻防は日増しに悪化の一途をたどっている。
そしてそこに火に油を注ぐ方が約1名・・・
「ハハハッまったくメアリー様はご冗談ばっかり仰る。」
そう言って登場されたのはお嬢様から糞虫の称号を賜っているマックス隊長、
そんなマックス隊長に対して執事殿も笑顔で話を合わせる。
「まったく幾つになられてもお嬢様には困ったものでございます。」
「嫌々、星空のした砂漠で野宿などロマンチックじゃないですか。」
「ハッハッハッ!」
「イヤイヤイヤ!」
この2人の会話がお嬢様の神経を逆撫でしまくっている。
解ってやってる執事殿とまったく解ってないマックス隊長、俺はいつ血の雨が降るのかと怯える日々を過ごしていた。
━砦のホテル━
夜
砦ホテル内は騎士達の喧騒に包まれ大騒ぎになっていたらしい。
「居たか!」
「嫌、此方には居ませんでした。」
「捜せ!メアリー様にもしもの事があったら我等全員の首では済まないぞ!」
メアリー様出奔!
太陽が沈み、そろそろご仕度をとメイド長がお嬢様の部屋に入るとそこは既にもぬけの殻となっていたそうな。
書き置きにはこう記されていた。
「貴様等は糞虫とゆるりと来るが良い。」
と殴り書きされてたとか、
何故、この騒動を後から聞いたかの様な言い回しをしているかと云えば、その頃俺はお嬢様に拉致され1冒険者として商人のキャラバンの護衛として迷宮都市を目指していたからである。
どんな手を使ったのかお嬢様はホテルに居た商人の1人と渡を付け、2人組の冒険者として雇われた・・・何故か俺も一緒に
商人殿に後で聞いた所、旅の途中で体調を崩す従業員や冒険者は必ず出る、
そうした場合は途中の砦で回復した従業員や冒険者を臨時で雇い入れ旅を続ける。
無論契約には各ギルドの証明書が必要らしい。
俺もそれ貰ったな〜奴隷解放の際に、俺はキャラバンの中で溜め息を吐きながらお嬢様を見た。
お嬢様は真剣な面持ちで冒険者達と警備に就いていた。




