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━森の洞窟付近━
夕方
俺はマジックバッグから改めて取り出したバリスタを洞窟の正面に設置して発射準備に入った。
バリスタを出した際に一緒に出て来た取り扱い説明書によると連射式バリスタ、2度迄の連射が可能とあった。
俺は説明書の通り弓矢を2本取り付けお嬢様に準備が完了した事を伝えた。
「では獲物を此処まで連れてきて頂戴。」
お嬢様はそう仰られるとバリスタの引き金に手をかけ嬉しそうに微笑まれた。
俺は体内の魔力を高め身体強化を行い夜目の目薬を指した上に松明に火を灯し洞窟の中におっかなびっくり入って行った。
洞窟の中は然程の広さはなく100メートルと往かずオーガはあっさり発見出来た。
親子団らんの食事中であったらしくこちらの接近に気付くのは遅れたらしい。
俺としては洞窟のすぐ側でお逢いしたかったのだが何事も此方の思い通りには行かない。
俺は火の付いた松明をオーガに投げ付けて外に向かって走った。
松明をぶつけられて怒ったのか、オーガの成体はドデカい雄叫びを上げて迫って来た。
俺は震えそうになる足を必死で動かして洞窟の外に走って逃げた。
後ろから迫ってくるオーガの気配を感じ、俺は必死で足を動かす。
今までの人生で最も速く走って逃げているのにオーガの気配はどんどん近づいて来やがる。
俺がやっとの思いで洞窟の外に跳び出した瞬間お嬢様の命令が響いた。
「ゴン、伏せ!」
お嬢様は俺目掛けてバリスタの引き金を引かれ、俺はその指示を聞いた瞬間た大地に倒れ伏した。
そしてバリスタの矢は俺を掠めるように後方に飛んで行き見事オーガの胸を貫いた。
"グゥゴォ〜"
オーガは俺の存在など忘れたかの様に、お嬢様の方を向き大型獣の叫び声を轟かせながら威嚇した。
その様子を見たお嬢様はとても嬉しそうにもう1度引き金をひかれた。
動かなくなったオーガを見てもまだ生きた心地がしていない俺にオーガの討伐部位の処理を命じた。
「所でオーガの幼体はどうしたのです。」
お嬢様の答えに逃げるのに必死でそれどころではありませんでしたとお答えすると、
お嬢様は仕方ありませんね、では私が処理してきましょうと仰い松明を片手に洞窟に入って行った。
・・・あれは絶対なぶり殺しにして楽しむ積もりだ。
俺は心の中で突っ込みを入れオーガの首を外しに掛かった。
洞窟の中でオーガの幼体と追い駆けっこに興じているお嬢様を尻目に、俺はオーガの解体を終えた。
後はバリスタを仕舞うだけと、そう思った時に俺はふと考えた。
お嬢様の事だからオーガの幼体もこれで射殺すとか言い出すんじゃ・・・俺は後々迄、この時の直感を信じて良かったと思い続けた。
俺がバリスタの矢をもう1度設置し終えた頃、森の中から雄叫びが聞こえた。
俺は慌てて振り向くとそこにはさっきのオーガの身長を遥かに超えたオスのオーガが立っていた。
俺はこの巨大なオーガに睨まれて身体が固まって動く事か出来なくなった。
俺の目が可笑しくなっていたのか解らないが、オーガは俺が動けないのを知ってるかの様にゆっくりと近付き俺を捕まえようとした。
"あっ喰われる"
そう感じた俺の身体は俺の意思に関わらずその場を転がりオーガの腕を避けた。
避けられるとは思って居なかったらしいオーガは俺の態度に怒り、凄まじい雄叫び上げ俺を追いかけて来た。
洞窟の中ではお嬢様とオーガの幼体の追いかけっこが行われ、洞窟の外では俺とオーガの追いかけっこが始まっていた。
ただのまぐれだが、俺は最初の一撃をかわす事が出来たお陰で大分冷静になる事が出来た。
3メートル近い巨体のオーガの攻撃は基本大振りで当たれば1発で吹き飛ぶこと受け合いだが当たらなければ何とかなる・・・怖いけど
俺はオーガの攻撃を避けることにひたすら集中した。
俺とオーガの追いかけっこが小一時間も続いた頃、お嬢様が洞窟から出て来られた。
「あらっゴンは別のオーガと遊んでいたのね。」
そう仰るお嬢様の暢気な声にオーガが動きを止めた。
これが遊んでいる様に見えますか?
そう突っ込みをいたい所だが息も絶え絶えの俺はオーガの動きに注視しながら、お嬢様にお逃げくださいと伝えるのが精一杯だった。
俺はオーガの次の動きを警戒していたが、オーガの奴は洞窟から出て来たお嬢様の手に持たれている物を凝視して動きを止めていた。
「あらっ此方のお子さんのお父様かしら?」
そう言ってお嬢様はニヤリとお笑いになると手に持たれているオーガの幼体の首をオーガに向かって軽く投げた。
オーガは足元に転がった首を抱き懐くと今まで聞いたこともない雄叫びを上げお嬢様に突進しようとした。
このままじゃお嬢様が殺される!
俺は咄嗟にマジックバッグに手を突っ込むと馴染みのバトルアックスを取り出し、オーガの足元に叩きつけた。
俺の攻撃は精々オーガの足の指を数本斬り飛ばす事しか出来なかった。
ほんの一瞬だけだが動きを止め此方を向いたオーガだったが、俺の存在など、どうでも良いと言いたげにお嬢様を探した。
その短い時間の中で、お嬢様は颯爽と歩きバリスタの前に立たれた。
「それではご機嫌よう。」
そう仰られたお嬢様は躊躇いなくバリスタの引き金を2度引かれた。
2本の矢は見事にオーガの身体を貫いて居たが、オーガはそれすらも気にする事なくお嬢様に向かって歩き出そうとした。
俺はオーガの腰に命一杯の力を込めてバトルアックスを叩き込んだ。
オーガは地面に横たわりながらもお嬢様を睨みつけ前に進もうともがいた。
俺はふらつきながらオーガの首にバトルアックスを叩き込んだ。
オーガの動きがやっと止まった所で、俺は溜め息を吐きながらお嬢様を見た。
お嬢様はそれはそれは嬉しそうな顔をして此方を見ていた。




