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━奴隷長屋ゴンのベット━


早朝


朝日の中をとても良い笑顔で笑ってる我が主メアリー様、

しかしその身に纏いし服は昨日の戦闘の際の血塗れのまま、

そんな格好にも関わらず俺の寝ているベットの上で仁王立ちに立ってふんぞり返っていらっしゃる。

そんなどう考えても頭のネジをお母上の御腹の中に落として来たと思われる我が主、それでも主には代わりない。


「畏まりました、お嬢様。」


俺は下からお嬢様を見上げながら、このご主人様との微妙なご縁を思わずにはいられなかった・・・




俺の親父は神殿の神官戦士だったらしい。

らしいってのは、まぁお袋から聞かされた話が本当ならと言う事だ。

そのお袋はと云えば神殿所有のメイド奴隷。

その腹から産まれた俺も当然奴隷だ。

しかし奴隷としての俺は運の良い方だと思う。

まずもって産まれた場所が神殿だった。

神殿に産まれた子供はいきなり売られる事なく神殿である程度の期間育てられる。

そうして子供達は例外なく文字の読み書き計算礼儀作法を仕込まれる。

その中で出来が良く魔法の素質に恵まれた子供達は神官として育てられる。

それ以外の子供達はまぁ結局売られるんだけど。


しかしこれだって他の奴隷の子と比べたら大分ましだ。

少なくとも文字の読み書きや計算など必要な事は仕込まれているだけに高値で商人に買われる。

その中には才覚を見込まれ奴隷の身から解放され平民となった者もいる。

まぁ少数ではあるが・・・


しかし商人向きでないの奴隷の子は別の道もある。

ガタイが良くって力仕事に向いてる様な子供の場合、信心深くて魔力がある子は、神官戦士になったりする。


俺も父親?と同じ神官戦士希望だったがほんのチョット信心が足らないと云う事でなれなかった。

神官になった友人曰く、神殿に立ち小便を引っ掛けてるのを見られたのが致命的だったらしい。


そして神殿が俺に命じた仕事は墓掘り(アンダーテーカー)だった。


昼間の墓掘り人は何て事のない葬儀屋だ。

神官の補助をしながら亡くなった人をお墓に埋葬する。

これだけだったら俺の仕事はどれ程楽だったか知れない。


問題は夜のお仕事の方だ。

昼間埋葬した死人がナニが不満か知れないが墓から這い出して来て墓地の中をうろうろと歩き回る。

百歩譲って墓地の内側だけならまだいい。

これが街の中にでも出られた日には神殿の権威は急降下しかねない。

その場合お偉いさんからとんでもない大目玉を頂く事になる。

具体的には鉱山送りか最前線送り、どっちにしても神様の所に一直線に送られる。

まるで神様に叱られてこいと言わんばかりに・・・


つまり夜の墓掘り人のお仕事はふらふら歩き回る死人(ナイトウォーカー)を元の墓に戻すと云う面倒くさいお仕事だ。


神官長様曰く、1に体力があり、2に魔力も多少也ともある者がベスト、つまり俺にはぴったりのお仕事だそうだ・・・俺はそうは思わないが、


このふらふらしてる死人だが、大きく分けて2種類いる。

1つはこっちの云うことを素直に聞いてあっさりお墓に戻ってくれる方。

ア〜とかウ〜とか云う言葉を分からないなりにハイハイと聞いてやれば素直に戻ってくれる大変結構な方々だ。


問題はもう1つのタイプだ。

生前にナニがあったか知れないが、こっちに向かって喧嘩を売ってくる奴等だ。

コイツらにはもう何を言っても無駄!


コイツらは俺達墓掘り人がご飯か何かに見えるらしく躊躇なく襲い掛かって来て喰おうとする。

最初は話を聞けば前者の様に墓に戻ってくれるかと思ったがまったく無駄だった。

そんな奴等にはこっちもそれなりの方法を獲らねばならない。

具体的にはシャベルさんを使ったボディートークだ。

まずは襲い掛かって来るアンデットをシャベルでぶん殴る。

ひっくり返って倒れた死体の首にシャベルさんを叩き付け切断。

その後、頭と身体を墓穴に放り込む。

これを朝まで数回繰り返す。

まぁ体力を使う職場だ。

そんな仕事を数年間続けてグロ耐性も出来上がった頃俺はお嬢様に出会った。


お嬢様はあるやんごとなき方(王族)のお子なれど大人の事情によってお一人で暮らしていられた。

モチロン執事さんやメイド等はいるが。

そんなお嬢様が何をとち狂った・・・もとい思ったか一念発起して冒険者になろうと思われたらしい。


当然回りに相談したら反対の大合唱が起こるのは分かっていたお嬢様。

良くも悪くも行動力の塊なお嬢様は誰にも相談せず一人ギルドに赴きあっさり冒険者に登録、その後ギルドの受付の意見も聞かず1つの依頼を受けた。


依頼内容は、王都の協同墓においてアンデットの発生が多発している件につき墓地に赴き墓掘り人の手助けをする事。


この依頼は新人冒険者に経験を積ませる為にギルドが発注した仕事だ。

ただしこの仕事には条件がある、体力に自信のあるパーティーと云う条件が・・・

モチロンお嬢様はそんな話は聞くことなく単独で墓地に向かい、そしてアンデットに囲まれた。


俺がお嬢様を初めてお見受けしたのはアンデットの群に囲まれ、命の危機にありながら愉しそうに剣を振り回している冒険者としてのお姿だった。

どう見ても助けが必要な状況なのだが、まったく助けを呼ぶことなく愉しそうに戦っている頭のおかしな冒険者。

助けて良いのか悪いのかほんの少しだけ悩んだ。


しかしあのままじゃ冒険者さんがアンデット汁まみれになるのは確実だし、ナニよりも死体がグチャグチャにされるのはお片付けする俺としては本当に勘弁して欲しがった。


そこで俺はアンデットの後ろから近付きシャベルで1体ずつひっぱたいて回った。

勿論倒れたアンデットの首にはシャベルを叩き込んだ。


ある程度のアンデットを処理した頃、やっと冒険者はこちらの存在に気づいたらしい。

こちらが最後の一体の首をはねると、冒険者はこちらを睨み付けながら文句を言って来た。

「そこの貴方なぜ私の獲物を横取りするのです!」

俺としては礼の1つも云われるかと思ったが予想外の答えに思わず大変失礼いたしましたと、奴隷根性で謝ってしまった。

俺の謝罪を聞いた冒険者は何かに納得されたのか分からないが一言、許しますとおっしゃられた。

その言葉を聞いた俺はやはり奴隷根性のまま深々と頭を下げた。

その様子を見ていた冒険者は、俺に名前を聞いて来た。


「はいっゴーンと申します。」

俺は頭を下げたまま答えた。

「ふーんゴンね、覚えておきましょう。」

そう言った冒険者は颯爽と汁まみれにの服装のまま墓地から去って行った。

「ありがとうございます。」

俺はゴーンですと訂正するのもなんなので素直に礼を言った。


次の日、俺の主は神殿からお嬢様に変わっていた。


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