5
━冒険者ギルド━
朝
朝の鐘が授業の開始を告げる頃、教室に先生が入ってきた。
それまで大騒ぎしていた子供等も慌てて席に着いた。
「はい、今日からこのクラスのお友達が一人増えます。」
先生の話に回りはガヤガヤと騒ぎ足す。
"パンパンッ"
「はい、騒がない!
それじゃあ入ってきて、」
転校生は穏やかな表情で挨拶をした。
「今日からお世話になります。ゴーンです、宜しくお願いします。」
・・・どうしてこうなった。
━お屋敷━
夜
「この馬鹿者〜貴様が着いていながらなんたる様だ!」
「そんな事を言われても・・・」
俺の反論を遮って執事殿はまたお説教を続けた。」
「だまらっしゃい、あのパープー娘が、迷宮都市に来ればまた暴れ出したいと云うに決まってるではないか、ならば従者足るものその地域の狩に着いて調べておくのは当然の事ではないか!」
俺は執事殿の言葉にグウの音も出ないでいた。
「ほう?爺、パープー娘とは一体誰の事を言っているのじゃ?」
何故かそこに目を光らせているお嬢様が参戦してきた。
二人の言い争いを聞きながら俺は確かにこのままじゃ行けないと感じていた。
俺は二人の不毛な争いが一段落した所でお嬢様に謝罪した。
「確かにこの度の失態は私の責任です、申し訳ありませんでした。」
俺がそう言うとお嬢様は俺の目の前に1枚のパンフレットを突き出した。
「先程冒険者ギルドの方に申し込みをしてきました。
ゴンにはこれに参加して貰います。」
お嬢様の手にしたパンフレットには、新人冒険者研修と書かれていた。
確かに王都の冒険者ギルドにもこんなのが有ったような、しかしここはベテラン揃いの迷宮都市、新人研修って・・・
俺が首を傾げているとお嬢様が言いました。
「命令です。」
俺はその言葉を聞くと素早く頭を下げ畏まりました、と答えた。
━冒険者ギルド━
朝
こうして俺は新人研修に参加する事なった。
参加している顔触れを見る限りにおいては冒険者学校と云うよりは小学校に見えるのだが・・・
俺は子供達に文字を教えているサンドラ先生に質問した。
「サンドラ教官、宜しいでしょうか?」
「はい、ゴーン君何処が判らないのかな?」
「そうですね、色々ありますが、一番分からないのは、冒険者の研修に来たはずなのに、何故私は子供達の文字の書き取りの手伝いをしているんでしょうか?」
「それはね、ここが新人冒険者研修とは名ばかりで実際には冒険者の子供達を預かる託児所だからよ。」
・・・成る程、サンドラ教官のお話を聞かせて貰って至極納得した。
迷宮都市に来る冒険者に新人何ていない。
当然新人研修なるものを受講する人間もいない。
しかし各ギルドの規定で職業訓練学校等の設置は義務になっている。
そこで建前上は新人冒険者の研修とし、実際には冒険者の子供達を預かる託児所にしたそうだ。
そしてこの託児所の評判が冒険者から非常に良いらしい。
安心して子供を預けられる施設として非常に評価されているとか・・・
結果として俺は冒険者研修ではなく子供達の読み書きの手伝いをする事になった。
1ヶ月
━冒険者ギルド━
午後
学校のお手伝いをやって見て思った事は、この仕事は大変遣り甲斐のある仕事だと云う事です。
子供達に読み書き計算を教える生活、
子供達の日々の成長に感動する毎日・・・正直このまま寺子屋の先生になるって云うのもありなんじゃないか、
そんな事を思いながら子供達を寝かしつけ、お昼寝をさせる。
そして子供達が寝静まった後に俺の研修は始まる。
身体を動かす研修は子供達がいるので無理な為、座学を中心に学ぶ。
迷宮都市の内部にいる魔物の種類とその攻略法、持って帰るべき部位等、色々な事を教えて貰った。
何より有り難かったのは、ここに子供達を迎えに来る親(現役バリバリのベテラン)からも教えて貰える事だ。
本来から金を積んでも聞けない様な貴重な情報が、子供の先生と云う事でただで教えて貰える。
俺はここで迷宮都市の冒険者としての知識を蓄えていった。
3ヶ月後、
━冒険者ギルド━
夕方
「え〜今日で、ゴーン先生は研修を終了したためお別れとなります。皆と一緒にお勉強出来た日々を先生は絶対忘れません、皆ありがとう。」
「「先生辞めないで〜」」
俺の卒業式に泣きじゃくる子供達をサンドラ教官や親御さん達は涙ぐみながら見ていた。
その中には、何故か涙する執事殿と苦虫を噛み締めた顔をするお嬢様の姿があった。