第1章(7)
コーデリアと講堂へ戻ると、教壇の上には、長い銀色の髪を一つに束ねたエルフの女性が、立っていた。透き通るような白い肌に尖った耳。目には銀製の丸眼鏡がかけられている。教卓の上には、分厚そうな茶色の本が置かれている。よく見ると、それは先程妖精達が渡してくれた本と同じものだった。
コーデリアがクリスティーナに小声で言った。
「さあ、授業が始まります。一番後ろの席が空いていますので、そこに座って授業を受けるように。後は、先生方がうまくやってくれます。分からないことがあったら、先生方に訊くように。それではいったん、私はこれで失礼します」
コーデリアは言うだけ言うと、フード付きのローブを翻して、その講堂から出て行ってしまった。取り残されたクリスティーナは、とりあえず言われた席に座ると、教壇にいるエルフが、講堂の中の生徒一同を見回した後深呼吸を一つした。それから小さな咳払いをした後に、エルフはできる限りの大きな声で話し始めた。
「皆さん、初めまして。私はナターヤと言います。今日からあなた達に白魔法を教えることになります」
ナターヤの声は緊張のためか、ぶるぶると震えていた。顔も白い顔からほんのり赤い顔へと変わり始めていた。
クリスティーナは、ナターヤが、なんだかかわいそうな気がした。きっと人前に出るのが苦手な人なのだろう。なのに、こんな教える仕事に就いていていいのかしらと思った。
ナターヤは震える手で、分厚い本の一番最初のページをめくった。
「それでは魔法書の第一巻目の、1ページ目を開いてください」
クリスティーナとその他の生徒達は、ナターヤに言われたように1ページ目を開いた。
開いてみるとそこにはこんな文字が書かれていた。
『魔法とは何か』
「本は三冊ありますが、三冊通して、魔法とは何かということを常に考えながら、勉強していきます。最終試験は、この問いに答えるというものになります。この問いに答えられない者は、不合格となり、魔法使いにはなれません」
さっきまで、自信なさげだったナターヤの声が、一際大きく、しっかりとしたものへと変わった。そして講堂の中にいた生徒達が、ざわめいた。
クリスティーナは、一言も声を出さなかったが、心の中はざわついていた。
魔法とは何かですって。今私が一番知りたいことがそれだっていうのに。それに答えなければいけないなんて、なんて、難解な問いだろう。学んだ結果、私の中に何か残ればいいけど。不安に思いつつも、クリスティーナは講義の行方を見つめていた。