第1章(3)
魔法の都。そこは濃い緑色の葉が生い茂る森の中にある都だ。耳をすますと小川のせせらぎも聞こえてくる。人々の姿も見えず、家も木のうろにドアをつけたものや、木の上に小屋が作られていたりと、自然とともに生きる姿勢が見られる場所だった。都というより、田舎の村に来たといった方がよいかもしれなかった。クリスティーナはそののどかな美しい風景に癒されながらも、目は魔法の都の住人を見つけようとしていた。しかし人っ子ひとり見あたらない。目に入るのは、魔法の都と書かれた立て札だけである。
自分の中に魔法の能力があるのか、試すにしても、いったいどこへ行ったらよいのか皆目見当もつかず、クリスティーナは途方に暮れていた。しばらくどうしたものかと思案していると、道の向こうから干し草をたくさん積んだ荷車を牛に引かせている男がやってきた。
日よけの麦わら帽子をかぶり、日に焼けた肌が印象的なその中年の男性は、穏やかな表情を浮かべながら、まるでその辺りのご近所さんに会ったかのように親しみ深げにクリスティーナに声をかけた。
「こんにちは。見かけない顔だが、どこの魔法使いさんかね」
「いえ、私は星の都から来たもので、魔法使いではありません」
「ほほう。おまえさん、魔法使いじゃないのかね」
男は、さも驚いたように麦わら帽子に手をやった。
「ええ、そうなんです。私自分に魔法の才能があるかどうか確かめたくてやってきたんです。だからその、魔法使いの方とお会いしたいと思ってるんですけど、この都にやって来てからそれらしい人が誰もいなくて困っていたんです。この辺りで魔法使いをやっている方をご存知ありませんか」
「ははは。おもしろいことを言う人だのう。魔法の都に住む者は皆魔法使いなんだよ」
「ということは……」
クリスティーナは、まじまじと男の頭からつま先までを見つめた。しかしどう見ても、旅の途中で見かけた農業に従事している村人と同じようにしか見えなかった。当惑気味のクリスティーナに、男は言った。
「そう、私も魔法使いだ。しかし魔法使いだからといっても農業だってする。食っていかなくてはいけないからな。何しろ私達は魔法使いである前に人間であるからね」
「人間?」
「まあ、人間というより、動物といった方がいいだろうね。動物は自然とともに生きている。私ら人間は自然とともにあるのさ。そして魔法も自然の産物だ」
「魔法は人類が編み出したものではないんですか」
彼女は不思議に思って疑問をぶつけた。
「呪文は人が考えているが、魔法の根本的な力は自然からきているんだよ。人はどうあっても無からは何もつくれないからね」」
「そんなことはないんじゃないでしょうか……」
クリスティーナは、少し口ごもりながらも、男の目を見据えて異を唱えようとした。
「あなたはどうやら魔法に可能性を期待しいてるようだが、魔法にも限界があるのだよ。私もかつてはいろんなことを夢見た。しかし世の中には違うことがあったりするものだ。まあ、それはあなた自身が学んで行けば良いことだ。魔法とはどんなものかをね」
男は片目をつぶって、微笑んだ。
クリスティーナは、なんだかはぐらかされたような気分だったが、丁寧な口調で答えた。
「分かりました。自分で考えてみたいと思います。ですがどこで学んだらいいのでしょうか」
「見たところ、第一関門は、難なくクリアしてるみたいだから、平気のようだがね」
「第一関門?」
「魔法の才能のない者は、その立て札からこっちには入れないことになってるんだよ。その立て札
を境にして強力な結界が張ってあるからね」
それを聞いたクリスティーナは興奮して頬を染めた。
「じゃあ、じゃあ私は魔法使いの才能があるってことかしら」
勢い込んで言ってくる彼女に男は、まあまあと手のひらを見せて、落ち着かせようとした。
「才能があるからといって魔法使いになれるかどうかは分からないよ」
「どうしたらなれますか」
「なれるのは、修行次第だと思うがね。とりあえず魔法学校に行ってみるがいい。そこで基本的なことは教われると思うよ。魔法学校はこの道なりに行ったところだよ」
「ありがとうございます!」
彼女は初めて男に笑顔を見せると、礼を言ってお辞儀をした。男はクリスティーナの瞳がきらきらと輝くのを見ると、麦わら帽子を目深にかぶり直した。そうして小さく呟いた。
「まあ、魔法には気をつけることだ」
「えっ。何か言いましたか」
よく聞き取れなかったクリスティーナは、男の方に顔を向けたが、
「いや、何でもない。気をつけてな」
それだけ言うと、男は牛を連れて行ってしまった。
クリスティーナは気を取り直すと、魔法学校へ向けて歩き出した。




