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月の光(2)  作者: はやぶさ
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序章(2)

食堂では、不安そうな表情をしたバーバラが待っていたが、一同が扉を開けると、さっきの言い争いが無事に終わったことを知り、彼女の顔には笑顔が戻った。さっそく彼女は食事の給仕に取りかかった。

皆、それぞれの席につくと、目の前の料理を眺めた。


焼きたてのパンにこってりとした大きめのソーセージ、スクランブルエッグに取り立ての野菜、温かなカボチャのスープに、皿いっぱいにのせられた果物。バーバラが各自の皿に、それぞれを取り分けると、トラヴィスが言った。


「何はともあれ、皆がそろって食卓につけたことは幸いだ。さあ、多いに食べて、朝の活力を得よう」

トラヴィスはまだ納得いってない気持ちだったが、だからといってうだうだ言う気も起こらなかった。ただひとり息子が、やっかいごとをまた家に持ち込まないことを祈るばかりだった。

そんな父親の気持ちとは裏腹に、ルイスはメンフィスに、これからまた異世界に行くに当たって、どこを目指すべきかを相談し出した。

「僕はかつて大魔法使いだったって言ってたけどその頃の僕を知っていそうな人とか場所とかはないの?」

メンフィスはスクランブルエッグをスプーンですくいながら答えた。

「おまえがどんな人に会い、どんな行動をとっていたかは知らないが、もし行くとしたら、勇者の町だね」


「勇者の町? 勇者って言ったら、フィルに剣指南をしたネオビスのことじゃないの」

「それはそうだが、勇者にもいろいるんでね。南の島の勇者だったり、北の国の勇者だったり、地域によっていろんな勇者がいるのさ」

「ふーん、そんなにたくさんの勇者がいるのかあ。それでそこの勇者の町に行くと勇者に会えるの」

ルイスは焼きたてのパンを手でちぎり、バターをたっぷり塗って口の中へと放り込んだ。久々の焼きたてのパンはぱりぱりとした食感とともに甘い風味をともない、ルイスの味覚を喜ばせたが耳だけはしっかりとメンフィスの言葉を聞いていた。


「勇者というより、勇者にこれからなろうとしている者や、勇者と一緒に戦う魔法使いや剣士、怪我を治療してくれる薬草使いなどが集う町、まさに旅の仲間となる出会いの場所なのさ。大魔法使いだったおまえもまた、誰かと一緒に旅をしていたのかもしれない。ひょっとしたらその時の旅の仲間のことが聞けるかもしれないよ」


メンフィスはスクランブルエッグを何さじか食べた後、カボチャのスープをすくった。そのスープを見て、ルイスは唐突に太陽の都に住むリーゼのことを思い出した。彼女がごちそうしてくれた太陽の実のスープの味と彼女の優しいもてなしがふつふつと蘇ってきた。彼女は変わらない日常の中、今もまたあの果樹園で過ごしていることだろう。僕だってこのまま家にとどまれば、彼女と同じように変わらない日常を送れるかもしれない。けど……。そう思った時、メンフィスが重い口調で語った。


「勇者の町もいいが、あとは太陽の塔にいる大魔法使いに会うべきかもしれないね。本来彼の後を継ぐのがおまえだったんだよ」

「えっ、継ぐって何を? それに彼にはもう会っているよ」

「異世界の中枢を担うのが大魔法使いの役目。その役目を次の後継者であったおまえが本来継ぐべきだったのさ。しかしおまえがこんなことになってしまったからね。今の大魔法使いがおまえのことをどう思っているか、聞くべきだろう」

「どうも思うも、彼は僕とは全く話さなかったよ」

「それは彼がおまえであることを知らなかったか、それとも何かあるのかもしれないね」

「何かあるって、何が」

ルイスは食い入るようにメンフィスを見た。知ってることがあるなら、洗いざらい話して欲しい。ルイスは真剣にそう思った。

「私はただの魔法使いだからね。何があるかまでは私には分からないよ、残念ながら。それを見つけるのが、おまえの仕事だろ。さ、分かったなら、食事だ、食事。勇者の町には、私がさっきの魔法を使って連れて行ってやるからね」

メンフィスはスプーンを振って、片目をつぶってみせた。さあ、元気を出すんだよと言わんばかりに。


ルイスは気持ち的に勇者の町については心そそられたが、太陽の塔についてはあまりいい気分にはならなかった。威厳のある大魔法使いヌアクルそしてその側近のラティアス、何を考えているか分らない二人に会うのはとても気が進まないことだった。


その一方で、魔法の都へ行くと言っていたクリスティーナのことが頭をよぎった。彼女だって、魔法の都がどうしても行きたい場所というわけでもなかっただろうに。それでも彼女は何かを求めて行ったのだ。自分もそれを見習わなくてはいけない。とにかく手がかりのあるべき場所には僕も行かなくてはいけない。それに月の光を託せる勇者がいるのかいないのかも調べなくてはいけない。

『よし! がんばろう』

ルイスは気合いを入れると、食卓に並ぶ食べ物という食べ物を、どんどんつめこみ、旅に出る前の腹ごしらえをしっかりしたのだった。


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