第2章(6)
白魔法の最初の講義は、薬草の元になる植物や木、採取の仕方、利用法について覚えることから始まった。
「よく道端に生えている白い小花があるかと思いますが、名前をアグリア草と言います。本に絵がのっていると思いますが、その絵を杖の先端で叩いてください」
見ると本には黒インクで描かれた小花がのっていた。しかしこれでは白色なのかどうか、皆目見当がつかなかった。この絵を頼りに、アグリア草をさがしてこいと言われても困難を極めそうだった。とにかくナターヤの言葉通り、絵を杖で叩いてみると、驚いたことに本の中から白い小花が咲き出した。突如現れたその花に、クリスティーナは思わず触れようとした。けれども彼女の手は何もない空間をとらえただけで、花をつかむことはできなかった。
「本の中の植物は本物ではなく、鑑賞用の魔法がかかっています。見るだけのものなので、触ったりはできません」
ナターヤは講義を聞いている生徒達に注意を促した。
「この魔法で、植物の特徴をよく捉えるように。では、次にアグリア草の採取すべき部分を教えます。アグリア草で重要なのは根っこです。まず、土から根を掘り出し、水洗いします。その後、根を輪切りにして天日干しします。日にあてた後は輪切りした根を、小鍋に水を入れ、ことこと火で煮ます。小鍋の水が半分ぐらいになるまで煮た後は、食後三回に分けて飲むと、打ち身に効きます。次は、グリーンタフタという植物について説明します。アグリア草の下にのっている絵を見てください」
ナターヤは単調な口調で、順々に説明していった。切り傷や、風邪、咳止め、胃の調子を整えるもの、脚気に効くもの、いろんな効能がそれぞれの薬草にあったが、魔法とは全く無縁な知識だった。
「煮詰めるなんて、メイドのやる仕事よね」
クリスティーナの左隣に座っている女生徒が、軽蔑したようにぼやいた。
「でも大事なことよ。煮方によっては毒になるものもあるのよ」
ぼやいた女生徒の左隣に座っているもう一人の女生徒が、やんわりと諭した。
「あなた、私に意見するなんて生意気ね。私がどこの出の者か知らないからそんなこと言えるのよ」
よく見ると、その女生徒の指には光り輝くダイヤモンドがはめられ、首には、大きなエメラルドのネックレスをつけていた。羽織っているローブもまた、ワインレッド色の高級そうな布地だった。一方、諭した女生徒は、着古した若草色のワンピースに、継ぎの当たった灰色のローブを羽織っていた。