第2章(5)
ナターヤの講義が始まると、クリスティーナは、一字一句聞き洩らすまいと、真剣に耳を傾けた。
「まず、魔法使いには二種類の魔法使いがいます。」
背の低い、ナターヤは、めいっぱい手を伸ばし、講堂の中央に設置された黒板に、次の文字を書いた。
白魔法使い
黒魔法使い
「白魔法使いは、薬草を使ったり、回復魔法を使う魔法使いです。一方黒魔法使いは、攻撃魔法を使ったり、金を作ったりする魔法使いです。そして白魔法も、黒魔法も使いこなせる魔法使いこそ、大魔法使いです。しかし大魔法使いは、最たる魔法能力に長けた者しかなれません。この魔法学校を卒業できた者は、白魔法使いになるか、黒魔法使いになるか、どちらかを選ばなければなりません。その選択は、生徒であるあなた達の意思にゆだねられます。なので、講義を受けながら、どちらにするか検討しておいてください。それでは、白魔法の講義を始めます。それでは二ページ目を開いてください」
「はい、先生。質問があります」
教壇の前に陣取っていた少年が、手をあげた。
「はい、どんな質問ですか」
「大魔法使いになることを、選ぶことはできないんですか」
その言葉にナターヤは、びっくりした様子で肩を震わせた。しかし彼女は目きょろきょろさせながらも、こう答えた。
「大魔法使いは、特別な魔法使いなのです。誰もがなりたくてなれるものじゃないんです。そもそも両方の魔法を使いこなせる者は、そうそういないのです。それもありますが、偉大なる魔法の功績を残した者しかなれないのです」
「偉大なる功績って、たとえばどんなことを言うのですか」
少年は、興味津々といった様子で訊いてきた。
「国を脅かす怪物を倒したり、恐ろしい伝染病から、人々を救ったりすることです。今現在、大魔法使いは四人います。誰もがなれる魔法使いではありません。全てはこの魔法学校を無事に卒業してからの話です。よろしいでしょうか。他に質問はありませんか」
「はい、大丈夫です」
少年は、ちょっと残念そうな顔をしたが、こくりと頷いた。
「それでは、二ページ目の出だしからいきます」
ナターヤの静かな声が、本の最初の文字を読みだすのと同時にクリスティーナの目は大きく見開かれた。ナターヤがさっき説明した大魔法使いのことが、彼女にとっては衝撃的だった。太陽の塔で会ったヌアクルの姿と、ルイスの姿が重なって行き、クリスティーナの心臓の鼓動は速まった。大魔法使いとは、そういう者なのだと知った彼女は気が重かった。魔法使いになれば、いいと思っていたが、どうもそれだけでは駄目なのだということを思い知らされるのと同時に、ルイスはかつてものすごい人物だったことに気づかされた。そしてルイスもまた、過去にこの魔法学校で学んだ生徒だったのだろうかと思うのだった。