第2章(4)
しばらくお酒を何杯か続けて飲むと、彼女は言った。
「で、あんた。名前はなんっていうんだい」
急に訊かれてルイスは戸惑ったが、小さく名乗った。
「僕の名前はルイスです」
「ほう、あんたルイスっていうのかい。私は私でルイって呼ばれてはいるけど、本名はルイーゼだ。ルイーゼだと、言いにくいから、みんなルイって私のことを言ったりするけど、ルイとルイスじゃあ、間違えそうだから、私のことはイーゼと呼ぶといい。よろしくな、ルイス」
「あ、はい。イーゼさん」
「さんはいらない。イーゼでいいよ」
イーゼは笑いながら、そう言った。
「さてと、名前が分かったところで、場所を移すか。どうやら訳ありみたいだし、聞かれちゃまずいってこともあるだろ。店主、そういうわけだから、お勘定な」
「はいよ。いつもと同じ額で頼むよ」
邪魔したなとばかりに立ち上がったイーゼに、店主は忠告した。
「どうやら今回の旅は大変になりそうだな。準備は万端にしていくんだぞ、ルイ」
「分かってるさ。これからガルドのところに寄る予定だ」
「それはいい。いい薬草をくれるだろうさ。それじゃあ、気をつけてなルイ」
「ああ」
イーゼはお勘定を店主の前に置くと、ルイスに告げた。
「それじゃあ、行くか、ルイス」
「あ、はい」
ルイスは慌てて答えると、さっさと歩いて酒場を出て行くイーゼの後を追った。
つかつかと歩いて行くイーゼに、ルイスは早足で追いつきながら、彼女に訊いた。
「あの、さっき言ってたガルドさんって方は」
「私の幼い頃からの知り合いだ。まあ、親友だな」
「男の人ですか?」
イーゼが女性なので、親友ならば女性ということもありうる。そう思ったルイスはとっさに訊いていた。
「安心しろ。今度は正真正銘の男だ」
イーゼは笑って受け流した。
「その人は魔法使いですか?」
さっきの会話の中で薬草がでてきたので、ルイスはガルドが魔法使いかもしれないと推測した。もし、魔法使いならば、かつて自分が大魔法使いと名を馳せていたことを知っている人物の可能性もある。それならばと思い訊いたのだが、イーゼの答えはそうではなかった。
「ガルドは薬草使いだ」
「薬草使い?」
「魔法使いよりも薬草に詳しい連中のことさ。ガルドは薬草使いの中でもいろんな薬草に精通している奴だ。それに博識だ。なんだ、薬草使いじゃあ、不服か」
「そ、そんなことはないです」
ルイスは思い切り首を振った。
「ただ僕は、大魔法使いのことも知りたいんです」
「大魔法使いか。太陽の塔にいる魔法使いのことだな。ガルドだったら多少の知識はあると思うぞ。あいつほんとは薬草使いじゃなくて、魔法使いになりたかったみたいだからな」
「魔法使いになりたかったけど、ならなかったんですか、その人は」
「まあ、誰もがなれるもんでもないからな。詳しいことはガルドに直接聞くといいさ」
イーゼは、ふっと笑うと、人の賑わう路地裏を通りながら、ルイスをそのガルドの元へと連れて行った。