第2章(3)
「あ、はい」
ルイスが素っ頓狂な声をあげると、青年が笑って言った。
「やれやれ、今日はずいぶん変な客が多いなあ、店主」
「そうさなあ、子供の客はなかなか来ないからなあ。で、君誰かのお使いで来たのかい」
店主はやさしい声で訊いてきた。
「いえ、そうじゃなくて。僕はこれから旅に出るんで、それで、旅の連れを探してるんです」
「へえ、旅の連れ探してるの?」
青年は物珍しそうな顔をして、ルイスを見た。色白の顔に切れ長な目、すっとした鼻筋に長い栗毛の髪を一つに束ねた彼は、冗談抜きに奇麗という言葉が似合いそうな顔立ちをしていた。
「どこへ行くんだい」
彼に尋ねられ、ルイスは一瞬答えに詰まった。
「えっとー、そのう……」
「男のくせに煮え切らない奴だなあ。そんなんじゃあ、魔物に食い殺されちまうぞ」
「子供を脅すなよ、ルイ」
店主がたしなめると、青年は首を振った。
「何言ってるんだい、脅してるわけじゃないさ。最近ここらは魔物が出るようになってきているのは、事実なんだから。あんたもそれくらい知ってから旅に出た方がいいよ」
酒のコップをくいっと上にあげながら、鋭い目つきで、ルイスをじっと見た。
「で、結局どこへ行くんだい」
店主が二人の間を取り持つように、訊いてくれた。
「人探しなんです」
「人探しとは、それは厄介だなあ。で、何って奴を探してるんだい」
「誰ってわけじゃないんですが、この剣を託せる人を探してるんです」
ルイスは腰につけている月の光をはずすと、二人の前に置いた。
「おー。子供が持っている割には、ずいぶんと豪勢な剣だなあ」
青年は目を大きく見開き、金色に輝く月の光を食い入るように見つめた。
「君、それは月の光じゃないか!」
店主が驚きの声とともに、まじまじと剣に見入っている。
「月の光?」
聞いたことないといった風の青年とは裏腹に、店主は少し興奮気味だった。
「由緒正しき勇者しか持てない剣なんだよ、ルイ」
「へえ、じゃあ、あんた正統な勇者を探してるってわけなんだね」
面白そうな声をあげながら、青年は、酒を片手に、今度はルイスをじっくりと見た。ルイスは彼に品定めのように見つめられ、緊張した。
「それにしても、なんで君がこの剣を持ってるんだい」
店主に訊かれて、ルイスは、またはたと困って宙を見つめた。なぜ自分がこの剣を持っているか説明するには、フィルの話もしないといけない。しかしそれは、今話すべきことだろうかと躊躇したのだ。
「店主、それを訊くわけにはいかないだろう。どうやら訳がありそうだからな。訊くことができるのは、旅の連れになる奴ぐらいだろうよ」
ふふっと笑いながら、青年はまた酒を飲み干した。
「まあ確かにルイの言うとおりだな」
店主はちょっとがっかりしたような口ぶりだったが、納得したようにそう答えた。
「ところで少年。私を旅の連れ、いや、その剣を私に託す気はないかい」
青年の大胆な申し出に、ルイスはえっとした顔をした。
「おいおい、ルイ。それはないだろう。何しろ、おまえは女だ。女が勇者っていうのは、今まで俺だって聞いたことないさ」
「えっ、女?!」
ルイスはびっくりしすぎて、大きな声で叫んだ。
「はっはっはっ。まあ、そうだよなあ。ルイは言葉遣いも男と変わらんし、格好だって、剣士の格好だからな。言われなきゃ、分からんよなあ」
更に大きな声で快活に笑う店主に、彼女がむっとした調子で言った。
「ふん、女で悪かったなあ。けど、私は剣の腕は立つさ」
「それは認めるよ、ルイ。しかしおまえ、勇者と言ったら、人助けをする奴のことだぞ。おまえは賞金稼ぎを生業にしてる奴だろ。しかも女だ」
「女、女言うなあ! 女が勇者になっちゃいけない理由はないだろ。なあ、少年」
彼女に突然訊かれて、ルイスはしどろもどろになって答えた。
「それは……。それは、そうだと思います。女の人だって勇者がいてもいいと思います」
「ほら、見ろ。店主。この少年はよく分かってる」
彼女はルイスの肩をばんばん強く叩いた。
「しかし君。ほんとにルイでいいのかい。さっきも言ったように賞金稼ぎをしているような奴だぞ」
「なんだ。賞金稼ぎのどこが悪い。賞金かかっている奴は、悪い奴ばかりさ。それだって人助けだ」
彼女は腕を組んでふんぞり返った。
「あ、あのう……。ルイさんが、どれくらい剣の腕が立つ人なのか、僕にはまだ正直分かりません。なので、そうやすやすと、この剣を託すわけにはいきません。その代わり、旅の連れになってくれませんか」
ルイスはおずおずと消え入りそうな声で彼女に提案した。
「まっ、それはそうかもなあ……。旅の連れになって私の腕を見てもらうっていうのはいい案だな」
彼女は考え深げに、顔に手をやった。
「あと、僕に剣術を教えてくれませんか」
「何、剣術を教えろだって?」
目をぱちくりさせながら、彼女は不思議そうな顔をした。
「はい……。もし嫌でなかったら」
ルイスはごくりと唾を呑みこみながら、彼女の目をじっと見た。彼女は彼女で、ルイスの真剣そうな表情を見てとると、頷いた。
「分かった。いいよ。しかし教えるのはタダってわけにはいかないなあ」
「お金は多少持ってるので、払います」
「よし! じゃあ、決まりなっ」
彼女は、にっと笑うと、改めてルイスの肩を叩いた。
「やれやれ、君、ほんとにルイでいいのかい?」
「店主。せっかく決まったことを蒸し返すなよ。それよりもう一杯酒をくれ」
ルイスは店主に訊かれて、こう答えた。
「ええ、いいんです。ルイさんで。さっき男の人を追い払っていたのを見て、いい人そうだなあって思ったんで」
「なっ、少年がそう言ってるんだから、いいんだよ」
彼女は陽気に答えると、また注がれた酒を豪快に飲み干していった。




