第2章(2)
酒場の中に入ってみると、多くの剣士や、魔法使いが、酒場内に置かれている幾つもの丸テーブルに座り込み、それぞれの相手と酒を酌み交わしていた。お互いに酒を飲みながら、情報を交換してるかと思えば、大量の金貨を山分けして、下卑た笑いを浮かべている者もいた。またこれから危険地帯に行くために、魔よけの草を分けてもらえないかと相談している者など、必要な情報を求めて、皆が思い思いに、酒場の中をうろついていた。
フィルはともかく剣の腕が立つ旅慣れた剣士がいないか、酒場の店主に訊いてみようと店の奥にあるカウンターへと行ってみた。そこには客に提供するいろんな種類の酒瓶が並び、少し小太りの人の好さそうな店主が、カウンターに座っている大男ともめていた。
「店主、こんなまずい酒を出しておきなから、まさか俺から金をとろうというんじゃないよなあ」
「旦那。その酒は、この店の中でも一番の美酒ですよ。そんな言いがかりを言って、お金を支払わないわけなじゃないでしょうね」
「だったらどうだと言うんだ」
大男はぎろりと店主を睨みつけると、筋肉隆々の腕をこよみよがしに見せつけると、大男の得物である大きなこん棒に手を伸ばした。
「それは困ります、旦那。ずいぶんと飲まれたじゃないですか。それで払わないと言うわけにはいかないでしょう」
店主は怪訝そうな表情を浮かべた。
「店主、痛い目にあいたいのか」
大男が笑いながら、そう言うと、カウンターの端で飲んでいた一人の青年が、声をかけてきた。
「おっさん、ここは酒場なんだ。酒を飲んだら、金を払うのは、当たり前だろ」
「なんだ、若造が。もっともらしいことを言いやがって。おまえも痛い目にあいたいのか」
「あんたの方が痛い目にあうんじゃないか」
青年は、ふっと笑って大男を眺めた。
「ほう、言うじゃないか、若造のくせして」
大男はこん棒を持ち上げると、青年の顔の前で止めた。
「その奇麗な顔が、傷ついていいのかよ」
「ふん、奇麗とかいうな。気色悪い」
青年はむっとすると、腰につけていた剣を、ざっと抜いた。
「怪我するのはおまえの方だ、おっさん」
大男は、大きなこん棒を振り上げたかと思うと、ものすごい勢いで、青年の頭に打ちおろした。
「パカーンッ」
大きな音が鳴り響いたかと思うと、見ると、その巨大なこん棒が真っ二つにスパッと斬られていた。青年は、軽々と剣を構え直すと、こう続けた。
「今度はこん棒じゃなくて、その腕も真っ二つに斬ってやろうか」
「貴様、俺の得物をよくも!」
そう言うが早いが、大男は青年の胸倉につかみかかろうとした。青年はさっと避けると、大男の巨大な腕をねじりあげた。
「痛っ、いたたたたっ、痛っ」
青年はぐいぐいと大男の腕をねじっていく。
「よせっ。折れちまうだろ!」
今まで威勢のいい声をあげていた大男が悲鳴をあげた。
「なら、金を払うか」
まだ腕を離さずに、青年が言うと、大男は根負けして頭を下げた。
「分かった、払う。だから離してくれ」
青年が、ぱっと腕を離すと、大男は言われた通りに金を支払うと、痛めつけられた腕をかばいながら、酒場を出て行った。
「いつもすまないな、ルイ」
店主が青年に声をかけると、彼は笑って答えた。
「何、いつも世話してもらってるからな。これくらいどうってことないさ」
彼が手元の酒を飲み干すと、店主が次の酒を注いだ。
「ところで君は何か用かね」
カウンターのそばで、一部始終を見ていたルイスは、店主に突然声をかけられて、どきりとした。