第7章
もう直満月が沈みます。王女は、心配で空を見上げ続けました。
「私を殺す方をどうして私はこんな気持ちで待てるのでしょう?_______私は一体どうしてしまったのかしら。あの方が心配でならない」
王女の中で不思議な感情が生まれました。
朝日が昇る頃_____竜は帰ってきました。
王女は、嬉しさのあまり竜を抱きしめました。竜は体中ぼろぼろで所々火傷をしていながらも王女に石を持ってきました。石はダイヤのように輝き光を放っていました。
「王女願いは叶えた。そなたを食べてしまうとしよう」
そう竜は冗談めいた声でそういいました。竜はもう王女を食べようとする気持ちは微塵もありませんでした。そんな竜の気持ちを王女は知るはずもありません。しかし、王女は竜を抱きしめました。
竜は驚いて王女を見つめました。王女はとても柔らかくいい匂いがしました。
竜は醜い片手で抱きしめ返そうとしましたが起き上がる力もなくもう命がなくなるというほどに弱ってしまっていました。
このままでは、竜は死ぬでしょう。
そうすれば、王女は生きることが出来るのです。
王女は、暫く死にそうな竜をみると手に持っていた銀のナイフを持ちました。
この竜を殺せばきっと王女には素晴らしい未来が待っているはずです。幸せになれるのです。ずっと笑顔で暮らせるのです。
しかし、王女の美しい顔に浮かんだのは笑顔ではなく涙でした。王女は、銀のナイフを投げ捨てました。
そして、死にそうな竜に何度も何度もキスをしました。王女は、この哀れで醜い竜に恋をしたのです。
竜は驚いて王女を見つめました。
王女は、頷き立ち上がると大地を照らす太陽に縋るように願いました。
「どうか、どうか。美しい朝の女神よ、母なる太陽よ___この哀れな竜を助けてください。その為にならなんでもしますから」
そう王女がいうと太陽が言いました。
「私は月のようにお前の願いを聞いてやらないよ」
太陽が、そう冷たく言っても王女はなおも言いました。
「なんでもします。どうか、どうか___私の竜を助けてください」
太陽は、少し考えるといいました。
「よし、分かった。その醜く罪深い竜を助けよう。_____その代わりお前の美しい目を貰うよ」
竜は醜く拉げた声で止めましたが王女は、竜が助かるならと迷わず頷きました。すると太陽は心優しき少女に心打たれたのか優しくいいました。
「お前は本当に優しい娘のようだから、いいことを教えてやろう。瓶に水を張り私を映しなさい____そしてその水をその竜にかけておやり」
太陽の言うとおりに瓶に入った水に太陽を映しました。するとどうでしょう。水は金色に輝きました。王女は竜に金の水をかけてやりました。
竜の命を蝕んでいた傷は見る見るうちに直りました。それどころか呪いは解け美しい青年が姿を現しました。青年は精一杯の慈しみ込めて少女の名を始めて呼びました。
「セラ____」
少女は青年の方を見上げました。しかし、少女の瞳には青年の姿は映っていませんでした。
青年は、見てくれといわんばかりに手を広げ生まれ変わった自分の姿をみせました。しかし、その姿を王女が見ることはもうありません。
「我が愛しき王女よ、私の姿がやっとあの忌まわしい姿から解き放たれたのに_そなたは私の姿をみることはなく、そなたの盲目の瞳にはあの忌まわしい竜しか映っていないであろう。こんな私をそなたは愛してくれるはずもない」
王子は、項垂れました。
しかし、王女は首をふりいいました。
「貴方は、私に誰にも見ることができない素晴らしいものを見せてくださいました。それだけで私はもう_この眼を失っても苦しくなんてないのです。それに、人の価値というものは姿ではないのです。そのことを私は幸運にも知っております」
そう言うと王女は笑いました。
二人はしっかりと手をとりました。
それから、竜王は后と共に国を治め国は、もっともっと豊かになり人々は幸せに暮らしました。
王女が死んでから王は、また王女に最初に会った頃の竜に戻ったそうです。王女がまたこの世界に生を受け、次また会うために竜は長い旅に出ました。
きっと竜は王女を見つけることが出来るでしょう。
竜王子と不幸な王女(終)
竜王子と不幸な王女は終わりです。
このお話は神話にあったものでたまたま見つけ気に入りお話を作らせて頂きました。
こつこつと昔書いたものやら今書いたものやらをつなぎ合わせて作っているのでどこか文が可笑しいところもあるかと思いますが笑いながら笑顔で見守ってください。