第4章
王女がもう何も願わないように竜は王女に何か願いはないか聞きました。王女には何も願いはありませんでした。しかし、竜はなおも王女に聞きました。
「欲のなき若きものよ___無垢なる娘よ。お前には他の願いはないのか?」
王女は、首を振りました。
「優しい人___この国で一番恐れられているあなた____ありません。私は、太陽と月の間にある花が欲しいのです」
「我はなんでも手に入れられるのだぞ____!!!死ぬ前に贅沢をしたいと願わないのか?誰か憎い奴がいれば私が引き裂いてやろう。会いたいものがいれば連れてきてやろう」
そういっても王女は首を振り続けました。
「そなたは本当に変わった娘だ」
竜は、王女の頑固さに飽きれました。二人で空を眺めているうちに竜はいいました。
「お前はきっと誰にでも愛されているのだろうな・・・私はいろいろな人間を見てきた。ある人間は私を恐れ殺そうとし、ある者は私を嘲り利用しようとした。まぁ、もちろん皆食ろうてやったがな。人間とはそうであろう?嘲り人を見下し食らい合う。昔とあいもかわらず・・・だが、お前は違う___お前は、小さな者のために泣いてやることが出来る。私からみれば愚かなことだが、他人のために泣いてやるなど一国を滅ぼせる私にとてなかなか出来ぬことぞ」
王女は、笑いました。
「恐るべき力をもつ竜よ___無慈悲なおかたよ。私は、確かに愛されていましたが前にもいいました通り生まれてからずっと塔におりましたゆえ、無垢なのでしょう。無垢で無知な愚かな娘なのでしょう。貴方さまが私に感心してくれたのならお言葉をお返ししますわ。だって、貴方さまは、哀れなトカゲを救い__砂漠の生き物を救ってくださったでしょう。私は、本当に感謝していますわ」
王女が、また竜に笑んで見せたので竜は顔を背けた。しまった話してしまった。情が移らぬようにと気をつけていたのに________竜はまた後悔しました。
竜は、姫と過ごしているうちに何時の間にか夜が来るのが怖くなっていました。
こんなにも夜が怖いと思ったことがあったでしょうか。
竜が眠れないでいると王女が傍で歌を歌ってくれることもありました。
ずっと話し相手になってくれました。
醜い背を撫でてくれもしました。
竜は、こんなことは今までになかったので驚きと苛立ちで夜が来るたび吼えました。国中にその咆哮が木霊しました。国の民は恐れました。誰もが皆竜を恐れ竜と誰ももっと話したがりませんでした。竜は、何者も恐れぬ強さがありあしたがそれと同時に孤独でした。王女は少し竜が不憫になりました。王女は、竜に聞きました。
「____どうしてあなたは竜になってしまったの?」
王子は答えました。
「世界で最初に生まれた竜に呪いをかけられたのだ。北の竜が命乞いをしたのに私が己の栄光の為に殺めたから____無害な竜なのに_____なのに、私は北の竜の名を辱め汚し切り捨てた。だから、世界で最初の竜は私に呪いをかけた。私は永遠にも近い年月を生きることが出来るのに__竜は私を醜い姿に変えてしまった」
王女は、竜が何度も嘆き悲しみ叫ぶのを聞きました。王女は、竜の為に泣きました。
竜は驚いて王女にいいました。
「何故泣く____気分でも悪いのか?」
王女は、首を振りました。
「いいえ、私は悲しいのです。貴方の寂しさ悲しみはよく分かります。だから、今夜この涙は誰の為でもありません。貴方の為に流します」
竜は、驚きましたが同時に幸せな気持ちになりました。王女が自分のために涙を流してくれているのです。あの時小さなトカゲのために泣いていた美しい王女は今自分のために泣いてくれているのです。王女の涙があまりにも美しいので醜く鋭い爪で王女の涙を拭いてあげました。
王女は何故だか自分の名前を始めて他人に___竜に告げました。しかし、竜にはその名を口で言う事は出来ませんでした。竜にはそんな資格はなかったのです。
何時の間にか竜の呪わた身体の中にいつも渦巻いていた。満たされない飢えと憎しみは消えていました。
しかし、この飢えが消えるのも一瞬のことです。ところが、竜の中に不思議な感情が芽生えました。その感情は前のように飢えがきても消えることはありません。
____明日は満月です。
明日___竜は王女を殺さねばなりません。