第3章
竜は太陽と月の間へ向かいました。何しろ竜の翼は半日で世界を一周してしまうので太陽と月の間へ向かうのは簡単なことでした。竜は、空を飛びながら王女のことを考えていました。今まで生きてきて美しく勇気があるあんな王女を竜は見たことがありません。竜は、何故娘の願いを聞いてしまったのか自分でも分かりませんでした。今になって考えてみるとあの時食べてしまった方が良かったのかもしれません。
太陽と月の間に辿りつきました。そこには砂漠が広がっていて一輪の花が植わっていました。花は虹色に輝き今までに見たこともないような美しさを誇っていました。
竜は、花を引き抜こうとしました。すると、何処からともなくトカゲが出てきていいました。
「どうか_______どうか・・・お止めください。私はその花の蜜を吸って生きています。その花を採られてしまっては私はこの広大な砂漠で干からびて死んでしまいます」
とかげがあまりにも慌てふためいていうので竜は鼻で笑ってやりました。
「お前なんぞ、知るものか。私が欲しいといっているんだぞ、お前のような弱いものは干からびて死んでしまえ」
そういうと竜は翼を広げて飛んで行きました。
それから、月が沈む前に竜は王女の元へと帰ってきました。
「王女願いは叶えた。そなたを食べてしまうとしよう」
王女は困り果てました。竜は約束通り太陽と月の間に咲く花を持ってきたのです。かの花は虹色に輝いていました。王女は、花の美しさに圧倒されました。賢い王女は少し考えて言いました。
「この世の果てに向かった素晴らしき竜____そしてこの国の王であらせられるあなた、この花は私のいった太陽と月の間に咲く花ではありませんわ」
竜は憤慨した。
「昼は間直に太陽に照らされ夜は月の光に照らされるせいで光り輝いているのです。その花は虹色のただの花____太陽と月の間に咲く花とは違います」
もちろんこんな花はない。
賢い王女は嘘を言いました。
もう日は完全に昇っています。竜は、王女が食べれずに怒りと悔しさで唸りました。
竜は、王女に自分がどんなに努力をして花を採ってきたのかを説明しました。
しかし、王女は泣いています。竜は、慌てました。
「勇気ある王女よ____何故泣く?」
王女は答えました。
「強く勇敢で_____残酷なあなた、私のせいでその哀れなトカゲは死んでしまうと思ったら悲しくて・・・」
竜は王女が泣いている理由がわかりませんでした。そして、段々怒りが湧いてきました。何しろこんなにも竜王子を困らせた者はいなかったので竜は怒り狂い王女を怒鳴りました。
「愚かな娘だ!!!何を泣く必要がある!!かくも哀れなのはこの私だ!!この私なのだ!!!」
そして、竜はまた空へと飛んで行きました。
竜は、王女の涙が忘れられませんでした。そして、急にあのトカゲがどうなったのか気になりました。太陽と月の間の砂漠にトカゲは死んでいました。そして、竜は初めて後悔しました。
後悔とはなんと苦しいものなのでしょう。竜は胸を押さえて苦しみました。
そして、竜は一粒の涙を流しました。すると、竜の涙が湖となって砂漠を潤しました。竜が胸を掻き毟るほど鱗が剥がれ落ち大地に鱗が落ちるたびに緑が溢れました。
そのことを知った竜は自分の鱗を剥がし広大な砂漠を緑の平野に変えました。
竜は、鱗が剥がれ肉が見え血が見えもっと醜くなった自分を見ましたが何故だか怒りや憎しみはありませんでした。
そして、竜は空へとまた舞い戻りました。
王女は、泣いていました。竜は、王女にゆっくりと近づくと優しくいいました。
「心優しき王女よ__無垢なる娘よ・・・安心しろ、我の力で砂漠を緑の平野に変えた。砂漠の生き物は皆喜ぶであろう___死ぬものはいないだろう」
王女は顔を上げた。
「雄大な空の王___心広きお方・・・ではあのトカゲはどうでした・・・きっと喜んでいたのでしょう?」
竜は、少し考えていいました。何しろトカゲは死んでしまったのです。竜には、これ以上王女を苦しめることなど出来ませんでした。
「ああ__喜んでいたぞ。喜んでいた」
王女は、笑いました。竜はなんて美しい笑顔なんだろうと思いました。いままで、竜に笑いかける者などいなかったのです。
「本当に・・・ありがとう」
竜は初めてお礼を言われました。飢えなど何処かに行ってしまって幸せな気持ちになりました。
しかし、次の満月には王女を食べてしまわなければなりません。
嫌駄目だ・・・王女を食べたくはない。初めて王子に迷いが生まれましたが直に飢えがやってきてそんな考えも吹き飛んでしまいました。
次の満月には必ず王女を食らおう。竜は、ほくそ笑みました。