はじまりの物語
「ここは、どこ?」
気がついたら、真っ暗闇の中だった______
私は、辺りを見渡した。
真っ暗闇だ_______
「ようこそ」
声がぽつりと聞こえてきた。
ぽうっと小さな光がぽつりぽつりとついていく。
そして、現れたのは小さな舞台_____
そして_______二本足で器用に立つ三毛猫
「猫・・・・?」
「猫以外の”もの”でもございません」
くるくると手を回して丁寧にお辞儀をする。
「”にゃちし”は、長靴を履いた猫にございます」
「長・・・靴・・・」
息を飲んで私は、猫の足もとを見る・・・・確かに長靴・・長靴を履いている。
「本当だ・・・」
「”にゃちし”は、王子を探しているのでございます」
どこからか強いライトが当てられて舞台が明るくなった____木で出来た貧相なお城が背景に建っている。
「王子を探しに東を旅したこともあれば北、南、西と流離い・・・・」
「さまざまな、国を見てまいりました」
「しかし、王子は何処にもいませんでした」
「・・・・・あなたは・・・王子ですか?」
「_____私は、王子ではないわよ」
「では、何”もの”でございますか?」
私を見つめる長靴の猫____じっと琥珀色の大きな瞳で見つめられる。
そういえば、私・・・なんだっけ?
私は首を傾げた。
忘れてしまった。
あれ_____私って”何”もの???
にやりと長靴の猫の瞳が細められた。
「おや、おや・・・お忘れに?・・まさか、あなたも猫だとおっしゃいますな。あぁ、ちなみに・・・”にゃちし”は、猫以外の”もの”でもありませんけどね」
なんだか馬鹿にされた気分だ。私はむっとして言った。
「忘れてなんかないわよ・・・ちょっとだけ・・忘れてるの・・・自分のこと」
少し間をおいて猫はぽんと手を叩き言った。
「では、あなたは王子かもしれません」
「違うわよ」
ここで私は即答する____だってあり得ないもん。王子は、男の子がやるものでしょ?・・女の子はもちろんお姫様。
「何故分かるのです?」
猫は少し可愛げに首を傾げて聞いてきた。
「分かるもん」
断言してやる。
「残念です。”にゃちし”は王子がいないとお話が進められないというのに・・・」
「お話が進められない?」
「だって”物語”は、主人公を中心として進められるでしょう?・・・王子がいなければ”にゃちし”の出番が来ないんですよ」
「物語?」
「そうです。ここは、”劇場”。主人公がいなければ物語は止まったまま・・・」
「劇場・・・」
さっきから私オウムみたいに猫の言葉を真似してる。いい加減頭がこんがらがって長い長い迷路の中を歩いてるみたいな錯覚に陥る。
「”にゃちし”は、王子を探しながらこの”劇場”と”物語”を管理しているんです」
「どうです?・・・”物語”覗いてみますか?」
私は、首を振ろうとした_____でも、止めた。だって何処にいけばいいか分からないもの。どうせいくところなんてないし・・・・”物語”・・興味がある。
「分かりました。あぁ、ちなみに年の指定は御座いませんよ。それと、お喋りはしないで下さい。これは、あなたの”物語”ではありませんから・・・声を出しても・・あなたは、登場人物にはなれないのです。あぁ、ちなみに・・・”にゃちし”は、猫以外の”もの”でもありませんけどね」
「分かった。訳わからないけど話さないわよ」
「では、では・・・まず始まるのは残酷な王子と見目美しい姫のお話です」
「古典的ね・・・」
何処からか霧が立ち込めた______白い靄の中に何かが建っている。
あれは___塔?
高い___高い塔・・・・
そう、物語はここから始まる______
「さぁ、はじまり。はじまり」
第一幕___王女と竜王子