チートでぼっちな異世界ライフ オマケSS
あの、王国が俺の家に兵を出したらモンスターに襲われ全滅した事件から3年が過ぎた。
俺の周りは平和になり、街に行っても襲われる事などは無くなった。相変わらず考え無しの馬鹿に絡まれる事はあるのだが、それはいつまで経ってもどうにもならない事だろう。
あの後、半年ほどで街に行くのは止めた。
もともと、作った物を捨てたくない、残しておくと場所を取るというジレンマから売却という手段を取っただけだ。物が無くなれば行く必要だって無くなるのは道理である。
商人のおっさんには事前に話を通し、事前に人を使い冒険者ギルドの革を安く買い叩くように言っておいたので、そこまで不義理ではないだろう。
買い叩かれて儲け損なう冒険者ギルドは自業自得なので、俺のフォローからは範囲外である。
それはいつもと変わらない、ある日の事だった。
前日の疲れから昼まで寝過し、それも独り暮らしの特権と思いながらも外に出てみたら、黒焦げ死体に向かって涙する二人の少女がいた。
俺の家の周りにはデフォルトの対魔物結界、俺が追加した人間を弾くための生物除けの結界、安眠の為の遮音結界、それら結界に干渉する術式が使われた時の攻勢防壁が常に展開されている。黒焦げ死体は攻勢防壁の仕事だろう。
人の家に何の用かとも思ったが、面倒そうなので無視することにした。
記憶の改竄も考えたけど、来客が何度も来るとは思えない。彼女らがどうしてここまでこれたのかは分からないが、ここ数年人里に出ていない俺に用があるとも思えないし。
救助? しないよ。
人間の生活圏内から離れたのであれば、生きるも死ぬも、その人次第。ついでに付け加えれば、俺から見た彼女らはただの強盗だ。処分しない事を最大限の優しさと思って欲しい。
そもそも、結界の半分は相手を威圧するように迎撃するぞと内容まで見えやすくしてある。判断力があるならそこで手出しを諦めるはずで。それをしなかったという事は自殺志願者だったという認識で間違いない。
遮音結界から出たら何やら悲痛な叫び声が聞こえた気もするけど、魔物を狩る方が重要だ。相手もこちらに注意を払っていなかったので、俺は日課をこなすために足を動かした。
って、いけないな。面倒すぎて馬鹿な事をしそうになった。他所様の結界にクラッキングを仕掛けようとする強盗を放置したらいけないよな。眠らせておくか。
『≪精神魔法(神業)≫のレベルが上がりました』
……最近はなかなか聞けなくなったレベルアップメッセージ。
今日はいい事があるかもしれない。
昼過ぎに出て、夕方になる前には戻ってきた。
魔物狩りは移動を含め実働3時間程度であるが、畑仕事に食事や日用品の作成などもやらないといけないので、それ以上の時間を使う余裕などない。
本日持ち帰ったのは体長5mはあろうかという大きな熊。現場で血抜きだけでなく解体まで済ませて、欲しい部位だけを回収した。今回は毛皮にモモ肉と肝だけ。他は、パス。毛皮は丸ごと一頭分。剥いだばかりで鞣していないが、袋の代わりに使っている。肉は10食分あるし、薬の材料である肝だってたくさんある。それ以上を持ち帰る必要は無いのだ。
で、帰って来てもまだ、娘二人は寝ている。
残念だ。喰い散らかされていれば良かったのに。
でも、なぜ彼女らがここに居るか。それを知らないといけない。
さくっと殺して埋めてもいいのだが、次の来客が来たりすると厄介だ。最悪、こちらが気が付く前に家の情報を持ち帰られているかもしれない。対処できないとは言わないけど、事前に潰す方が楽なのだ。これから情報を引き出す方が効率がいい。
という訳で質問タイム。捕縛用の小型結界で拘束してから眠り姫の片方を起こす。
「ここは? あ、貴方! 貴方が魔王ね!!」
魔王呼ばわりキター。
何言ってるの、こいつ?
「いきなり人を魔王呼ばわりか。他人んちに押し入ろうとした強盗様は言う事が違うね」
「街に魔物をけしかけておいて、よくも抜け抜けと!!」
人の話を聞かないタイプか。テンション高いなー。
という訳ではいアウト。つぎー。
「え? え? 私一人?」
次の子は、辺りを見渡し仲間を探している。一人減ったとはいえ、もう一人残っていたはずだし? 今はもう、ハイになっていないけど。
「はいはい、押し入り強盗さん。まずは落ち着け。≪平穏≫」
さっきのよりは話が通じそうだったので、とりあえず強制的に落ち着かせた。それで彼女はようやく俺を意識し始める。
「あの……貴方はどなたですか? それと、私の連れを知りませんか?」
「俺は森で暮らす魔物狩り人。君のお連れさんはお亡くなりになったよ。盛大に自爆して、ね」
強盗の上、俺を魔王呼ばわりしたし。しかもそれを悪いこととも思っていなかったからな。どこの勇者だっつーの。処分は必須だろ。
俺が(歯抜けだが)真実を告げると娘さんはシクシクと泣きだした。
「で。どうしてこんな所まで来たんだ?」
「それは――」
泣き止むまでの時間がもったいなかったので、捕縛したままで放置。皮のなめしだけ先に済ませ、陰干しまで済ませてから夕飯を食べる。
食べ終えた後は質問タイムの再開で、俺はここまで来た理由を聞き出すことにする。
彼女らが来た事情を要点だけ抜き取ると、俺を探していたらしい。
俺の断片的な情報が周囲に流れ、憶測が噂を大きくし、俺は街に魔物をけしかけた魔王か、様々な財宝を持つ隠れた賢者か、そういった扱いになったようだ。それがお偉いさんの興味を引いたらしい。……今更?
冒険者である彼女らはその実力を見込まれ、現地調査を依頼された冒険者。
で、彼女らはそんな俺の事を調べ、魔王なら討ち取り、賢者なら連れてくるようにと言われていた。
彼女らは森を彷徨う事、半月。ようやくこの家に辿り着き「最近街が魔物に襲われたのだし、きっと魔王」と思い込んでこのような事態になったのだとか。俺の家は木造建築で、わりとみすぼらしい。これを魔王城とか目が腐ってる。
馬鹿じゃね?
ああ、馬鹿なんだ。
情報収集が適当、結界の危険度の把握もできない、捕えられたことに対する危機感が無い。何より優先順位を間違えてる。
俺と接触する前に俺の事を観察するべきだし、張られた結界があるのは分かるんだから解除の難易度を把握して挑むかを考えないと駄目だし、自分を捕まえた相手、つまり格上相手に捕えられたまま暴言を吐くとどうなるか想像すらしない。
俺が彼女らの立場なら、まずは俺を観察し、国にとって危険な相手かどうかを考える。
手に負えないと思えば手を出さず、街に戻って情報を上司なり依頼人なりに渡すだろう。
臆病と言われようと、自分の命が最優先だ。その次に仲間の命も守らなきゃだし、命令だって最悪の結果は「無駄死に」だ。1人2人死ぬのはいいけど、全滅してはいけないのだ。どんなわずかな情報でもいいから、持ち帰らないといけない。
彼女らは、手を出していいかどうかの判断もできず、引き際を見誤ってしまった。
ここまで情報を引き出し、俺はどうするかを考える。
最善の結果はぼっち生活の継続だ。昨日までのように、明日も生きる。それを繰り返すだけでいい。ここを離れる気はないし、ここに客が来るのも遠慮願いたい。
最善と言いつつ、それを譲る気は一切無いが。
「力ある者はそれを皆の為に使う義務があります!」
「無いよ、そんなもん」
所謂「貴族の義務」は、「庶民あっての貴族なのだし、その力を庶民の為に使うのは当然の事」という意味だ。別に、独りで完結している俺にあてはまる言葉ではない。
「得た力は、次世代に受け継ぐ義務が――」
「他の誰かから受け継いだ技術なら、ね。俺のは全部自己流」
正確には、女神から貰ったチートだが。
あー。でも、成長ボーナスだったからなー。ここまで力を磨いたのは自分だから。俺が自力で得た、自分の力って事でいいだろう。
そもそも、女神の依頼である魔物の間引きはやっているのだ。やるべき義務は果たしている。
「お願いします! 私にできる事なら何でもします。国も最高の待遇で貴方様を迎え入れる準備が――」
「地位、名誉、金、権力権威、財宝、女、部下や奴隷。ああ、あと友人も要らない。報酬はそれ以外で、俺が欲しそうな物を挙げてみて?」
「……え?」
「さっき挙げたのは、俺にとってはゴミだから。俺は1人で、ここで生きていたいんだよ。その幸福を捨ててまで得たいものを提示してもらわないと、動く訳ない」
完結しているという事は、不純物など不要という事。先ほど提示した「要らないもの」は、ここでの生活に不要でしかない。
他の人が欲しがる一般的な報酬では動く気にもならないわけだ。
案の定、このお嬢さんも頭を抱えてしまった。
ちなみに、「知識」という報酬なら、多少は考えない事も無い。考えるだけで断るけど。
と言うより、押し入り強盗の言う報酬を信用する奴がいたら、そいつの頭は腐っているとしか思えないのだが。
彼女はそれに気が付かなかったようだ。しばらく悩んでいたけど、諦めてくれた。
「これ以上は無駄みたいですね、帰ります……」
おや。
まさか、素直に帰してもらえると思っていたのだろうか。立ち上がった彼女を魔法で拘束。
「はい、待った。まだ『迷惑料』の話が済んでいないよ?」
「『迷惑料』……?」
「他人の家に押し入って、迎撃されて、捕まって。そのまま帰れる訳が無いでしょうが」
「そんな!?」
現行犯逮捕である。罰金は当たり前のように徴収するつもりだ。今すぐ支払える財産という事で、手持ちの装備品を貰う。食料品には手を付けない。俺は優しい人間であり、鬼ではないのだ。
ついでに記憶を改ざんし、二度とここに来ないように情報を操作するつもりだが。具体的には「何も見つからず、探す間に危険な魔物に襲われ、仲間を失った」とでも報告させる訳だ。費用対効果に見合わねば、人は来なくなるだろう。後は魔法で小細工を少々。
自称優しい俺からのフォローだが、街に戻るまで魔物に襲われないように魔物除けの対人結界を張ってあげるぐらいだ。生きて(偽)情報を持ち帰ってもらいたいので。
それ以上はやりすぎ、過保護と言われるだろう。ふひ。
こうして俺は再び平穏な生活を手に入れた。
送り帰した彼女を使って街の情報を探ってみたが、危機一髪だったようだ。どうやら俺の家を探すべく他の冒険者も依頼を受けようとしていた所だった。そこに彼女の情報がもたらされ、誰もが手を引く一幕があった。
全員殺していればまた人が来た可能性が有り、あの選択は間違いじゃなかったようである。
人間は、手の中にある幸せで満足している状態が最高に幸せだ。
手に余るお宝に手を伸ばせば、手痛いしっぺ返しを食らうのは当然である。
最後に、彼女らの依頼主だった貴族には「ハゲ」「水虫」「不能」の呪いをプレゼントしておいた。
今日も元気だ、飯が美味い。
熊肉のステーキは美味だと思う、今日この頃。