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小唄シリーズ

モノクロ世界

作者: watausagi

◇◇◇◇◇


 世界は黒と白にわかれた。理由も分からず敵対していた。貴方は灰色のプレイヤー「グレイ」となって、この世に「色」をもたらし、平和を取り戻す。


◇マリッジブルー◇


 ブラックキングとホワイトクイーンーー黒の王と白の女王は今日も喧嘩をしている。これはもう他愛のないことで、ねじれていて、愛のない他人行儀な2人の口喧嘩は、今日も平行線を辿っていた。


 そんな中、一つの知らせが飛んでくる。


 灰色をした少年の話だった。


◇赤面少女◇


 さて、当の灰色の少年は今、泣き止まない迷子の少女の面倒を見ている。


 黒色の草原に座り込み、少女は黒の涙を流す。少年は困った末に、ポシェットをプレゼントする事にした。


 赤い、紅い、朱色のポシェット。少女ははしゃいで喜んだ。肩にぶら下げその場でまわって、貴方の視線に気づき


 少女は顔を「赤」らめ微笑んだ。


「どうしてこんなに綺麗な色を知ってるの?」


 照れ隠しのつもりか、そっぽを向きながら話す少女に、少年は答えた。


「女神様から、ね」


 不思議そうな顔をする少女に、ただ灰色の少年は微笑むだけだった。間も無くして迷子の少女はただの少女になった。


「ありがとう〜!」


 親と手を繋いで帰る少女に手を振り返しながら、灰色の少年は少し悲しそうな顔をするのだった。


◇黄色い歓声◇


 そこには、とてもハンサムなボーイがいた。シャキンとした白髪で、漆黒のフォルムをした男だ。


 しかし、男は悩んでいた。何かが足りない。自分はもっと輝ける。


 そう悩み続けた日々の末、とある日の午後、灰色の少年が目に入る。


 そして男は見た。


 灰色の少年が空の白い丸に、黄色の色を創り出す光景を。ただ尖っていただけの星々も同じようにキラキラと光っている。


 それは大胆だったり、時に繊細で、また儚く淡く。色とりどりの色彩に、男は目を奪われた。


 これだ、これしかない。


 男は強引に灰色の少年へ礼を言うと、すっきりした顔でさっさと去ってしまった。灰色の少年は不思議そうな顔をしながら、真っ白なお団子をパクリと咥えるのだった。


 そして次の日の夜、灰色の少年は昨日の男を見つけた。隣には若い女性がいる。どうやら口説いている最中のようだ。


「見てごらん。綺麗だ」

「本当、月ってあんなに綺麗だったのね」

「それもそうだけど、僕が言ってるのはーー君のことさ。あの美しい月でさえ、君の魅力には敵わないよ」

「まあ素敵!」


 灰色の少年はさっと顔をそらして、その場からそそくさと立ち去った。ただ、何もしないで帰るのもアレなので。2人の周りに仄かなピンクの色を付け加えるのだった。


 因みに次の日、太陽にオレンジの色を灯して、ハンサムボーイの口説き文句にさらなる磨きがかかったのは言うまでもないであろう。


◇パステル◇


 どんよりとした灰色の雲が水色の雨を降らせるその日。


 灰色の少年は、ブラックキングとホワイトクイーンの前に連れてこられた。噂を聞いた2人が兵を遣わし、呼び出したのである。


 灰色の少年はどこか気恥ずかしそうにしながら、自分はどうしてここに連れてこられたのかを尋ねる。


 ブラックキングは言った。


「其方は色を生み出す事が出来るらしい。つまり、色々な色を知っているということだ」


 耐えきれなくなったようにホワイトクイーンがその後を続ける。


「ならばお分かりでしょう。黒よりも、白が優れているということを」


 対抗するようにブラックキングが張り合う。


「いいや黒こそ至高だ」

「馬鹿馬鹿しい。白こそ一番です」


 さあ、どっち。


 少年は苦笑して答えます。


「黒色はとても強いです。迫力があります。他の色では出せぬ威圧感もあるでしょう。その強さは不安や恐怖を受け止めようとさせる気持ちになり、安心感も得られます」


 ほらみたか、と胸を張るブラックキングを無視して、灰色の少年はホワイトクイーンに向かって言いました。


「白色はとても綺麗です。信頼感や清潔感を感じます。白は全ての色を汚さず、受け止めることが出来るのです」


 つまりどっちだ、と言いよる2人に、落ち着いて灰色の少年は答えます。


「どちらも良いところがあり、悪いところもあるのです。黒はその強さ故に他の色を呑み込んでしまう事があります。白はその清潔感故に、時に頼りないと感じる時もあります。

 どの色も良いところと、悪いところがあるのです。けれど面白い事に、違う色を混ぜるとまた違った良さが産まれることもあります。私は生まれてこの方、自分の色を不満に思ったことはありません。黒でもない白でもない私の、この灰色は誇りなのです」


 それでも納得のいかないのか、不満げな2人に、灰色の少年は優しく言います。


「さっきの言葉を訂正します。私は、白でもあり黒でもあるのです。白も黒も、私は素敵に好きですよ」


 そこまで言われては、さしもの2人も強く言えません。実は2人とも、自分の持たない色を羨ましく思っていただけなのです。


「その、なんだ、まあ……素敵だと思うぞ。白も」

「黒も……頼もしいですわよ」


 昔からそう思っていただけなのに、ただ口に出す事が出来なかっただけなのでした。


 と、その時。


 緑生い茂る草原の向こう。


 七色の光が現れました。


「お、うおっふぉん。あー、灰色の少年よ。あれは何かね?」

「あれは虹です。とても、綺麗でしょう?」

「ああ。素晴らしい。私にはない、素晴らしさだ」


 黒と白の対立は終わりました。元々、仲の良い2人なのです。


 虹が現れて、街もすっかりお祭り気分です。赤いポシェットを肩からぶら下げた少女が笑顔で楽しんでいると、1人で虹を見つめる灰色の少年を見つけました。


「おーい!」


 灰色の少年は、少女を見ると微笑んでくれます。少女は聞きました。


「何してるの?」

「虹を見てたんだよ。綺麗でしょ?」

「うん、とっても!」

「そう……とっても、綺麗だよね」


 色とりどりの街。


 赤いポシェットを肩からぶら下げ、赤いワンピースを着こなし、ピンクのリボンを髪につけた少女。


 他にも周りを見渡せば、たくさんの色が賑わっています。


 お肉はキツネ色にジュージューと焼けたり、青い鳥が飛んでいたり。


 そんな中。


 少女の隣には、灰色がいるだけでした。


 黒でもない白でもない色。


 その少年は


 独り


「好きだよ!」


 耳元で聞こえた大きな声にびっくりして少女を見ました。少女は顔を真っ赤にして言いました。


「私は灰色も、好きだよ!」


 少年は少しだけ驚くと、「ありがとう」と言いました。


 後日談。


 ブラックキングとホワイトクイーンに娘が生まれました。灰色の少女でした。


 不思議な事に。


 その少女は、色を生み出す灰色の少年とそっくりだったという。


◇灰被りの赤ずきん◇


 灰色の少女はすくすくと育った。そんなある日。例えばかつて灰色の少年が色を生み出していたその時と同じくらいに少女が成長した日に、ブラックキングとホワイトクイーンは今日も喧嘩をしていた。


 親バカな2人である。


 ただ、灰色の少女は黒と白のどっちに似ているかという話だ。


 ただし、ブラックキングとホワイトクイーンからすれば大事な話だ。真剣だ。結構ただ事ではない。


 当の本人はーー灰色の少女はというと、どちらの味方につくこともできず困っていた。そこへ灰色の青年が現れる。


 灰色のローブを着させた赤髪の娘をあやしながら、そうしてブラックキングとホワイトクイーンの2人もなだめる。


 巧みな言葉遣いと色使いで2人を機嫌よくさせる事に成功して、ホッとしている灰色の青年に、この青年をとても好ましく思う灰色の少女は近づく。


 もうすぐ1歳となる灰と赤の少女に笑いかけながら、灰色の少女は言った。


「ありがとう。パパとママったら今日も大変だったの」

「そうだろうね。でも、それだけ君が大事だったって事なんじゃないのかな」

「うーん、それはわかるんだけど、でも」

「大丈夫。もしもの時はこうして僕が来るから」

「ありがとう! 頼もしい! 大好き! 私思うの。私達ってまるで、本当の兄妹みたい。お兄ちゃんって、呼んでもいい?」


 悩んでいるのか、困った顔をする灰色の青年に、娘はキャッキャと笑った。その様子を見て、灰色の青年も笑って……


「うん、いいよ」


 灰色の少女の頭を撫でながら。


「僕は君の、お兄ちゃんだ」


 白々しく、そう言ったから。


 何も知らない灰色の少女は嬉しそうに喜んだ。


 腹黒い青年。真実は溶けて混ざって忘れられる。それでも確かに、幸せな家族は、出来ていた。

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