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クサナギ  作者: ZARUSOBA
9/18

第二章 『白銀の義手』

辺境の星「イシュタル」ここは自由な星。


しかし近年、様々な犯罪がはびこる為に『ある組織』が設立された。

その組織の名前は『ヴァンファーレ』

このヴァンファーレは町の運営権利を明け渡す事により、その町を

あらゆる犯罪から市民を守る事を保障するというものだ。

運営権利のみで、町の所有物、市民の財産、それらに手を出さない事も

約束している。

そんな好条件の為に依頼が殺到。

ヴァンファーレは1年足らずで、イシュタルの半分ほどの町を

手中に治めたのだった。


この『プリズムシティ』もヴァンファーレによって守られている一つ。

以前の『ウエスタンス』とは違って、町は緑や水に恵まれており、

人が町に溢れかえっていた。

そして、このプリズムシティの最大の特徴は、ガラス張りの

高層ビルの多さにあった。

所狭しとそこら中に生えるガラス張りの高層ビル。

それらは太陽光を乱反射し、光輝く。

その様子からこの町は『プリズムシティ』と呼ばれている。

近代的な建物が多いイシュタルの都会の一つ。


町中を覗いてみれば、規則正しく立ち並ぶ店の数々。

そして、その中の一つの食事処と呼ぶより、レストランと

言ったほうがぴったりな内装の飯屋で……。


「すいませ〜ん、ジャンボカレー、杏仁、イシュタル丼、

 それぞれおかわりお願いしまーす。あ、あとミルク。

 ジョッキでね」


口に食べかすをこれでもかと、いわんばかりにつけたサングラスの

この男がいた。

テーブルの上には綺麗に食べられた皿の山が出来上がっていた。

それを唖然と見つめるアイリーン。

いつもの事だと割り切ってクサナギの隣でジョッキで

酒を飲むユイ。


「ん? どうした? 食べないのかアイちゃん?」


全然箸が進んでいないアイリーンを不思議に思ったのか、

口に物を入れた状態で喋るクサナギ。


「あんたのその食欲見てると食べる気も失せるわよ」


と、嫌味をたっぷりつけた声で答える。

それじゃあと、アイリーンの飯も頂くクサナギ。

その行動に呆れてものが言えないアイリーン。


「しっかし、あれだね、この町はやけに治安がいいね?」

「そりゃ当然よ、なんたってヴァンファーレが守っているから」

「ファンファーレ?」

「ヴァンファーレ! アンタ知らないの!? 超がつくほど

 有名な組織」

「知らん」


ユイに、知ってるか? と顔を向けるクサナギ。

しかし、ユイも首を横に振る。

がっくりと肩を落とすアイリーン。


「仕方ないわね、説明してあげるから聞いててよ?」

「ういうい。ヨロシク!」

「……ヴァンファーレが設立されたのはちょうど1年前。

 あまりにイシュタルの犯罪率が高い為に結成されたいわば

 武力組織よ。彼らは町の運営権利と引き換えに

 必ずその町を守ってみせると約束してくれるのよ」

「ほ〜、そりゃまたご大層な。本当に守ってくれるの?」

「ええ。以前私も調べた事があったけど、ヴァンファーレが守って

 くれている町は、他の町と比べて圧倒的に犯罪が少ないわ。

 まぁ、やり方が結構きついっていう事もあるけど」

「きつい?」

「犯罪者に対しては容赦がないのよ。例えば、この場で私達が

 食い逃げしたとして、ヴァンファーレは私達を『殺し』にかかるわ」

「……まじ?」

「それ位容赦が無いって事。だから下手に犯罪も出来ないわけ」


クサナギはスプーンを口に入れたまま硬直。

すかさずユイに今の残金を聞いていた。


「大丈夫よ、私だってお金は持ってるから」

「そっか、そりゃ良かった。すみませーん! おかわりを……」

「あのね、限度は考えてね? あんた食べ過ぎだから」


その後、クサナギは腹が一杯になりご満悦。

爪楊枝つまようじを口にくわえて背もたれにもたれかかる。

一方ユイは、トランクの中から何種類かのパーツをテーブルの上に

取り出し丹念に調べていた。

他の者から見ればユイのこの行動はガラクタで遊んでいるようにしか

見えないだろう。


「ユイ、『レイドリック』の調子はどうだ?」

「三番の弾がちょっと少なくなってるのと、二番、四番のフレームに

 ほんの少し歪みがある。けど、予備のパーツで何とかなるから、

 特に問題ない」


淡々とした口調で話すユイ。

そして、その言葉に興味を持った人が一人。


「ねぇ、レイドリックって何?」


アイリーンの目が輝く。

大体の想像はアイリーンにもついていたが、それ故に

興味深々であった。

めんどくさそうに顔をしかめるクサナギ。


「銃の名前だよ。ダサい名前だろ?」

「あれ? アンタが決めた名前じゃないの?」

「俺ならこんなダサい名前じゃなくて『ゴージャスブラッド・クサナギ』

 っていうカッコいい名前に……」

「……レイドリックで良かったわ。それにしても、変わった銃よね?

 貴方達の銃。あんなの見たことないわ」


テーブルの上に置いてある銃のパーツ。

それらはどの部品がどの部分に当たるのかがアイリーンには

さっぱり分からなかった。

ただ、この少女の手によってこのパーツが命を宿す。

その事だけは分かっていた。


「まぁ、この銃は特殊で、えっと、なんだっけ? タキョクホーホケ?」

「……多局面想定方式拳銃たきょくめんそうていほうしきけんじゅう

「そう! それだユイ!」

「な、何? その名前?」

「……簡単に言うと、どんな状況にも対応できる銃。パーツの組み合わせに

 よって、『一番』から『六番』までの種類の銃に変更できる」


説明できないクサナギの代わりに説明するユイ。

だが、説明している時のユイの顔は何処と無く嬉しそうだった。


「そんなにあるの?」

「まぁ、アイちゃんが見たのは一番と三番の二種類だったかな?」

「ええ。他の種類はどんなのが有るの?」

「まぁ、それは出た時のアイちゃんのお楽しみにしときなさい。

 ……だけどだな〜」


急に眉間にしわを寄せるクサナギ。

その理由がわかっているのか、ユイも顔をしかめる。

その二人の変化に戸惑うアイリーン。


「えっ? どうしたの? 何か問題あるの?」

「ど〜しても『六番』だけは好きになれないんだよね、あれだけは」

「……私も」


二人してため息をつく。

その様子に驚きを隠せないアイリーン。

この二人にこれほどまで言わしめる六番の存在。


「ど、どんなの?」

「う〜ん、何ていうか『使う所が無い』武器かな? 全く、あんなの

 作るオバサンの神経疑うぜ」


やれやれと、クサナギは肩をすくめる。

彼ほどの使い手に、使う所が無いといわせる武器。

アイリーンはそれも興味を引いたが、それよりも初めて出てきた

あの銃の作り手の名前の方が気になった。


「オバサン?」

「そう、オバサン。この銃を作った人で、一言でいうならバケモノ?」

「クサナギ、それ、先生の前で言ってみたら?」

「ハッハッハ、言えるわけ無いだろ? 多分あの人の事だから、

 『よく言った。どうやら私の教育が行き届いてなかったようだな?

  なに、たまたま偶然にもお前の墓穴を作っておいてやっていたから、

  その中でたっぷり反省しておけ』何て言われかねないからな」


笑いながら凄い事を話すクサナギ。

冗談よね? と口の端が引きつるアイリーン。


そして、ユイのパーツの点検も終わり、これからの事を

話し合う三人。


「それじゃあ、当面の目的は『アクアレイク』に行くのね?」

「ああ。そこで『レッド・アイ』の連中を捕まえれればいいが」

「レッド・アイって何なの?」

「な〜に、アイちゃんは知らなくていい」


アイリーンは直ぐに反論しようとするが、

サングラスの奥で見える殺気じみた目がそれを遮る。

今はまだ聞かなくても、後で分かる。そう考えてアイリーンは

この場で聞く事を断念した。


「……ここからアクアレイクは10日はかかるわね。それに、

 その間にある『ハイドタウン』が問題ね」

「? ハイドタウン? それが何の問題があるんだ?」

「まぁ、行ってみればすぐにわかるわよ。それじゃあ出発は何時?」

「今からだ。早いところ行きたいからな」


クサナギの言葉にユイも頷く。

アイリーンもそれに反対する理由もない。

三人はすぐさま出発しようとするのだが……。


「なんだと! てめぇ!? もう一度言ってみろ!」


レストランの奥の方がなにやら騒がしい。

三人は椅子から身を乗り出しその方向を覗くと、二人の男が

揉めていた。


一人は肩に刺青いれずみを入れた腕っぷしに自慢がありそうな

筋肉質の屈強な男。

そして、その男に絡まれている男がいた。


外見は20代前半と思われる。

サラッとしなやかそうな肩まで伸びた赤い髪。冷静さを漂わせる

鋭く細い眉と眼つきに、吸い込まれそうな黒い瞳。

顔はやや痩せており、若干頬がこけているように見えた。

そして、もっとも目を引くのは灰色の擦り切れた外套マント

全身を包むその外套は、まるで何かを隠すような印象を

漂わせる。

彼は、外套から片手を出して刺青を入れた男を無視して、

テーブルの上にある紅茶を飲んでいた。


「何々? もしかして喧嘩の予感?」


そんな波乱の予感を察知して、ワクワクと嬉しそうに喋る

クサナギ。

彼の予感は当たっていた。

外套の男はそんな雰囲気ではなかったが、刺青を入れたゴロツキは

一触即発の状況になっていた。

そんな様子に周りの客は知らないフリをするか、クサナギのように

観戦にしゃれ込んでいた。





慌てて、店の男従業員が二人の下へと駆けつける。


「ど、どうかなさいましたか? お客様?」

「この野郎がだな、俺の服に紅茶を散らしやがって、弁償しろって

 言ったら、お前のような奴に弁償する必要は無いって言ったんだよ」


そういって、刺青を入れた男はシャツについた染みを

従業員に見せ付ける。

そこには、ほんの少し、注意して見ないと分からないぐらいの

染みがついていた。


「わ、分かりました。こちらのほうで弁償いたしますので」

「ほう、そうかい。じゃあ、2万オームでいいわ」

「に、2万!?」


この世界では、2万オームというのは破格。

刺青の入れた男のシャツがいかに良い物だとしてもシャツというのは

精々200がいい所。


「お、お客様、さすがにその値段は……」

「何だ? 払えないってのかい? それじゃあこっちのやさ男に

 払ってもらうしかないよな〜!?」


再び外套を着た男のほうを睨む刺青の男。

外套を着た男は、紅茶のカップを静かに置いて立ち去ろうとする。

その行動に刺青を入れた男は腹を立てたのか、後ろから肩を掴み、

男を振り向かせて胸倉を掴む。


「いい度胸してるよな? 俺を無視して立ち去ろうとするなんてよ!?」

「……か?」

「あん?」


外套着た男がボソボソと小声で喋る。

一瞬、何を言っているのか聞き取れなかった刺青の男。

だが、彼の言葉を聞いて一驚する。


「死にたいのか?」


はっきりと聞こえた。

外套の男は一言一言はっきりと聞こえるように喋る。

その言葉からは刺青の男におびえた様子など無く、

逆に刺青の男の顔から血の気が引く。

だが、引くに引けないのか、手を離そうとしなかった。

その様子を傍から見ていたクサナギ達は。


「ちょっ、ちょっと! 助けたほうがいいんじゃない?」

「ん? どっちを?」

「あの外套の人に決まってるでしょ!? あのままじゃ殺されちゃう

 わよ? あの筋肉ダルマに」

「ん〜、そうだな」


よっこらしょ、とゆっくりとクサナギが立ち上がる。

それと同時に事件は起きた。


「し、死んだぞテメェー!」


刺青を入れた男が殴りかかろうとする。

その瞬間、『何か』が宙を舞った。

最初それが何なのか分からなかった。

ドサッと、地面にそれが落ちると。


「ヒッ! きゃああああ!」


女性客の一人がそれを見て悲鳴をあげる。

手羽先のように見えるそれは、紛れもなく刺青の男の手だった。

刺青の男を見ると、外套の男を掴んでいた手首から先が無くなっていた。


「えっ? お、俺の……て、手があああ!?」


何秒かの硬直の後、自分の手がなくなっている事に気づき、

錯乱する刺青の男。

対称的に、外套の男は至って冷静だった。

外套の男の手には何時の間にか刀が握られていた。

不気味な赤い刀身。

そして、更に驚くべきはその刀を握っていた腕だ。

外套から出したもう片方の腕は白銀の義手。

形は西洋の甲冑に近く、それは肩まで伸びていた。

外套の男は義手だというのに、誰の目にも止まらぬ速さで男の

手首を一閃したのだ。


店の中は一瞬にして阿鼻叫喚に包まれる。

ある者は店から飛び出し、ある者はその光景に気を失う。

クサナギ達はそのどちらにも属さず、外套の男を観察していた。


「……あの義手、凄い」

「えっ?」

「あれは多分レア・メタル「ニムバス」製。ニムバスは強靭な強度と共に

 柔軟な弾力を持つ希少金属。あれを義手の素材に使えば細かい動きを

 可能にできる。また、随所にクロッドカーボン鋼を使用して、強度を

 あげてる。あの義手なら、生身の腕を超越する……あんな義手作れるの

 先生ぐらい」


ユイが感嘆の声をあげる。

普段無口の彼女がこれほどまで饒舌になると言う事は

それほど凄いものだという事は容易に想像できる。

そんなユイとは裏腹に、クサナギの顔は険しくなっていた。


「……ユイ、一番だ」

「!? あなたまさか、戦う気じゃないでしょうね!?」


クサナギはアイリーンの言葉を否定しなかった。

ただ無言で外套の男を見つめていた。

一瞬でレイドリックを仕立てるユイ。

そして、クサナギは何時も通りの紅い銃を手に

外套の男に近づいていった。


外套の男は、錯乱する刺青の男を見下した表情で見つめる。

赤い刀を手にゆっくりと近づく。


「警告したはずだ。これ以上俺に構うと死ぬと」

「ひっ!」


凍りのような冷ややかな印象をうける外套の男の声。

もはや刺青の男に抵抗する気は無かった。

だが、外套を纏った男は止めを刺しにきていた。

赤い刀の切っ先が天高く伸びる。

そして、そのまま一気に振り下ろされようとした瞬間。


「はい、そこでストップね」


陽気な声が赤い刀の動きを止める。

もう数秒その声が遅ければ刺青の男は真っ二つだっただろう。


「……貴様、何のつもりだ?」


外套を着た男は声の主を睨みつける。

そして、ゆっくりとクサナギの方へと体を向ける。


「いやなに、そちらの人はもうアンタに刃向かう気がなさそうだから

 放っておいてあげていいんじゃない? ほら、行った行った」


クサナギは手で追い払う仕草をする。

刺青の男は逃げるようにその場を後にする。

外套の男は刺青の男をそのまま見逃す。

しかし、それは矛先がクサナギへと変わった為であった。


「しかし、アンタ本当に止め刺す気だったの?」

「当然だ。俺は相手が誰であろうと遠慮はしない。

 邪魔する者は殺す。それがはえのような存在でも」

「……それはあの筋肉ダルマを助けた俺も同罪って事?

 あちゃ〜、そりゃ勘弁。邪魔したのは悪かったけど、いい加減

 その刀を俺に向けるのやめてくれない?」


外套を着た男は刀を納めようとはしなかった。

それは、目の前のチャラチャラした男が危険だと察していたからだ。

男は言葉ではなだめようとしているが、体中からどす黒い殺気を

放っていた。なにかキッカケがあれば直ぐにでもこの男は自分を殺しにかかる。

そんな印象を外套の男は感じていた。


「……それは無理な相談だ。貴様の方こそ、その銃を外したらどうだ?」


外套の男はクサナギの腰に着けてある銃に目を向ける。


「断る。アンタが刀を納めるのが先だ」


互いに危険を察知しているのか、譲らぬ意見。

二人の間の空気が重くなる。

次の瞬間には何が起こってもおかしくない状況。

クサナギは腰にある銃に手を添え、外套の男は刀を握り直す。

そして、次の瞬間。


「ちょっと! あの場を止めただけでいいのに、あんた何ちょっかい

 だしてるのよ! バカ!」


アイリーンの声が響く。

アイリーンはクサナギの後頭部を殴り、腕を引っ張って店を

出ようとするが。


「……待て」


外套の男の声でピタリと動きが止まる。

何を言われるのかドキドキしている様子のアイリーン。


「サングラス、貴様の名は?」

「ん? 人に名前を尋ねる前に、自分の名前を出すのが常識だぜ?」

「……クリス。クリス=ラーズレイだ」


挑発とも思えるクサナギの言葉にあっさり応じたクリス。

その意外な反応にチッと舌打ちをするクサナギ。


「クサナギだよ」

「クサナギか……貴様に一つ聞いていいか?」

「あん?」

「貴様は『片腕に蛇の模様をつけた女』を見た事はないか」

「知らないね」

「……そうか」


そうして、クリスは外に出ようとする。

クサナギとすれ違いざまに。


「今度邪魔をすれば次は無いぞ」


ポツリと言葉を告げてレストランを後にするクリス。

クサナギはそんなクリスの後姿を見ながら。


「けっ、次に会う時が無いだろうよ」


これがクサナギとクリスの最初の出会い。

彼等の因縁はここから始まった。



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