第一章 『クサナギとユイ』 5
「た、タッカーの頭!」
凄い形相で豪邸の中に入ってくるタッカーの部下。
その様子は尋常ではなかった。
「何だ!? これから町の連中の所に行こうかという時に!」
「ば……化け物が外にいるんですよ! お、俺達じゃあ、歯が立ちません!」
ガタガタと震える部下。
さすがのタッカーもその様子を見て、ただ事ではないと感じた。
「どんな化け物だ?」
「く、黒いサングラスをかけて、紅い銃を持ってる男です。し、信じられないんですが
銃弾が当たらないんですよ!」
「黒いサングラスに紅い銃……!?」
「……どうやら、報告にあった連中のようだな」
「と、トニー先生」
壁にもたれ掛かっていたトニーが口を開く。
そして、ゆっくりと壁から離れる。
彼は腰にあった愛銃に弾丸をこめる。
「どうやら、俺の出番のようだな」
「お、お願いします先生」
タッカーの言葉に無言で返答するトニー。
トニーにとって、タッカーはただの金づる。
一度として雇い主と思ったことなどない。
タッカーの作り出したこの環境は、トニーにとって退屈なものだった。
一つの町を孤立させて、そこから金を少しづつ奪っていく。
たまに刃向かってくる奴もいたが、全てトニーに消された。
その時はまだ良かった。
今では誰も刃向かわなくなっていた。トニーにしてみれば、まるで面白くない。
強い奴と命を懸けて戦い、それに勝つ。
そんなスリルがトニーにとって一番の喜び、楽しみだ。
(この仕事でこいつとは最後にするか……)
そんな事を考えながら、彼は最後の戦場に向かった。