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クサナギ  作者: ZARUSOBA
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第一章 『クサナギとユイ』 4

木造建ての家が立ち並ぶこの町に、一軒だけ不相応な

豪邸が町の外れに存在していた。

豪邸の周りには何人もの兵士が巡回しており、そのいずれもが

機関銃を携帯していた。

豪邸の中では、ソファーにふんぞり返っている偉そうな男がいた。

歳は30代。

頭はモヒカンで、頬はこけており、それが元々鋭い目つきを更に

鋭くさせていた。

服は紺のジャケットを素肌の上に着ており、筋肉を

見せつけるような格好であった。

この男こそ、「チキン=タッカー」その人である。


タッカーの目の前には、先程クサナギから命からがら逃げ延びた

二人の部下が正座をして座っていた。

タッカーは、二人から事情を聞き、見るからに不機嫌になっていた。


「で、お前らは逃げてきたと?」

「は、はい……」


近くのテーブルにあった酒をグイグイと飲み始めるタッカー。

そして。


「この……タコがぁあああ!」


飲み干した酒瓶を目の前の部下に投げつける。

勢い良く目の前の部下の一人に命中する。


そして、タッカーは立ち上がり、部下の頭を掴み地面に勢い良く

叩きつけた。


「十一人もいて、たった一人にやられる奴がいるか! えぇ!?」



何度も叩きつけるタッカー。

部下の顔面は額が割れて、血が吹き出ていた。

止まらないタッカーの怒り。

これ以上続ければ死ぬ一歩手前ほどの時。


「そろそろ、いいんじゃないですか? タッカーさん」


壁にもたれ掛かっていた中年の男性が話しかける。

カウボーイハットを被り、髪の毛には白と黒が入り混じっている。

目は鷹のように鋭く、口には葉巻をくわえていた。

白いひげがもみ上げ辺りまであり、それが彼の渋さを更に際立たせる。

ウェスタン風の服と、腰には彼の金色の愛銃「S&L20」が備えられていた。


S&L20は、S&L社が二十周年を記念して作った

SAシングル・アクション式の拳銃』

銃口は45口径、銃身は140mmで装弾数は六発。

昔ながらのリボルバー拳銃である。


SAは、一度撃つと、再び撃鉄を倒す動作が必要となる。

故に、連射する事には向いていないが、精密射撃に特化している。

これに、S&L社が手を加えて銃の射撃時の反動、及び、精密さに

更に磨きをかけて作り上げたものである。

人によってはこの銃で無いと撃たないと言う人もいる。

その一人がこの男、タッカーお抱えの用心棒の

「トニー=ギャレット」である。


「と、トニー先生」


トニーに話しかけられた途端に、弱弱しくなるタッカー。

それもその筈、今の地位はトニーのおかげなのだから。

トニーの銃の腕前は一流。

何度か危ない時もあったが、このトニーのおかげで幾度と無く

乗り越えてきたのだ。


「話を聞いていたが、こいつらだけの責任じゃなさそうだ。

 相手さん……なかなかの腕前だな」

「そ、そうか」

「どうするんだ? 俺が町に出向くのか?」


トニーの鋭い眼差しがタッカーに突き刺さる。

それは、俺に任せろと言う眼差しではない。

「こんな仕事で俺を働かせるのか?」というものだ。

それを察しているタッカー。


「い、いや、俺の部下だけで何とかする。アンタにはここぞと

 いう時に働いてもらう」

「……分かった」


そんなやり取りが豪邸の中で行われている最中。

豪邸の外ではぎこちない動きで物影から様子を伺う人がいた。

アイリーンである。

手には拳銃を持っており、ガタガタと震える様子が

見て取れる。

クサナギにあんなタンカを切ったものの、実際にタッカーの

豪邸の前まで来てみればなんて事は無い、

自分も町の住民と一緒だと感じた。


中に入るには、豪邸の周りにたむろしている二十人ほどの部下を

倒さなければならない。

奇跡でも起こらなければ到底不可能。

「何もしない」ではなく、「何もできない」だ。

結局、物影から出る事も出来ず、ただ黙って様子を伺うだけ。


「何とか……しないと」


何時タッカー達が町を襲いに来るか分からない。

意を決して物影から飛び出ようとした時。


「ムグッ!?」


後ろから誰かに口を押さえられる。

アイリーンは全く気づかなかった。

我慢していた恐怖が、一気にアイリーンに襲い掛かる。

今にも泣き出しそうな表情。

だが……。


「心配してきてみれば、やっぱりか」

「!?」


その聞き覚えのある声にアイリーンは驚きと嬉しさが

こみ上がる。

後ろを振り向くと、そこにはクサナギ達が居た。

クサナギは呆れた表情。


「きて……くれたの?」

「ユイの奴が助けてあげたら〜と、言ってくるものだから

 仕方なくな」


あ〜あ、とため息をつくクサナギ。

そのクサナギの言葉に微かに笑うユイがいた。


「で? あの家の中にいるのか?」


クサナギが豪邸を指差す。

それに頷くアイリーン。


「ユイ、一番」


ユイはトランクの中のパーツを即座に組み立て、手渡す。

先程の酒場の中で見た自動拳銃だ。

そして、銃弾をこめると。


「ほんじゃま、ちょっくら行って来る」

「えっ? まさか、正面から行く気じゃないわよね?」


正面にはタッカーの部下が二人。

あんなところでドンパチやれば即座に周りにたむろしている

部下が駆けつけてくるだろう。

幾らなんでも無謀すぎる。

誰もがどうやって部下の目を盗んで豪邸に忍び込もうかと

考える場面においてクサナギは。


「ん? そのまさかだよ」

「!? まちなさい! 無茶よ!」

「お前らはそこで俺のショーでも見物してろ」

「い、意味わかんないわよ!」


クサナギは、フラフラと酔っ払いのような足取りで

正面のタッカーの部下二人に近づいていく。


「どうも〜」

「あん? 何だテメェは?」


ヤッホーと気軽に話しかけるクサナギに対して、機関銃を向ける

タッカーの部下。


「お暇そうですね?」

「何が言いたい? さっさと失せろ。でなきゃ蜂の巣だぞ?」

「そういうわけには行かないんですよね〜、これからパーティーが

 始まりますから」

「パーティー?」


何の事だ? と部下二人は互いに顔を見合わせる。


「あれ? 聞いてないんですか?」

「知らねぇよ。何時からだ?」

「今からですよ」

「あ?」


クサナギは口が三日月状に成る程の笑みを浮かべる。

そして、パーティーの開催を告げる銃声が二発響き渡る。

パーティーの参加者はおよそ二十人。

そんな数に全く動じないクサナギ。

いや、むしろ彼にとっては『少ない』ほどだ。



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