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クサナギ  作者: ZARUSOBA
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第一章 『クサナギとユイ』 3

「あっ! 待って!」


アイリーンは慌ててクサナギ達の後を追う。

入り口を出たところで、クサナギ達は立っていた。

クサナギ達の周りには何処から沸いて出てきたのか、町の住民が

クサナギ達を囲んでいた。


「あんた、何てことをしてくれたんだ!」


住民の一人が大声で怒鳴る。

そして、それに呼応するかのように周りの住民が口々に喋る。


「あんたのおかげで俺達はおしまいだよ!」

「そうよ! あんたが何もしなければこんな事には……」

「おしまいだ! あんたのせいで皆殺しにされちまう!」


クサナギに向けて次々と罵声を浴びせる。

それをただ黙って頷いて聞き続けるクサナギ。

そして、ある程度聞き続けた後。


「はい! もう結構です!」


クサナギは、そう言って手を叩いて大きな音を出す。

そのあまりに大きな音は、住民を黙らせるには充分だった。


「貴方達の言い分を聞いたところ、俺が厄介事に首突っ込んだ

 為に、あんた達に被害が及ぶと?」

「そうだ! どうしてくれるんだ!」

「じゃあ、あの時俺が女性を助けなければ万事解決してたと?」

「ああ! その通りだ!」


その言葉にがっくりと頭を垂れる。

そして、肩を震わせながら。


「クックックッ……ハァ〜ハッハハハ!」


腹を抱えて笑いだすクサナギ。

その場で地面に倒れて転げまわる。

その光景に、誰もが唖然としていた。


「おい、聞いたかユイ。こいつらの言い分」

「聞いた。まぁ、仕方ないんじゃない?」


呆れた表情を見せるユイ。

それはクサナギに対して、そして、この町の住民に対してもだ。


「いや、ここまで被害者面されると迷惑だな」

「な!? なんだと!?」

「ハッキリいってやるよ、あんた等、逃げているだけだよ」


クサナギはその場に座り込み、住民に言葉を投げつける。

逆切れとも思えるクサナギの言葉。

否、そう思うのは住民だけである。


「あの時、俺が女性を助けなければあんた等全員が助かった

 と言うのなら、それは悪い事をした。だが、実際には違うだろ?

 助けなくても、結局それはその場しのぎにしかならない。

 本当の意味で助かったとは言わない」

「うっ……だ、だが」

「あんた等はそうやって楽な方に逃げてきただけだ。

 本当に助かりたいのならあの襲われてた女性のように

 立ち向かうべきだ。あんたらに関しては反吐が出るぜ」


クサナギの言葉に返す言葉が無い住民。

なぜなら、全てクサナギの言ったとおりだからだ。

とはいえ、言葉で言うのは簡単だが、実際に行動を起こすのは

大変なものである。


「ちょっと、あなた言いすぎよ! 皆あなたみたいに力が

 あれば解決しようとするわよ!」

「あれ? アイちゃんは住民の味方なの? こいつら、あんた

 見捨ててたのに?」

「味方も何も、私が勝手に行動しただけ。この人達は関係ないわ」

「ふ〜ん」


クサナギはスクッと立ち上がる。

そして、今度こそ立ち去ろうとした時だった。


「待って!」

「ん?」


アイリーンがクサナギ達を呼び止める。

アイリーンは、意を決してクサナギ達に自分の思いを伝えた。


「もし良かったら、貴方達でタッカーの奴を懲らしめて

 やれない? 報酬も弾むから、お願い!」

「あ、アイリーンさん!? な、何言ってるんですか!?」


住民がざわざわと騒ぎ出す。

アイリーンは真っ直ぐにクサナギ達を見つめていた。


「断る。自分たちの問題だろ? 俺達には関係ない」


そう言って、クサナギ達は町の出口へと歩いていく。

それを後ろから追いかけるアイリーン。


「お願い! タッカーは今日の事を知れば、私たちに仕返しに来るわ。

 そうなれば、さっきの酒場と同じような事になるわ!」

「知らん。俺は関係ない。それに、アンタだけだぜ? 

 俺に頼んでいるの」

「それはさっきあなたに暴言を吐いたからよ、頼みにくいに

 決まってるじゃない」

「それほど切羽詰まってないって事だろ? あんたも諦めな」


話は常に平行線。

クサナギにはこれっぽっちも助ける気は無い。

そんな態度のクサナギに、アイリーンは賭けに出た。


「……分かったわ、私一人で何とかするわ」

「へっ? そりゃ無茶だろ?」

「無茶でもやるしかないの、このまま黙って死ぬわけには

 行かないわ」

「ふ〜ん、無駄と分かっていて、なお足掻くの?」

「そうよ。何もせず死ぬ事こそ本当に無駄だから少しでもあがくのよ」

「……」

「一応、タッカーの豪邸はこの先の町の外れにあるわ」


アイリーンはある方向に指を指す。

クサナギが酒場で助けてくれたときのように、

今回も助けてくれるとアイリーンは願うしかなかった。

無論、自分勝手で無茶苦茶だという事は

アイリーン自身が一番感じている。


「それじゃあ、『またね』」


そういってアイリーンは踵をひるがえし、町の方へと帰っていく。

それを黙って見送るクサナギ達。

そして、アイリーンの姿が完全に見えなくなった。


「ねぇ、クサナギ」

「……なんだ? ユイ」

「助けてあげるの?」

「まさか。俺はそんなに偽善じゃあない」


そういってクサナギは肩をすくませ、軽く笑う。

しかし、いつも隣でクサナギを見てきた少女には分かっていた。

彼が、こういう時どう行動するのか。


「重なるんでしょ? 『あの時』と」

「……」

「助けてあげたらいいじゃない? 町の人の為じゃなくて、

 あの、無力だけど必死にこの町を変えようとしている

 あの人の為に」


ユイの言葉に頭をガシガシと掻きむしるクサナギ。

その仕草は、照れているのか、イラついているのか。

答えは決まっている。

そして、そんな自分が嫌になるとクサナギは思っていた。


「なぁ、ユイ」

「何?」

「ちょっと、寄り道していくか」

「はいはい。……もう、馬鹿なんだから」

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