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クサナギ  作者: ZARUSOBA
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第三章『交わした約束』 5

そして、次の日になった。

クサナギは大会にエントリーをして、個室の控え室にて待機していた。

しかし、ここで一抹の不安が残っていた。


「ちょっとあんた、銃の腕前はすごいのは分かってるけど……今回は「素手」なのに

 大丈夫なの!?」


アイリーンは心配そうにクサナギに訊ねる。

そう。今回はあくまで格闘技。

当然の如く銃など使えるわけも無い。


「大丈夫、大丈夫。アイちゃんが俺を心配になる気持ちも分かるけど信用して欲しいな」

「あ、あんたね!」

「ナギ、死なないでね? 私を一人置いていくなんて許さないんだから」

「! さ、サラさん!?」

「そのセリフで一体何人の男を騙してきたんだ?」

「あら、ばれた?」


おもしろくないわね、とフゥとため息をつくサラ。

そんなやり取りを見てドキドキしているアイリーン。


「まぁ、どうせ勝つのはナギだろうし、そこの所は心配してないわ」

「はいはい。そのご期待にできるだけ応えましょうかね」


そして、係りの者がクサナギに時間を知らせに来る。

クサナギは係りの者に連れられて控え室を後にしようとする。


「く、クサナギ!」

「ん? どしたアイちゃん?」

「その……頑張って! 負けたら承知しないんだからね!」


その言葉に僅かに笑うと、手をあげて応える。

そして、アイリーンたちは観客席へと向かう。

観客席に行くと、一人ユイが席をとって待っていた。


「ごめんね、ユイちゃん。一人で寂しかった?」

「大丈夫、それよりクサナギどうだった?」

「いつもどおりよ、全く、あいつに緊張感ってないのかしら?」


呆れた表情のアイリーン。

ふと、ユイを見るとなにやら紙を握っているのに気づく。


「なにそれ? ユイちゃん」

「……賭博券。クサナギが勝つと、5倍らしいから」


グッと握り締めるユイ。

その様子を見て困った表情を見せるアイリーン。


「えっと……幾らかけたの? ユイちゃん」

「全財産」

「えっ!? ど、どうするのよあいつが負けたら!?」

「大丈夫、クサナギは負けないから。それにもし負けたら……」

「負けたら?」

「私が……殺す」


その感情がこもった声からはユイは本気だとアイリーンは察する。

密かに負けないようにと、祈るアイリーン。


「大丈夫よ、ナギは必ず勝つわ」

「サラさん信用してるんですね、クサナギのこと」

「ええ。一応ナギとは長い付き合いで分かるわ、あの人の強さは」

「……サラさん、あいつとは何も無いんですか?」

「と言うと、男女の関係でかしら?」


その言葉に僅かに頬を赤らめ、こくりと頷く。

サラはそんなアイリーンの様子にすこしだけ微笑む。


「そうね。男女の関係では何もないわ、残念だけど」

「ほ、本当なんですか?」

「ええ。そんなに気になるの?」

「だ、だって私より全然サラさんのほうが綺麗だし、もしかしてサラさんはあいつの事

 嫌いなんですか?」

「好きよ」


アイリーンの問いに即答で答えるサラ。

真剣な表情がそれが本気だという事も分かる。


「そ、それじゃあどうして?」

「まぁ、彼が鈍いのが一番で、私も彼に素直になれないところね」

「えっ?」

「怖いのよ彼に嫌われるのが。それならこのままでいいかなって……」

「サラさん……」

「さっ、そういう話はもうやめにしましょう。そろそろナギの出番だし」


ドラを叩く大きな音が場内に響き渡る。

そして、それに呼応するかのように大歓声が響き渡る。


『それでは、これより試合を開始いたします! 選手入場!』


場内アナウンスが始まり、二つの正反対の入り口から二人の男が入ってくる。

一人はやさ男で背が高く、お決まりのサングラスをかけてリングに出てくるクサナギ。

もう一人は2倍ほどの身長で上半身が裸で隆々とした筋肉を見せ付けるスキンヘッドの男。

見た感じでは明らかにスキンヘッドの勝ちであろう。

故に、2倍と5倍の破格の換金率。


「ぐふふふ……お前さんも運が悪いな? この「アイアン」の異名をとる

 ジョージ=ルーカスと相手とは」


スキンヘッドの男はニヤニヤと余裕の笑みを浮かべる。

自分の体格と比べてあまりに細いクサナギを格下の相手と判断した為だ。


「アイアイ?」

「アイアンだ! 貴様なんぞ試合が始まって10秒で片付けてやるわ!」


このリングに場外はない。

ルールは金的など危険行為は禁止で後は至ってシンプル。

「相手を倒せば勝ち」

そして、試合の開始を告げるドラが鳴り響く。


「死ねぇー! このキザ男がー!」


開始と同時にスキンヘッドの巨体が突っ込んでくる。

この狭いリングでは逃げ場が無い為、この戦法は非常に有効だ。

そして、クサナギの体をわしづかみにしようと左右から巨大な手が襲い掛かる。

しかし、クサナギはそんな事はとっくに「視えている」

スキンヘッドの両手が空を切る。


「ど、どこだ!?」


左右を見渡すスキンヘッド。

しかし、クサナギはどこにも見当たらない。

それもその筈、彼は両手が迫り来る時に男の懐に入る事で回避していたのだ。

そして、間抜けにも周りを見渡すスキンヘッドの男の顎めがけて拳を放った。

それは空気を切り裂くような鋭い一撃。

相手も予想だにしていなかった攻撃の為、そのダメージは計り知れなかった。

スキンヘッドの顔がのけぞり、バク転をするように巨体が宙に浮く。

そのまま大の字にリングに沈む。

それで試合続行は不可能と判断したレフェリーが勝者の名前を告げた。


「勝者! クサナギ!」


あまりに華麗で、予想できなかった試合展開に場内は驚きと興奮の声に満ちた。

そして、それに応えるように拳を突き上げるクサナギ。


「すごい……」


驚きの声を上げるアイリーン。

そして、その隣でグッと賭博券を握り締めるユイがいた。


「だから言ったでしょ? ナギは勝つって」

「サラさん」

「だって勝ってくれないと私の30万が無くなっちゃうところだったもの」

「……サラさんも賭けてたんですか」

「ええ。これで、あの人の弾薬代はチャラね」


上機嫌で話すサラ。

そして、この後もクサナギは勝ち、ついに問題の決勝戦へと辿り着く。

個室で待機しているクサナギ達に、思わぬ客が来訪する。


「あれ? カミュさん? どうしたんですか?」


アイリーンがカミュの来訪に驚く。

カミュは車椅子をたくみに操り、クサナギの待機している個室にはいって来た。


「いよいよですね……クサナギさん」

「ああ、だけど、その前に一人勝たないと無理だがな」

「ええ。ですが、あなたなら大丈夫でしょう。それよりもその後が……」

「分かってるよ」


決勝戦は前菜のようなもの。

メインディッシュはその後のバケモノだ。

カミュも心配でたまらないのだろう、だからこそこうやって微力ながらも

応援に駆けつけたのだろう。


「なぁ、カミュ」

「ハイ、なんでしょうか?」

「あんた言ったよな、あいつを「救ってやってくれ」と」

「……はい」

「二言は……ないな?」

「はい」


クサナギの執拗な確認に戸惑いを感じながらも答えるカミュ。

そして、クサナギから思わぬ提案が出される。


「カミュ、あんたは観客席に行かずにリングの近くで見てろ」

「えっ?」

「ちょっと、そんな事して大丈夫なの!? もし、あいつがカミュさんを……」

「そりゃ無いだろ、あくまであいつの目的は決勝戦の勝者と対決だからな。

 あんたは近くで見届ける義務がある、違うか?」

「……おっしゃるとおりです」




そして、係りの者がクサナギを呼びに来る。

遂に決着の時が来た。

先程とはうって変わって重い足取りのクサナギ。

そんなクサナギを心配そうに見つめるアイリーン達。


「クサナギ!」

「ん?」

「あんな奴やっつけちゃって!」



ビッと拳をクサナギに向けるアイリーン。

そんな仕草におもわずクサナギから笑いが漏れる。


「ああ。ほんじゃま、幽霊退治と行きますか」



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