第三章『交わした約束』 4
クサナギ達はあの惨劇を目の辺りにした後、カミュの家へと戻ってきていた。
皆重苦しい空気に包まれていた。
「……大体の内容は理解できたが、本当にお前の持ってくる依頼というのは
最悪だな!」
くそっ、と苛立ちを隠せないクサナギ。
彼を救って欲しい、それは彼を倒せと同義語なのだ。
「他に方法は無かったのか?」
「あればとっくにやってるわよ。遠くから銃で狙ったり、武器で倒そうともしたけど
全員返り討ち」
「ヴァンファーレとかいうのには頼らなかったのか?」
「駄目よ、もし頼って倒したとしてもその後が大変よ。賭博場なんかご法度だし、
直ぐに潰されてみんな暴動にでるわよ?」
「それじゃあ、結局」
「そう、あなた頼み」
手を合わせてお願いをするサラ。
頭を掻きむしり、見るからに不満そうなクサナギ。
「ナギも最初は結構のり気だったじゃない」
「こんな依頼だって分かってたら最初からやらない。しかし、本当にあれが友人なのか!?
ありゃあ、バケモノだぞ!?」
「ええ、確かに彼は私の友人です」
「根拠は!? 証拠は!? もしかしたら別人かもしれないぞ? というか、別人だろ!」
「証拠はありません。しかし、彼と分かるものが2つほどあります」
「本当かよ?」
「はい。一つは彼は必ず決勝戦で勝った相手と戦う事です。他の相手には手をつけません」
「……それはあんたの言う約束と同じだからって事か?」
「はい。そしてもう一つ、彼は、小さく同じ言葉を呟いているのです」
「同じ言葉?」
「彼はこう呟いていました。「約束……果たす」と、それを何度も何度も
彼をつき動かしているのはあの時の約束なのでしょう」
カミュは目に涙を浮かべながら語る。
本来なら自分が約束を果たし、それで終わるはずだった。
だが、それは運命のいたずらとも思える故障により果たす事ができなくなっていた。
「お願いですクサナギさん! 彼を! 友人を! どうか救ってください!
お礼はさせていただきます! どうか、どうか……」
カミュは泣きながらクサナギにすがりつく。
一刻も友人を解放してやりたい一心の思いで。
クサナギは頭を掻き、困った様子。
「しかしだな……」
「ナギ、あなたぐらいなのよ? あんなバケモノと渡り合える同じバケモノは」
「おいおい、俺もバケモノ扱いかよ?」
「あのバケモノは何らかの方法で相手の攻撃を見切っている。
そして、あなたもその『眼』で相手の攻撃を見切れるんだし」
「えっ? サラさん、クサナギの眼って何かあるんですか?」
「ええ。彼の眼は『レギス=エウス=クルス(全てを司る眼)』と言って、
眼の神経を伝って脳に直接干渉し、知りたい情報を瞬時にくれる眼。
例えば、相手の筋肉の動きやそれに伴う予備動作から相手の動きを『予測』する
事も可能で……」
「おいサラ! 余計な事いうな!」
「え〜? 別にいいじゃない?」
サラからもたらされる情報にただただ驚くだけのアイリーン。
それなら以前の銃弾を回避していたクサナギの行動も納得がいく。
彼は弾丸の軌道が本当に『視えていた』のだろう。
そして、以前のトニーのあの行動も全てお見通しだったわけだ。
「それって、未来が見えているってこと?」
「勘違いするなアイちゃん、未来なんてものは「無い」未来なんてものは作るものだ。
あくまで「予測」だ。ただ、その確率は100%に近いだけという事だ」
「それでも充分じゃない。それだったらあの人倒すのも簡単……」
「なわけ無いだろ。幾ら予測できたとしてもそれを回避できるかどうかは別問題」
「あ、成る程」
「でもナギ? あなた達は結局IDカードが欲しいんだから選択肢は無いとおもうんだけどな〜」
「ちっ、分かったよ! やりゃあいいんだろ!? だがな、一つ条件がある」
クサナギは真剣な表情でカミュのほうを見る。
その真剣な眼差しに思わず身構えるカミュ。
そして、クサナギの口から出た言葉は。
「美味い飯をくれ。もう、ここの不味い飯はこりごりだ」