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クサナギ  作者: ZARUSOBA
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第三章『交わした約束』 3

「救って欲しい?」


壁にもたれかかって驚きの表情を見せるクサナギ。

そして、ちらりとサラの方を見ると大きなため息をついた。


「おい、何処が俺にしか出来ない仕事なんだよ」

「まぁまぁ、とりあえず話を全部きいてからそういう事を言って欲しいわね。

 それに、簡単に越した事も無いんじゃないかしら?」


サラの言葉に確かに、と納得した様子のクサナギ。

そして、カミュの話が続く。


「友人とは子供の時からの長い付き合いで、それは仲が良かったものです。

 そして、彼が大きくなり、この街を出て行こうとしたときある「約束」を

 かわしたのです」

「約束?」

「まぁ、とりあえず聞くより見たほうが早いわね。皆で地下に行って見ましょうか?」

「! 地下!? ま、まさか『あれ』に行くつもり!?」


サラの提言に驚くアイリーン。

そして、サラに連れられるままにカミュの家をでて、街中へと再び進む。

カミュの車椅子を押しながら人ごみを掻き分け、街の奥へと進んでいく。

街の奥には人の出入りが激しい地下へと降りる階段があった。

中に入ると、そこには街とはまた別の顔が存在していた。


それは街とは比べ物にならないほどの人の多さ。

等間隔で存在する出店のような賭博場。

昼間のように明るい地下の灯り。

皆、殺気だっているのが見て取れる。

クサナギ達はその光景におもわず目を丸くしていた。


「これはまた凄いな、アイちゃん」

「まぁね、この街の本来の姿がこれだもの。地下の賭博街。

 上の道端で倒れている人はこれにつぎ込んでどうしようも無くなった人たちよ」

「な〜るほどね。確かに俺達とは関係ない場所だわ」


サラは周りの賭博場に目もくれずにどんどん奥へと進んでいく。

そして、着いた先は大きなドーム。

中に入るとそこには割れんばかりの歓声が聞こえてくる。

中央には砂で敷き詰められた丸いリングが存在していた。

そして、それを囲むように満員の観客がいた。

そんな熱気に包まれた場所では否が応でも血が騒ぐ。


「なぁサラ、ここと依頼人の仕事と何の関係があるんだよ?」

「依頼人のカミュさんは実は、ここで王者として4年間君臨していたのよ」

「ええっ!? ほ、ほんとうですかカミュさん!」


サラの言葉に思わず驚くアイリーン。

そして、そんなサラの自己紹介に照れるカミュ。


「ええ。確かに私は以前はここで王者として君臨していました。

 けれど、それから膝を故障してやむを得ず引退したんです」

「そりゃまた残念」

「……ええ。ですが、本当に残念なのは友人と戦えなかった事です」

「友人と戦う?」

「子供の頃、私達は約束したのです。もし、私達が大きくなったらこの闘技場の決勝戦で

 優勝を賭けて観客の心に残るような戦いをしようと」


名残惜しそうに試合を観戦するカミュ。

彼自身はまだ戦っていたいと思っているだろう、だが、彼の足の容態はそれを許してくれない。


「決勝戦って……これってトーナメント方式なのか?」

「ええ。一日5人ほどのエントリーで争われる小さな大会形式です」

「しかし、これとアンタの約束と何の関係があるんだ? まるっきり関係ないように

 思えるが?」


そう、あくまでカミュの依頼は「友人を救って欲しい」ここで彼らの関係や経緯を

知った所で依頼とは関係なさそうに思われる。

だからクサナギは訊ねた。


「……それはもうすぐわかります」

「あ?」


カミュの発言に戸惑いを感じるクサナギ。

だが、彼の言葉の意味は直ぐに分かる事になる。

突然の大きな歓声。

どうやら試合の決着がついたようだ。

一人は地面にひれ伏し、もう一人は高々と拳を天に突き上げ勝利をアピールしていた。

これがどうやら決勝戦だったらしく、トロフィーらしきものと、紙袋を持った係りの者が出てきていた。

それを受け取る勝者。本来ならこれで終りを告げる。

だがそれは、たった一人の男が乱入してきた事で妨げられる事になる。



選手がリングへと上がる入り口から一人の男が入ってくる。

男はくちばしのような仮面をつけていた。

仮面には覗き穴と思われる箇所もなく、あれでは何も見えないはず。

しかし、それを男は気にした様子はない。

体格は恐ろしいほど磨き上げられた筋肉の鎧。

上半身は裸で、その体つきは無駄な贅肉など見当たらない。

その男を見るや否や再び割れんばかりの歓声が鳴り響く。

だが、それはほとんどはいって来た男に対しての罵声であった。



「な、なんだあいつは?」


不気味な仮面の男を見て驚くクサナギ。

一目見て分かるのだろう、彼は只者では無い、"バケモノ"だと。


「あれが……私の友人です」

「!? はぁ!? あれがアンタの友人だと!?」

「はい。彼は毎日試合の優勝者と戦う為に現れる存在。そんな彼を

 他の方々は幽霊ゴーストと呼んでいます」


カミュと話している間にあのゴーストと優勝者が戦いを始める。

優勝者は先程の戦いの疲れを知らないかのような機敏な動きを見せる。

それに対して全くその場を動こうとしないゴースト。

あっという間にゴーストの死角、背後へと回りこむ優勝者。

そして、鋭くキレのある拳をゴーストの後頭部めがけて放つ。

本来のルールであれば、この行為は反則である。

だが、これは試合ではない。

その為、ルールなど存在しないただの殴り合いなのだ。

優勝者の鋭い拳がゴーストの後頭部を捉える寸前。

ゴーストは優勝者の方を見る事無く、首を前に倒してそれを難なくかわす。

しかし、優勝者は間髪いれず連続して拳を放つ。

だが、ここで驚くべき事が起こる。

ゴーストは優勝者の方を見る事無くまるで後ろに目でもついてるかのように

それを全てかわし続けたのだ。

あまりの異常な光景に皆言葉が出ていなかった。

優勝者の顔がみるみる青ざめていく。

そこで初めて気づいたのだろう、自分には手におえぬ怪物であることに。

そして、ゴーストはゆっくりと優勝者のほうに振り返るのと同時に、

何かハンマーで叩いたようなつぶれた音が響く。

それがなんなのか理解するのに数秒。

それはゴーストが優勝者の顔面を拳で貫いた音であった。

あまりにありえぬ出来事。

そして、ゴーストは用が済んだのか、再び入り口から帰っていった。



皆の時間が動き出したのはこの出来事から数分後だった。




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