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クサナギ  作者: ZARUSOBA
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第二章『白銀の義手』 4

昼下がりの工事現場。

町並みから外れたこの場所に人は通らない。

辺りでは工事のために使う鉄を打つ音が響く。

カーン、カーンと一定のリズムで打たれる鉄。


――それはまるで、今から行われる殺戮劇ショーの幕開けを

知らせる鐘のようだった。


銃を構える男と、刀を構える男の睨みあい。

互いに相手の隙をうかがう。

距離だけで言えば圧倒的にクサナギが有利。

目測で30mは離れている。

一歩二歩進んだだけで刀が届く距離ではない。

刀が届く距離になるまでに確実にクサナギなら倒せる。

後は、クリスが動いたと同時に銃を合わせれば良い。


「……なるほど、そういう事か」


静かにクリスが口を開く。

だが、その口調は話し合いをするような気配ではない。


「貴様はどうやら『今回』は俺に対して憎んでいるようだな」

「今回?」

「店で出会った時と殺気が違う。どうやら貴様はあの時

 俺では無く、違う人間を照らし合わせていたようだな。

 貴様の殺したい相手……それは刀を使う相手のようだな」

「……さあな」


無愛想に答えるクサナギ。

だが、手ごたえを感じたクリスは尚も喋る。


「そうだな、貴様を倒した後はそこの幼女でも切り刻むとするか」


そういって、チラリとユイの方を見るクリス。

その挑発とも思える言動が戦いの火蓋を切る。

クリスの言葉にキレたクサナギが引き金を引く。

しかし、それをクリスは待っていた。

相手が「先に」放つ一発目。

先程からクリスに向けられていた銃口。

故に、その弾道は簡単に予測できてしまうのだ。


クサナギが放った弾丸とすれ違いに外套がなびく。

30mほどあった距離を一瞬にして0にしてしまう程の踏み込み。

その踏み込みの速さに驚くクサナギ。

そして、踏み込むと同時に電光石火の一撃が繰り出される。

クサナギの体を横一文字に切り裂こうとする赤い牙。

しかし、その行動は先程の構えから予測できていた。

幾ら剣速が速いとはいえ、あまりに単純(シンプルすぎる。

当然のように、クサナギは後ろに身体を引いて避ける……が。


「フッ!」


横一文字に切りさこうとした牙は、クサナギの体の中心で止まり、

『突き』に変わる。

しかし、これも予測の範囲内。

クサナギは体を捻ってコレも避ける。

この瞬間、クリスの体は大きくバランスを崩していた。

すかさずクサナギは銃をクリスの額に向けようとする。

この至近距離ならまず外さない。


だが次の瞬間、信じられない事が起こる。

クリスは生身の腕を刀から離し、義手の腕のみで刀を握った状態にする。

そして、義手が180度回転したのだ!

自然と刀の刃が切り上げる形に変わってしまったのだ。

横薙ぎ→突き→切り上げの三段構え。

元よりクリスはこの切り上げこそが本命。

そして、赤い牙がクサナギの首めがけて襲い掛かる。

本来なら有り得ぬ刀の軌跡。誰が避けられるだろうか?

そう、この行動が『分かって無ければ避ける事はできない』だろう。

それはクリスが一番分かっていた。だが……。


「っ!」


何と、クサナギは間一髪この攻撃をかわしたのだ!

クサナギは態勢をわざと崩し、背中から地面に落ちる動作でコレをかわす。

そして、すかさずクリスめがけて銃を発砲。

地面に倒れる前に3回引き金を引く早業。

銃弾をかわしつつ、クリスは慌てて距離を離す。

クサナギが立ち上がると、かけてあったサングラスが落ちる。

どうやら、先程の一撃で切れていたようだ。

もし、後コンマ一秒遅れていれば首がとんでいただろう。

互いに態勢を立て直し、次の行動に備える。


「ユイ! 予備パーツで『二番』だ! 時間は計っておいてやる!」


言葉と同時に真横に走り出すクサナギ。

それと平行に走り出すクリス。

一定の間隔をあけての並走。

走りながら銃を発砲するクサナギ。

しかし、クリスはいともたやすくそれを刀ではじく。


この状況はクサナギにとって最悪だった。

少しでも攻撃の手を緩めれば奴に近づかれてしまう。

故に無駄弾と分かっていても撃たなければならない。

更にビルの中は広いとはいえ、限界がある。

このまま並走し続ければいずれ壁に激突する。

壁に激突するのが先か、弾薬が尽きるのが先か。

いずれにせよ、そうなってしまうと後はあの赤い刀が容赦なく

襲い掛かるだろう。


「チッ! しつこい男は嫌われるぜ!」

「残念ながら、既に嫌われているからな」


クサナギは途端に足を止めてクリスを向かいうつ。

レイドリックを弾薬がある限り連射する。

しかし、クリスは弾丸をはじいて少しずつ間合いを詰める。

幾ら自動拳銃で連射が可能としても一発一発の間に確実に誤差がある。

その誤差がクサナギにとっては命取り。

そしてついに、スライドが停止して機関部が露出した状態になる。

『ホールドオープン』だ。

これは、銃に弾薬が切れた事を意味するものである。


この状態の意味をクリスは知っていた。

すかさず、弾薬を補充させる前にケリをつけようとクサナギに

走りこむ。

そして、二の太刀はいらぬといわんとばかりに渾身の袈裟切りを放った。

コレでクサナギの胴体は真っ二つになると思われていた。

しかし、クサナギの体に触れる寸前に歪な金属音がビルに響き渡る。


「なっ!?」


驚いた声をあげたのはクリス。

彼が放った渾身の袈裟切りは、紅い銃によって防がれていた。

しかし、彼が驚いたのは刀を止められたことではない。


"切れなかった事だ"


彼の刀は全てを一刀の元に両断する切れ味。

実は、彼の刀はある名工が作り上げた最強にして最凶の刀。

如何なる物を切り続けても刃こぼれ一つしない刀。

彼自身、今までで切れなかったものなど無かった。

しかし、今この場で初めて切れぬものと出会ったのだ。


愕然とするクリス。

その隙をクサナギは見逃さなかった。

すかさず、クリスのみぞおちに渾身の蹴りをぶちかました。

ぐっ、と苦悶の声を漏らしながらクリスはわずかにのけぞる。

その距離は僅かにしろ、クサナギにとっては願っても無い事だ。

何しろこの時既に、新しい武器がクサナギめがけて飛んできていたのだから。


彼を倒すにはどうすればいいか?

答えは簡単、彼を近づけさせなければいいだけだ。

彼に対して使う銃は、近づけさせない事、"手数"の方が重要。

そう考えると、「一番」の自動拳銃や、「三番」の散弾銃などでは

あまりに役不足。

クサナギはユイから投げられた銃を片手で受け取る。



クサナギが選んだ銃、それはトリガーの前方に大きくはみ出たマガジン

が特徴的な銃で、一分間に約600発程度の連射が可能な銃。

短機関銃サブマシンガン

引き金を引き続ける事で連射が可能なフルオート式の銃だ。


更に、このレイドリックの短機関銃は珍しい事に、

マガジンは二つ存在する。

一つはトリガー前方に付けられており、そしてもうひとつは、

銃の後方に大きな筒状のマガジンが備えられていた。

このレイドリック「二番」の短機関銃の弾数はおよそ300を越える数の

弾がマガジンに装填してあるのだ。


すかさずクサナギは短機関銃をクリスに向けて放つ。

如何に彼が銃の弾をはじけるとはいえ、絶え間なく襲い掛かる

一秒間に60発もの凶器をどうやって返せようか?

彼自身にそんなスキルは存在しない。

だが、はじき返すすべを彼は知っていた。


彼は義手だけで刀を手に持つと、義手の手首が高速で回転し始める。

一瞬にして、刀のバリケードが出来上がる。

クサナギは発射し続けたが、バリケードを突破する事はできなかった。

銃弾を100発近く残し、対峙する。

クリスもクサナギの攻撃が止むと同時に義手の回転を止める。


「ちっ、えらく便利だな! その義手!」


忌々しそうに見つめるクサナギ。

あまりに豊富すぎる義手のギミックに呆れていた。


「……貴様のその銃、誰が作ったのだ?」

「お前に教える必要は無い」

「そうか……ならば、貴様のその『眼』はなんだ?」

「これは生まれつきだ」

「誤魔化すな。青い眼の方はともかく、貴様のその『紅い眼』は

 普通ではない。何か仕組みがあるな?」

「……」

「先程の三段攻撃のかわし方、あれは反射神経のたぐいでは無い。

 恐らく貴様は俺の攻撃を『分かっていた』違うか?」


クリスの予測。

それはほとんど的中していた。

彼の眼は普通の眼では無く、常人ならざる能力ちから

備わっているのも確かなのだ。

しかし、その仕掛けを話すほどクサナギはお人好しではない。


「だったら何だっていうんだ? 諦めて死んでくれるか?」

「残念だが、俺にはやらなければならない事がある。それが終わるまで

 死ぬわけにはいかない」

「そりゃ残念。志半ばでここで俺に殺されるからな」

「貴様が只者でない事が解った今、全力で葬るとしよう」


クリスがそう告げると、刀を鞘に戻す。

そして、腰を僅かに落とし、生身の手を鞘に添え、義手で

刀の柄を持つ。

そして、彼は告げる。



「――ジェクト(開放)」


瞬間。異常な光景を目の当たりにする。



義手の接合部分が開く。いや、『展開』していく。

肩の辺りから金属の羽のようなものが生えてきていた。

接合部分が開いた所からは異様な音が発せられる。

まるで、うめき声のような音。


「! クサナギ、ダメ!」

「!? ユイ?」


遠くで見ていたユイが大声で叫ぶ。

彼女にはわかっていたのだろう。

あの義手が展開した意味。

そして、あれから発せられる一撃が『必殺』であることも。

ユイの叫びでクサナギは一瞬で悟る。

あれと戦ってはならない、逃げろと。

しかし、既に向こうの準備は終わろうとしていた。


「今更気づいても遅い、何処に逃げようともこの距離の時点で

 貴様の負けは決まっている!」


そして、彼の一撃が放たれようとした時……!

突然、車がビルの中に突っ込んでくる。

それに気を取られるクリス。

ほんの一瞬。

しかし、その一瞬がクサナギ達の生死を分けたのだ。

すかさず、短機関銃を放つクサナギ。

しかし、先程と同じように鞘から刀を抜いてバリケードで防ぐ。

そして、車がクサナギ達に隣接する。


「ちょっと! 早く乗って!」

「アイちゃん! 助かった〜」


緑色のジープに乗り込むクサナギとユイ。

そして、急発進でその場を後にした。

それを黙って見逃すクリス、いや、諦めたといったほうが正しい。

そして、彼はジープが見えなくなってからその場を後にした。



「いや〜、助かったよアイちゃん。でも、どうやってあそこが

 わかったの?」

「念のためユイちゃんに頼んで発信機を付けさせてもらってたのよ。

 それで、ビルに近づいてみたらあの状況だったわけ。でも、何があって

 あんな状況になってたのよ?」

「あ〜、それは道中で話すわ。しかし、これでアイツともおさらばって

 訳だな」


ぷは〜、と安堵のため息をつくクサナギ。

ユイも顔には出しては無かったものの、ほっと一息ついていた。


「クサナギ」

「ん?」

「時間……何秒だった?」

「……えっと、その、6分32秒06かな?」


と、今頃ストップウォッチの針を止めるクサナギ。

ユイの顔がみるみる不機嫌そうになっていく。


「……もういい。今度から自分で作れば?」

「わ、悪い! だけどあの状況は仕方ないでしょ、ユイ」

「知らない」

「ゆ〜い〜!」


アイリーンはそんな二人を見ながらクスクスと笑う。

そうして、彼らは次の町へと向かった。


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