第二章『白銀の義手』 2
彼の姿はあまりにも浮いていた。
綺麗な町の外観にそぐわぬ擦り切れた外套。
周りの者たちは皆、彼の事を浮浪者か何かと思っていた。
彼も本来ならこんな町に来る予定は無かった。
自分が本来居る場所とは違い、あまりに眩しすぎるこの町。
久しく忘れていた感情が微かに甦る。
だが、すぐにかき消す。
もし、その感情が戻るとすれば、自分の目的が達成した時だ。
彼は目的を達成する為にこの町に出向いた。
だが、結局の所彼の無駄足に終わってしまった。
ならばこの町に長居は無用。
そう思って彼は直ぐに町の出口へと向かっていた。
だが……。
「兄さん、ちょっと顔貸してもらえる?」
彼の目の前に4人ほどの悪人面の男がいた。
面倒な事に巻き込まれる前に出て行きたかった。
彼の心中は穏やかではなかった。
目的は達成できなかった。
先程のサングラスの男との出会い。
そして、この足止め。
……歯がゆい。そう、感じていた。
彼は4人に四方を囲まれある場所へと連れて行かれる。
そこは工事途中でほったらかしにされたビル。
中はだだっ広い空間が広がり、スカスカの状態。
露骨にむき出しの鉄骨。
地面には資材と思わしき鉄部品が無残に転がっていた。
唯一、外からは見えないようにビル全体にシートがかけられていた。
彼は中へと連れられて行く。
そして、目の前には先程の手首を失った男が居た。
男の周りに10人ほどの手下と思われる男達がいた。
その状況である程度彼は察した。
「さっきはよくもやってくれたな、ええ!」
怒りに満ちた声がビルに響き渡る。
周りにいる男達が隠し持っていた武器を取り出す。
彼はそんな状況でも一切取り乱したりしなかった。
それどころか。
「ふん、怪我の具合は至って良好のようだな? いっそあの時
片腕を切ってしまえばよかったか」
挑発とも思える言葉を発した。
そんな言葉を受けた刺青の男はこめかみに青筋を立てていた。
「なんだとテメェ! お前のおかげで俺は手を失ったんだぞ!?
この落とし前はきっちりさせてもらうぜ!」
周りの男達がじりじりと彼ににじみよってくる。
次の瞬間に待っているのは一方的な暴力。
そう、思っているのは彼等だけ。
外套を着けている彼だけは違う事を思っていた。
「……くだらんな」
周りの男達を見渡して彼はポツリと呟く。
そして、彼は一振りの刀を取り出す。
不気味なほど真っ赤に染まった刀身。
そして、それを持つのは白銀の義手。
彼はあの時断言した。
『相手が例え蠅のような存在であろうと容赦はしない』
そして、彼はそれを実行した。