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2時間目 -(2)


 デートしてくれはさすがに直球すぎて、生徒たち、副担任ですら驚きの声を上げていた。

 さすがにいきなりデートとか言うのアウトだったよな。

 そう気付いた俺はすぐに訂正で「個人面談みたいなもんだ」っと付け足しその場はなんとか収まった。

 実際収まってもない気もする。



 まぁ兎にも角にも、俺と一番初めにデートをするのは……。

「もうすぐ来ると思んだが」

 俺が待ち合わせ場所(と言っても学校内の庭)できょろきょろとしていると

「先生!」

「う、うわあ!?」

 まさか背後から来ると思っていなかった俺は思わずみっともない声が漏れる。

「背中ガラ空きでしたよ」

 はっきりとした涼しい声で微笑んだ者こそシルミーだ。

「ま、まぁ、気配には気づいてたけどな」

 俺はそれっぽいことを言い返す。

「さ、さすが先生!ワザとアタシに隙を」

 いや実際は全然気付いてなかったけどね。これっぽっちも気配感じなかったから。

 目を輝かすシルミーには申し訳ないが、そういうことにした。

「それじゃあ、座るか」

「はい」

 俺の提案で一番近くのベンチに腰掛けたシルミーと俺は少しの沈黙が訪れる。

 風で森が揺れると、シルミーの銀髪もさらっと揺れた。

 それにしても綺麗な髪してるよなぁ。

 せっかくの銀髪だし、キャラ的にも伸ばせばいいのに〜。

 そうぼけ〜っとシルミーを眺めているとシルミーが俺の視線に気がついた。

「な、なんですか!?なにかついてますか?」

 シルミーは見る見るうちに頬を赤く染めた。

 しまった。じっと見すぎたな。

「い、いや別に。ところで」

 話を紛らわすために俺が本題に入ろうとすると

「何かあるなら言ってください!一度言われるとアタシ、気になるタイプなんです!」

 そう言ってシルミーは俺の元に近づく。

 元々ベンチが小さいのに近づかれたら……近い近い近い近い。

 現在。俺の顔のすぐ横にシルミーの顔がある状況。

「ちょ、ちょ、ちょっとシルミー近くないか!?」

「じーー」

 ダメだ聞こえてない。


 隊長。この状況はさすがに俺でもやばいです!

 うむ、その場で待機。

 隊ちょおおおおおおおおお!?


 俺の脳内でこんなくだらないやり取りをするほどパニック状態に陥っていた。

 てか、こんなに近くで見ると、やっぱりシルミーも可愛いよな。

 顔は小さくて、メイクなんてしていないにも関わらず瞳は大きい。

 へ〜眼も髪と一緒で銀色なんだ。

 唇はぷるっとしてて、健康的なピンク色でって、呑気なこと言ってる場合じゃねえ!

 この子を早く止めないと俺が萌え死にする。

「な、なにがあるんですかアタシ!」

 焦ってるシルミーの息が俺の顔に当たって、てかこれはさすがにやばい!

 俺の体にほぼシルミーが乗りかかってる状態だ。

 なぜこうなったんだ!?

 わざとなのかシルミー!?

「せ、せんせい?」

 シルミーから甘い女の子特有の甘い香りが俺の鼻から脳へいき溶かしていく。

 それに加勢するかのように吐息がああああああああ。

「と、とにかくシルミー!!」

 俺は慌てて立ち上がり話を切り替える。

 シルミーは俺に寄っかかってたのでそのままベンチの端に頭をぶつけた。

 ごめんっと思いながらも話を続ける。

「今この時間を取ったのは大事な話をするためなんだ」

 セイタメモ。

 新たな生徒の一面がわかったな。

 シルミーは夢中になると周りが見えないタイプであるみたいだ。

 こんなところをミルニィなんかに見られたらやべえからな。

 よ〜く覚えておこう。

「それで本題だが……なんでシルミーは俺の案に反対なんだ?詳しく教えてくれないか」

 俺が尋ねるとシルミーは少し表情を暗くさせる。

「そのことですか……」

 シルミーは何か躊躇っているようでずっと地面に生える草ばかりを見つめている。

「もし何かあるなら話してくれないか?一応、俺は担任なんだし」

 前の世界での自分に関する記憶がところどころ飛んでいてよくは覚えてないが、俺は女子と話すのが特別苦手ではないようだ。たぶん前の世界でも女子とは話していたからなのだろう。たぶんな。

「アタシは元々……」

 シルミーは地面から俺の方へ顔を向け続けた。


「貴族の娘なんです」

「貴族?」

 たしか貴族というのはRPGでいう王城に住んでいる人とかのことじゃなかったっけ?服装がドレスで……。

「はい。下級の貴族ですがね」

 苦笑いでシルミーは空を見上げる。

「両親は、跡取りとして貴族の殿方と婚約させようと思っていたようで……」

 俺は黙って頷く。てか、それしかできなかった。

「でもアタシは剣を振うのが好きで、昔からお父様とお母様の目を盗んでは素振りを続けてました」

 さっきとは変わって、表情がにこやかになる。当時のことを思い出しているのだろうか。なんだか楽しそうだ。

 シルミーのこの表情……いいなあ。

「それで」

「それでアタシは勇者になりたいっ!て気持ちがどんどん大きくなって……アタシ思ったんです。あのまま家に閉じこもってる生活なんて嫌だ。貴族になりたくないって」

 シルミーは力強くそう言い切ると、徐々に表情からあの活き活きとしたものが失われていく。

 俺は黙って両腕を組む。

「けど、両親は反対しました。まぁ、当たり前のことなんですがね」

 シルミーは続けて言う。

「だけど、どうしてもなりたくて、諦めたくなかったアタシはなんとか説得して、ある条件で勇者育成学園に行くことを認められたんです」

「条件って?」

 俺が訊ねるとシルミーはきっぱりと答える。


「成績優秀者として、勇者になり卒業すること」


「だったらなおさら、強くならなきゃいけないじゃん」

 俺がそう言うと強く肯定された。

「たしかにアタシは強くなりたい!」

「なら」

 俺がそう言いかけると、シルミーは目を逸らしてしまう。

「…………」

 シルミーはそのまま黙ってしまった。

 さっぱり意味がわからず俺も黙ってしまう。

「…………」

 お互い黙ってしまい、シーンとなる。

 普通の生徒は今は授業中のため今ここには俺らしかいない。そのため異常に静かである。

 風が強く吹く音だけしか俺らの耳には聞こえない。

 正直、気まずい……。

 俺がこの気まずさに耐えられなくなり何か違う話に変えようとした時だった。


「……全力を出すのが……怖いんです」

「え?」

 俺はいきなりのシルミーのカミングアウトに言葉が詰まってしまった。


「自分の全力で……ダメだった時が怖いんです。アタシは魔法が苦手で、こればかりはどうしても上手くいかなくて……」

 俺は何も言えず黙ってシルミーの言葉を聞き続ける。

「そんなアタシが唯一の剣でも上手くいかなかったら、もう諦めなきゃいけなくなる……それが……怖いんです」

 風でシルミーの柔らかい髪がふわっと揺れた。

 シルミーはそう言うとまた地面に目を戻そうとする。だが、俺は戻す前に言った。

「だったら、魔法の鍛錬やんなくていいじゃねえか」

「え?」

 俺の言葉にシルミーは不意打ちを食らったように固まる。

「で、ですがそれは必須科目で」

「ん?なら俺がじい、学園長に言って、なしにしてもらうから」

「で、でも」

 明らかにテンパった様子でシルミーは俺を見つめる。

「シルミーは剣が得意なんだろ?」

「は、はい。自分ではそう思ってるつもりです」

「なら得意分野を伸ばせばいいだけだ。その分、剣の鍛錬は2倍にする。そうすれば剣にもっと自信がつくだろ?他のやつより二倍以上やることになるんだし」

 俺はシルミーがあたふたしてる間に続けて言う。

「成績優秀者はたしか、実践試験での結果だ。つまり魔法が出来なくても関係ない。結果主義だ。だったら、魔法をカバーするくらい剣を上達させろよ」

 これでシルミーの魔法が苦手という問題は解決、したはずだろう。

 あとは……。

「シルミー」

 俺が名前を呼ぶとシルミーは微妙な返事をした。

「は、はい!」

 俺はシルミーの目をまっすぐに見て、語った。

「失敗なんか恐れてちゃ成績優秀者にはなれねえよ……。もしお前がそのまま何もしなければ、何もしない結果しか訪れない。シルミー自身が動かなければ、何も変えられないんだ。敵が強けりゃ、自分もその分練習して強くなればいいんだよ」

 RPGでもレベ上げが常識だ。強いボスが出て勝てなくても、もっとレベ上げすればクソゲーでない限り、絶対に倒せる。

「努力は必ず報われるわけじゃねえ、普通はな。でも、お前の場合は元々の才能があるじゃねえかよ」

「さ、才能なんてないです!」

 俺の言葉を否定してきたが、無視して続ける。

「前の成績見させてもらったけど、剣技の成績はいつも上位じゃねえか」

「いや、それは……」

 シルミーはまた黙ってしまう。

 自分でももう気づいてるはずだ。

「しかも本気出さずにこの成績ってことだろ?普通にすげえし、強いじゃねえかよ!だったらもっと自信持てよ。せっかくのその才能、生かさないでどうする?」

 シルミーは何か考えるように難しい顔をしている。


「その才能が欲しくても手に入らない。挑戦すらできねえ奴だっているんだ。……そいつのためだとも思って、頑張れないか?」


 俺がすべて言い終えると、シルミーはまだ何か考えているようだった。

 きっと頭の中で自分の問題を整理しているのだろう。

「…………」

 すると地面に視線を向けていたシルミーがゆっくりと顔を上げる。

 そして、俺の目を見てシルミーは告げた。


「アタシ、頑張ってみます!」






2月1日10時までもう一話更新予定ですが、ちょっときついかもしれないですね(笑)

もし更新が間に合わない場合は次回の更新は今週中で不定期になると思います。


(これからは基本週1で『22時』または『23時』または『0時』に更新します)


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