9話
扉の中に入ると、薄暗い森が奥へ奥へと続いていた。見上げると、大きな木々が悠貴を囲むようにそびえ立ち、空が見えない。空が明るいのか暗いのかもわからない。道はかすかにわかる程度。土が砂利と一緒に見えている。灯りは、オレンジ色の丸い電灯。それが道なりに一つずつ、ポツンポツンとおいてあるだけで、とても歩きにくい。悠貴は、とりあえず前へ進んだ。土からは少し湿った匂いがした。
少し進んだと思われるところで悠貴は立ち止まった。なんの気配も感じない事に気がついたのだ。不気味に思いながらまた歩き出した。深緑の森林、その間を通るように道が一本。森林はその道を避けているように、見事に開けている。そんな光景が、歩いている間ずっと続いた。
歩き続けて何十分か経った頃、不気味な羽ばたき音と鳥の鳴き声が聞こえた。それは、ずっと続いてさすがに悠貴もビビった。前に歩き続けていたのだが、周りがずっと同じ景色なので、いつ終わるのかわからなかった。
少し雰囲気が変わった。あんなに悠貴を囲むように道に沿ってそびえ立っていた木が、少なくなったからだろうか。道は先程より見えやすくなっている。だが、相変わらず道は一本のままで、分かれ道も何もない。木はその道に沿ってそびえ立つままだ。悠貴は、来た道を戻ることもなく、そのまま進んでいった。
しばらく進むと、遠くに今までと違う光景が見えてきた。悠貴は、嬉しくなってそれをくぐったのだが、ひらけた場所には、看板と今までなかった分かれ道だった。看板には、「みぎに進め」と書いてある。彼は一瞬悩んだが、立ち止まらずに、そのまま右に進んで行った。ぐんぐんと大幅に歩みを進めていくと、だんだんとまた木が道に沿っていく。それは彼にとって、木が生きているように見えた。
また前と同じ、木が道に沿って立つ光景がしばらく続いた。ひとつ違うのは、今まで下が木のせいで暗くて見えなかったり、見えたとしても土だったりしたのだが、分かれ道を進み続けていたら、だんだんと砂利道になっていった事だ。小石と少し大きめの石が入る砂利道になってから、歩きづらくなっていった。ずっと歩き続けていた悠貴の体力は、限界に近づいていた。
歩くのも辛くなっていくうちに、周りの木が少なくなっていく。砂利道も、土に変わっていった。そしてひらけた場所に出ると、再び看板と分かれ道が現れていた。分かれ道は、前と同じ二つ。そして、看板には「みきに進め」と書いてある。悠貴は、立ち止まって考え始めた。パッと見ると「みぎ」と見えてしまうが、よく見ると「みき」と書いてあったのだ。これは二択なのか、それとも違うものを指しているのか。彼は、ずっと手を顎にあて、考え続けた。ふと視線を下に向けると、砂利道から土に変わっていた地面に、ポツポツと赤黒いシミが少し目立っていた。それを見て決断したのか、彼は前を向き、少しずつ歩き始めた。それは、左でも右でもなく、道のない真ん中だった。
悠貴は木をかきわけて、進んでいく。しばらく木をかきわけながら進んでいくうちに、草道が見え始めた。だんだんと木も拓けてきて、草道が目立つようになった。そして草道に沿って、木が目立つようになっていき、歩きやすくなった。この草道はあったのか、それとも出来たのか、彼にもわからなかった。体力もない彼は、へとへとになりながらも、しばらく歩き続けた。
ずっと草道が続く。道に沿ってそびえ立つ木は、減る様子もなく、歩いて行くうちに、草道は土の道に変わっていった。歩くのに疲れた悠貴は、立ち止まって、息を整えた。その時、聞いたことのある不気味な羽ばたき音と、鳥の鳴き声が響き渡った。彼の背筋に寒気が襲った。なにか嫌な予感がしたのか、思い切って後ろを振り返ったが、何もなかった。寧ろ、今さっき来た道はそこになく、後ろの道は木で塞ぎ込まれていた。
「無機質な気配を感じたが、気のせいか」
そう言って、彼はまた歩き始めた。
しばらく土の道を歩き続けていると、道に沿ってそびえ立っていた木が、少なくなってきた。暗い道の先に、オレンジの光が見え始めた。悠貴は嬉しくなり、少ない体力だが早足になっていった。周りにあった木が、歩いて行くうちに数本になっていく。一番最初に見たオレンジ色の丸い電灯が、目の前に見えてきた。次にすすめるのかと思った悠貴の足は、だんだんと早くなっていく。オレンジ色の電灯を辿って行くと、少しずつそれが少なくなっていった。そして、最後の電灯が悠貴の目の端に映った時、目の前に大きな扉が現れた。その扉の周りは、大きな岩の壁で、触るとひんやりとゴツゴツとした肌をしていた。彼は扉の前に立ち、二つ開きの片方を強く押した。扉は少しずつ動き、その奥から光が溢れだした。溢れだした光をくぐると、最初の部屋と同じような部屋がそこにあった。




