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Letter〜呪いの館〜  作者: 猫田 るめる
深緑の森
7/11

7話

 それから一時間近く誰も喋らなかった。

 あんな光景を見て、喋れる奴がいるわけない。むしろ、今のこの状態がぴったりだと思われる。悠貴の頭中で鮮明にあの光景がリピートされながら流れていた。

 無言が続く中、女が呟いた。

「あの人、食べられたのかな…?」

 震える声でそうつぶやいた女は、手で顔を覆い、首を振りながら

「嫌よ、死にたくない」

と言った。

 このゲームが始まって、誰もが思っていることだ。

 その女の泣き崩れる顔を、悠貴らはただ見ることしかできなくなっていた。

 恐怖心が打ち勝って、周りのことは見えていない。自分のことしか考えなくなってしまっている。そんな状態なのだ。

 そしてまた一人の男が呟いた。

「次は、誰が行くんだ…?」

 その男の言葉には、誰も反応しなかった。シンとしたこの空気には、恐怖と死という文字しかない。

 『このままではゲーム終了できなくなってしまう。だが、俺だってあいつには食べられたくないという恐怖心がある。ここで誰かが行ってからの方が安心していけるのだろうが、カーリババが言うには、あの人形はランダムで俺達を襲いに来る。そうしたら、もし次俺が行ったとしてもあの人形が出てくる確信は半々だ。』

 悠貴は、葛藤しながら考え込んでいた。

「俺が行こう」

 そう切り出したのは、重明だった。悠貴は恐る恐る重明に聞いた。

「父さんいいのかよ…、あの人形、いつどのタイミングで現れるのかわかんないんだぞ?…怖く、ないのかよ?」

 そう尋ねたが、悠貴も重明の答えはもうわかっていた。彼の手が震えている。

「誰も行かないのなら、俺が行く。そうでもしなきゃ、進まないだろう?」

 そう言って重明は、あの大きな扉の前へと歩みだした。

 重明が大きな扉の前に着いて、悠貴はごくりと生唾を飲んだ。重明は悠貴の方へと振り向いた。悠貴にとってその姿は凛々しく、とても格好良くて尊敬する。だが、悠貴の心の中は不安でいっぱいだった。

 重そうな扉が開く。と同時に悠貴の動悸が激しくなっていった。何故か中は最初の時とはあきらかに違う。真っ暗に包まれた中は、何も見えなかった。

 これはまた、出てくるのか…?

 そう思った悠貴だが、重明はそそくさと中へ入っていった。扉がバタンとしまったあとは、ほとんど何も起きなかった。

 『父さん、大丈夫かな。』

 そんな悠貴の心配は、すぐに終わった。相変わらず派手な音と派手な画面が出る。その後、クリアした人の顔と名前が出てくるようになった。

 『画面が進化してる、一人やられたからか?それとも最初はデータがちゃんととれていなかったのか』

 重明がクリアしたらホッとしたらしい悠貴は、真剣な眼差しで画面を見つめていた。

「あのおっさん、クリアしたな」

 一人の男が、周りにいる人たちに言う。

「次は、誰が行く?」

 また周りがざわざわし始める。彼らは困惑の表情を浮かべていた。

 悠貴にも行くという選択肢はあった。だが、悠貴にとってもあのおかめ人形はさすがに足が震える。

 沈黙のまま時がすぎる。悠貴はずっと考えていた。

 『誰かが行ったほうがいいのだろうが、誰も手をあげる気配もない。ここは、俺が立ち上がるべきか。』

 仕切りもつがず、悠貴は頭を巡らせていたが、一人の女が呟いた。

「私が行くわ」

 明らかに若い女の人だった。彼女がそう呟いた数秒後、周りにいた人たちは少し遠ざかり、悠貴から彼女がはっきり見えるようになった。16歳くらいだろうか。周りに親と見受けられる人はおらず、彼女だけがぽつんとそこに立っていた。

「私が行く」

 そう言って、彼女は1歩ずつ歩みを扉の方へ進めていく。

 ゆっくりと扉が開き、彼女は光に包まれていった。数分が立ち、みんな緊張の面持おももちでモニターを見つめる。誰しもが、彼女の無事を祈っていた。

「あんなに若いのに、なぜだろう…」

 悠貴は少し気がかりになっていた。

女は無事にゴールし、モニターを見つめていた部屋の人々もホッと胸をなでおろした。その後も何人か、自分から進んで扉の前に立ち、モニターでゴールの文字が出るたび、残る人たちの緊張が高まっていった。


 次に、自分から進んで扉の前に立ったのは、スーツを着た男性。みたところ、スーツかばんも持っている。自宅に帰るところのサラリーマンなのだろうか。目にクマをつくり、いかにも寝不足で頑張って働いていますという感じの人だ。

 彼が扉の前に立つ。自動的にそれが開き、眩い光で彼を照らしながら、消えていった。

 だが、数時間してもモニターにゴールの文字が出ない。彼になにかあったのだろうか。待つ人たちの顔が歪んでいく。と、そこでカーリババが口を開いた。

「あーあ、あやつ食われおったか」

 その言葉で、その場にいた人たちの顔から血の気がサッと引いていった。

「じゃ、じゃあ…」

 悠貴のそばにいた女が口を開いた。

「わかったろ?わしが言った約束を破ったら、さっき行ったあやつの様に、食われるぞ?」

 さっき喋った彼女が、崩れるように座り込んだ。カーリババは、そのまま続けた。

「あやつ、早く帰らなきゃなどと言っていたのだろうな。そのせいで、あの人形が反応して、食われたのかもなあ」

 なんとも怖いことをサラリという。ここにいる人々が、またその人形のことを恐れた。


 それからは、また1人、また1人と無事にゴールしていった。何人かはあの人形に食われたのか、数時間してもモニターに何も起こらず、カーリババは、そのまま続けていく形をとっていた。そして、残るは、数えられるほどになっていた。

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