5話
━━━…数分して、部屋の中で、ゴーンゴーン、と鐘の音がなった。
「さて、合図がなりましたので、ゲームの説明をいたしましょう」
ドン・セルビスはポンと手を叩き、この部屋にいる人たちにゲームの説明をした。
「まずTARGETのあなた達には、この部屋の外でいくつかのステージに挑んでいただきます。ステージに行く際の扉はこの画面の下にある扉一つのみ。そこからステージ毎に様々な仕掛けをご用意いたしました。大いに楽しんでいただけることでしょう。全部のステージを一人でもクリアできれば、生きているTARGETの命は助かりますよ」
ゲームの説明を、画面に出てくる画像で説明していくドン・セルビスは、まるで機械のように説明をしていった。悠貴はようやく今の状況がわかってきつつも、ドン・セルビスのよくわからない説明をじっと聞いていた。
ドン・セルビスが、ステージの数を知っているのかすらわからない中、悠貴らは挑まなければならない。
ステージの数がわかると、悠貴らも少しは楽になると思われるが、それがわからない限り無限に続くかもしれない。その恐怖がここにいる50人を襲うとなると、悠貴含め、彼らは精神的に多大な圧迫感を感じるだろう。
そして最後の言葉も気になる。
『全部のステージを一人でもクリアできれば、生きているTARGETの命は助かる』
一人でもクリアできれば、TARGETの命は助かるということなのか。
だが、“生きているTARGETの命は助かる"ということは、“生きていられればTARGETは助かる"ということだ。つまり、生きているかどうかは自分次第ということだ。生き残ればいい話。
「ちょっと待てよ! 俺らはステージ数がわからない上に、出口もないこの部屋で全部のステージをクリアしないとここから出られないのかよ!」
画面を見る人たちの中で、男が声を張り上げた。
『そうだ。ここには出口がない』
悠貴は、言われてみれば、と思い、周りを見渡すと、ドン・セルビスが言ったように画面の下にある扉一つのみしかなかった。
全てのステージをクリアしないと出られないということなのか。
それに、ステージの仕掛けのせいで、ここにいる中の何人か、あるいは何十人かが“ゲームオーバー"、つまり命を落とすということになる。最悪の場合、誰も生きて帰れることはできない。一人だけでも全てのステージをクリアできれば、生きているTARGETの命は助かる。クリアできなかった他の人たちはもう生きていない。
なんとも怖い話だ。
「そのとおりですよ。ステージは簡単に出来ています。ここにいる全てのTARGETが帰ることができることも可能なわけです」
ドン・セルビスは、「クックッ」と笑いながら、保証できないことをさらっと言った。
TARGETとされてここにいる人たちは、悠貴以外理解していないように見えた。
悠貴の隣にいた重明の顔をみると、今でも腰を抜かすくらいに驚いた顔をしていた。
それもそのはず、ここにいる彼らがこのゲームをしっかり理解したら、絶え間なく喚き続けるだろう。このゲームは何回も言うが、全てのステージをクリアできないと死に至るという恐怖の「DEATH GAME」だ。
なぜドン・セルビスが、このようなことをするのか、それはここにいる彼らにはわからない。なぜこのゲームを企画したのか、わからないのだ。
一人の男が笑いを含みながら震えた声でいった。
「ふ、ふははっ、これはゲームなんだろ? じゃあこの世界を壊せば、ここから出られるじゃないか…」
その言葉にかぶさるように、ドン・セルビスは言う。
「無駄ですよ。ここは私の庭です。ゲームの世界ではなく、あなたたちの夢の中に等しい場所。私があなたたちを私の庭に招待いたしました。ですからこの夢は、私が支配しているので決して覚めることはない。夢の中と言われても、体は生身のものです。ここでゲームオーバーになると、あなたがたは死を覚悟することになるのですよ」
ドン・セルビスの言っていることに、悠貴は理解し難い様子でいたが周りの人たちも悠貴と同じ状況にいるようで、周りの人と顔を見合わせていたり、「どういうこと?」と人に聞いていたりしていた。
ドン・セルビスが言ったことを整理すると、ここはゲームの世界。と言っても、悠貴らの夢の世界で、ドン・セルビスの庭でもある。加えて、この夢はここにいる50人と繋がっているみたいだ。その夢をドン・セルビスが支配して、彼の庭に招待されているということだ。
だが、今いるこの世界で、ここにいる人全員がゲームオーバーになると、ほんとに死が訪れるのだろうか、と悠貴は思った。
だがそれは、悠貴を含めここにいる人には誰も知ることができない。やはり、死んでしまわないとわからないことなのだ。
「今ここにあるこの世界は現実世界と繋がっているのか?」
一人の男が前に出て、ドン・セルビスに問いかけた。悠貴はその男のことを知っていた。
「父さん、あの人、探偵の藤ヶ谷日来じゃないか?」
「あぁ、間違いなくそうだ。彼は今回の事件を調査していたんだろう。巻き込まれてしまったのかもしれないな」
藤ヶ谷日来は、最近テレビでよく見る有名になっている探偵だ。彼も悠貴と同じ、この事件に関係するような話を誰かとしている時に飛ばされてきたのだろうか。
頭が混乱してきた悠貴を知る余地もなく、ドン・セルビスは藤ヶ谷の問いに答えた。
「ええ、繋がっていますよ。ですから、あなたたちの体はここにあるので向こうの世界にそれはありません。今頃、家族の方やあなたがたの周辺の方々は大騒ぎでしょうね。警察にも連絡がいっているんじゃないでしょうか?」
やはり、向こうの世界に俺らの体はないのか。
と悠貴は考える。ということは、クリアしなければ向こうの世界にも帰ることはできない。それに加え、ここでゲームオーバーになってしまったら…、考えるだけで恐ろしい。
悠貴は、面倒に巻き込まれたと思う反面、少しだけだがワクワクしていた。だが、彼はそれに気づいていないだろう。
『…これからどうなるんだろう』
悠貴の中で不安と興奮が入り混じる。
ここから逃げたいという気持ちと、自分の最後がどうなるか見たいという気持ちが交差して、悠貴は、すごく気持ち悪い感覚でいた。
「もうひとつ質問していいか?」
藤ヶ谷が続けてドン・セルビスに問う。
「どうぞ、幾らでも」
とドン・セルビスは憎たらしく言う。
「前にここに来た人たちはいるのか?」
ドン・セルビス含め、ここに人全員が黙った。ドン・セルビスは「クックッ」と笑った。
「それはご想像にお任せいたしますよ」
ずっと質問にしっかり答えていたドン・セルビスが、言葉を濁した。奴の中ではタブーだったのだろうか。
返事をしない藤ヶ谷の方を見ると、考えこむ彼の姿があった。
『何を考えているんだ?』
確かに、ヤツの応えは悠貴でもひっかかるが、顔をさらにしかめていく彼に、悠貴は違和感を覚えた。
「もう質問は以上ですか?では、ゲームを始めましょう。先程も言ったように、この部屋の外にある各ステージに挑んでいただきます。さあ、この画面の下にある扉からお進みください。健闘を祈りますよ。クックッ」
そう言ってドン・セルビスが映っていた画面が電子音とともに消えた。それに加えて、自動で液晶画面も壁の奥にしまわれた。
部屋にいる人たちは吸い込まれるように次々と扉に向かっていった。
取り残された悠貴と重明と藤ヶ谷。
藤ヶ谷は少しして、「コツ、コツ」と足音をたてて部屋の外へ出て行った。悠貴と重明は顔を向きあわせ、お互い軽く頷き、扉へと向かっていった。
━━━部屋の中は妙にシンとしていた。




