2話
とある街のとある大学。
この大学は、心理学と最近学科として新しく入った推理学という学科を専攻できるという。その他にも、文学や経済学、考古学など様々な学科を専攻できる総合大学である。
その授業内容から「探偵大学」と呼ばれることも少なくない。
真田悠貴もこの大学に興味を持ち、ここで考古学と推理学を専攻している。
元々彼は、謎解きをすることが好きな身だ。彼の父である重明が刑事をやっていて、重明が
「手伝ってくれ」
と言って、事件の内容を悠貴に教えてくれる。それを考え、重明と一緒に謎解きをしていくのが悠貴の楽しみだ。
悠貴がまだ小さい頃、重明が遊びで仕事で扱った過去の事件を謎解きさせてくれたとき、謎解きの面白さを知った。その時は、謎が解けなかったから重明に教えてもらったが。
重明は、仕事の関係上なかなか帰ってこないため、母の晴菜は寂しがっている時が多い。彼が帰ってきたときは、晴菜のテンションは異常に高い。重明も同様だ。だが、彼が帰ってくるときは必ず事件絡みで、悠貴に話を切り出すと晴菜はため息をつき、その場から離れていく。
彼がその姿を辛そうに見ていることを、悠貴は知っている。
悠貴が謎解きに興味を持ったのは、重明のおかげと言っても過言ではない。その重明の仕事がなかったら、悠貴はずっと何も持たずにバイト三昧だっただろう。
悠貴は、この大学に入学してからもう二年経っているが、よく推理学の教授が言っている
「考古学と推理学は似ていて似つかない、兄弟みたいなものだ」
というのは、彼にはまだ早かったようで未だによくわかっていない。だが、考古学と推理学を勉強しているとわかってくると教授は言う。悠貴はその答えを知りたいので、またこうして大学に来る。
そういえば明日は、重明が久しぶりに帰ってくる日だ。また、彼と一緒に謎解きができる。それを楽しみにしながら、今日もまた学校生活を送る。
「おーい、真田ー!」
悠貴を呼ぶ声が聞こえたので誰かと思い後ろを振り向くと、雪弥が駆け足で寄ってきた。
「おー、嶋村。次授業あんの?」
嶋村雪弥は、悠貴の高校からの友人で、最も親しき中にある奴だ。彼も俺と同じで、考古学と推理学を専攻している。
「いや、今日はあと午後に推理学とってるよ」
「じゃあ、飯行くか」
悠貴は久しぶりに雪弥を昼食に誘った。なかなか悠貴が誘うことはないため、雪弥は目を見開いた。
「お前、頭大丈夫か?」
「嫌なら俺一人で行くけど」
「行きます! 行かせてください!」
相変わらずの食いつきだったため、鼻で笑った。雪弥は、自分のものは自分でしない質で、悠貴に押し付けてくる。それに対して厚かましく思わない悠貴も悠貴だ。
悠貴と雪弥は、大学の近くにあるレストランに入った。そして、案内されたところに座った後、悠貴はエビが入ったドリア、雪弥はオムライスを頼んだ。
頼んだものが全て来た後、悠貴と雪弥は、それぞれ食べながら考古学のことについて語り合っていた。
「だから、あのインダス文明のモヘンジョダロという都市に、いろいろと謎があるって言われてたんだよ」
雪弥がこうなったらもう誰も止められないのを悠貴は知っていた。
「わかったから、そろそろ昼休み終わるぞ」
悠貴はもう食べ終わっていたらしく、スタスタと会計に行ってしまった。
「お、おい、待ってよ~」
雪弥もその後ろについて行った。
会計の時は、自分が食べた分だけ払わされたらしい。
その後は、雪弥は5限に推理学の1を、悠貴は6限に推理学の3を学んだ。帰り際、悠貴のもとに雪弥がやってきた。
「雪弥、これからサークルか?」
彼は謎解き研究部というサークルに所属していて、主に考古学を専攻している人たちが集うところだ。考古学の世界は謎に満ちていて、それを解明していくのが楽しいと彼は言うのだが、悠貴は歴史はからっきしでそこまで興味がない。
悠貴は特にサークルにも参加しておらず、まっすぐバイトに向かうという日をいつも送っている。
「おうよ、お前はまたバイトか?」
「あぁ、バイトしないと遊びに行けないからな」
大変だなぁ、とため息まじりに言う彼の行動をみて、悠貴は思い、そして彼に伝えた。
「また解けない謎でもあるのかよ?」
「そうなんだよー、だからまた少し教えてくれたらいいなと思ったんだけど、バイトなら仕方ないよな」
案の定、思った答えが返ってきた。
解けない時はみんなで話しあえっていつも言ってるのに、サークル内は意外と仲が悪いようでお互いあまり口を利かない。よくやっていけるよなという話だ。
「また時間があれば助っ人として行ってやるよ」
悠貴は、そう言ってバイトに向かった。
雪弥は
「なるべく早めになー」
と言って、悠貴に大きく手を振っていた。
バイト先に到着し、さっそく準備をする。着替えを済ませ、すぐにホールを周る。
ここの「シーレス」というレストランは、イタリアンの大衆的な普通のレストランだ。悠貴はいつも通りに注文をとり、出来たものを客の元へ運び、会計をする。今日は、それに加えてチーフと一緒に資材庫の整理も彼の仕事に組み込まれていた。
「真田、ちょっとこっちこーい」
チーフに呼ばれ、はい、と返事し、チーフの後をついていった。
資材庫に着くにあたり、チーフは悠貴にたくさんの荷物を持たせてきた。
「それ調味料入ってるから、ちょっと大変かもしれないけどキッチンまで運んでくれるか?」
「わ、わかりました」
悠貴はかすれた返事をして、キッチンまで持っていった。そしてその後頼まれた資材庫の整理も終わり、時計を見るともうとっくに9時をまわっていた。
悠貴の仕事はもうないので帰る支度をし、みんなに挨拶のために休憩室に向かった。
「じゃあ、お先に失礼しまーす。 お疲れ様でした」
そう言って、バイト先から自宅まで歩き9時30分に帰宅。悠貴にとってはいつもの時間だ。ただいまー、と呟いて玄関に入ると、香ばしい香りが彼の鼻をくすぐった。
このスパイシーな香り、まさしくこれは彼の好物であるカレーの香りだろう。廊下を突っ切った先にあるリビングに足を運ぶ。扉を開けるとそこには予想したとおり、カレーが彼を待っていた。
晴菜と一緒にカレーを食べ、他愛もない会話をする。その時間が、つまらないバイトで疲れて帰る悠貴にとって、とても幸せで癒やされた。
カレーを食べ終わり、晴菜が食器を洗ってる最中、悠貴はテレビを見ていた。
『本日、またしても原因不明の遺体が澄川区で発見されました。現在身元を…』
「嫌だわ、物騒ね…。最近このニュースしか見てない気がするわ」
まさにそのとおりで、最近のメディアはこのようなニュースでもちきりのようだ。
原因不明の集団行方不明事件に加え、原因不明の遺体が発見されるという事件。警察は“行方不明殺人事件"として操作しているらしい。行方不明が続く中、遺体として発見されるのも増えてきている。これがどのように続くのかはわかっていない。何か関連しているものがあるとわかりやすいんだが、と悠貴は思った。
だが、悠貴にとって今はそれどころではない。彼の頭の中は、明日重明が帰ってくることでいっぱいだった。
悠貴は、いつもより少し早めに床についた。




