10話
真田悠貴を扉の向こうに見送った佐伯裕人は、なぜか少し笑みを浮かべていた。
「さて」
と言って、カーリババが座るところまで行き、カーリババの顔を覗きこむような体制になった。
「お前さんは、なぜあやつを行かせたのじゃ?」
カーリババは、そのしわくちゃなグリグリした目で彼を見ながらそう言った。彼は体制を変え、見下ろすようにしてカーリババに言う。
「だって、最後のやつは怖い思いしねえで次のステージに行けるんだろ?」
得意げに話す彼を見て、カーリババは顔の表情を一切変えなかった。何を考えているのかわからないその顔を見て、彼は少し眉間にしわが寄った。
「お前さんは、馬鹿じゃのう」
カーリババは、一言その言葉を呟くように言った。彼にその言葉は聞こえたらしく、すぐに反論に出た。
「だって、ゲームってそういうもんだろ? チート使えばありえるし。それにあんた、最後に残ったやつのこと、何も言ってなかったし?」
俺知ってるんだぜ?というように、顔を自慢気ににんまりとさせた。カーリババの表情は、未だに変わらない。何も言わずに、ただそこに座っているカーリババは、何も言わずにいた。
「な、なんか言えよ」
さすがに無言でいられるのが応えたのか、吃りながらカーリババに言った。カーリババは、無表情で動かなかった口元の端をにんまりと上げた。そして、彼が言っていた言葉に対して言った。
「お前さんは、とことん馬鹿じゃのう。わしが最後のやつのこと何も言わなかったのは、わしのためじゃ。これもゲームじゃが、チートとかいうもんは関係ない」
にんまりした顔を変えることもなく、カーリババは淡々と口にした。『わしのため』、その言葉が彼にとって、酷く耳に残った。
「ど、どういうことだよ…」
再び吃りながら言う裕人の手と額、背中にひどい汗が流れる。手が少し震えている。彼は、カーリババの表情と言葉に怯えていた。彼の言ったことに答えるように、カーリババは言う。
「わしも、この世界の住民なのでな、腹が減っては戦はできぬと言うじゃろう。」
意味深い言葉を並べながら、彼に近づいていく。彼は、少しずつ後ずさるようになっていた。一歩一歩、ゆっくりと歩みを進めて、彼に近づいていくカーリババ。その目は、なんだか不思議に光っている。彼は、恐怖を感じたのか、勢い良く扉に向かって走った。扉を思いきり押したが、開かない。ドアノブがないから引くこともできない。裕人は、ひたすら扉を押した。だが、扉はびくともしない。徐々にカーリババが彼のもとに近づいていく。
「来るな!!」
扉の前で、カーリババの方を向いて叫ぶが、カーリババの歩みは止まる様子もない。顔の表情を一切変えることもなく、裕人の目の前に辿り着くと、歩みは止まった。彼の表情は、眉間にしわが寄った下がり眉に、口はへの字に曲がって、歯を食いしばるようにしていた。
「わしも、お前さんらが行くのが遅すぎて、腹減ったわい。」
目をむき出しにして、にんまりと口角を上げたその顔は、まるで化け物のようだった。
「嫌だあー!!」
彼がそう叫んだ後に、真っ赤な絨毯に赤黒い液体がピシャリと飛んだ。それは、カーリババの服にも飛んでいた。カーリババのにんまりとした口から、赤黒い液体が、たらーっと流れた。




