1話
現実世界とは別に存在する『箱庭』。
人間の夢と繋がる、不思議な世界。
箱庭は、王の"サーフ・シュール"に管理され、動物たちも静かに暮らしていた。
動物たちからは、その住みやすさから「幸福箱庭」と呼ばれていた。
しかし、王サーフは何者かに暗殺され、支配者"ドン・セルビス"が箱庭を占領。
動物たちも追い出し、自分だけの世界を作った。
ドン・セルビスが支配してからは、「幸福箱庭」が「呪箱庭」と呼ばれるようになったのである。
━━━━━……不気味で怪しいその空間は、今も誰も知らない。
もうどのくらい経っただろう。
このゲームに強制的に参加させられ、いくつものステージをクリアしてきた。そして、数々の人がこのゲームの餌食になってきた。
残りの人数が残り少なくなってきた頃、進藤寛は、残っている人全員と協力して進んできていた。その協力してくれてきた人たちは、ほぼ餌食になっていった。そんな中、まだ残っている人たちは彼に協力してくれていた。
「まだ先は長いかもしれないから、気を引き締めていこうな」
周りにいた人たちは、頭を上下に一回振った。それをみて、寛も一回だけ縦に頭を振った。
「よし、じゃあいくぞ…」
一番前の人はそう言った後、軋んだ音のする扉をゆっくりと引いた。
寛は人々の後ろに続くようにして並んでいる。
一番前の人にいた人は、扉を開けた瞬間、眩い光に包まれ消えていった。
最初に入っていった男は、周りをキョロキョロしていた。だが、それがいけなかった。男の背後に、黒い影がうっすらあった。
「うわああああ!!」
男が後ろを振り向くときは、その黒い影は鎌を振り下ろす直前だった。グシャッという音を立ててからは、男の声は聞こえなくなった。
男の声が聞こえなくなったのを確認してから、また人々は光に包まれて扉の中に入っていった。そして、次へ次へと悲鳴が聞こえ、その者らの声は聞こえなくなった。
「何が起きているの?!」
と女が扉の前で叫ぶと、寛は落ち着かせようと
「大丈夫だ、説明にあったことを守っていれば、特に何も起こらないはずだ」
といい、その女を次に行かせた。
女は怯えながらも扉の前に立ち、光に包まれ消えていった。その後は特に悲鳴もなく、派手な音と派手な文字で飾られたモニターが映し出され彼女の顔が映しだされる。まだ残っている彼らは安堵の表情を見せた。
だが、その次の者も、またその次の者もその者らの悲鳴が聞こえた後は、シーンと静まった。
何をしているんだ、と心の中で叫びながら、寛はまた次の者を送り出した。送り出された男も先ほどの女と同様に、怯えながら中に入っていった。
あいつなら大丈夫だろう、と思った寛だが、その期待も呆気なく終わった。
「ぎゃあああああ!」
という悲鳴が聞こえた。そしてその悲鳴も今までの悲鳴と同じようにピタリと止んだ。
寛らが今挑んでいるステージの正体は、教えてもらっていなかったからわからなかった。今までは、特徴、大きさ、弱点などを教えてもらっていたのだが、今回はステージの説明をして終わったのだ。そのせいか、残っていた者はすごく怯えていた。
最後、寛の番がやってきた。緊張と不安で胸が張り裂けそうだ。だが、彼がやらなければ女は一人でいなければならない。あの女と一緒に行くことを決意していた。彼の心に責任感という雲が覆いかぶさっていた。
寛は部屋をきょろきょろと見まわし、受付のお婆さん以外参加者がいないことを確認したあと、扉に手を掛けた。やはり恐怖や不安からなのか、手が震えている。だが、決意を固めて扉を開けた。ここに入った者達と同じように、眩い光に包まれた。思わず目が眩みかけ、目をぎゅっと閉じた。
目を開けるとそこは、行灯の灯る暗い道のど真ん中だった。ゆっくりと歩みを進めると、何かを蹴ったのかガラッという音が足元でなった。足になにかあたった感覚もあり、それはすぐに気づいた。なんだ、と思い足元を見ると、人間の頭らしきものがそこに転がっていた。肉はなく、ただの骨のみになったその哀れなものは、寛に恐怖を抱かせた。
そこからは、ひたすら逃げるようにして出口を探した。ただ、周りをキョロキョロしたりはなかった。最初の説明が、『周りを気にするな』だったからだ。
出口を探して歩きまわっているのだが、これがなかなか見つからない。一人が終われば、出口は必ず移動する。このステージは広いのか、どこを歩いても同じ景色しか広がらず、同じ道を行ったり来たりしているような感覚だった。
やっとの思いで辿り着いた扉の前で、寛は大きく息を吐いた。
「この扉を開けると次のステージか…」
と言って扉のドアノブに手を掛けると、勢いに任せ一気にひいた。
部屋の中は閑散としていて、ゴールしたはずの女性もいなかった。
ゴーンゴーンという鐘がなり、すぐそばにあったモニターが映し出される。そこには、一部赤く染まった絨毯があり、寛は背筋が凍った。そしてそのモニターにあの声のマトリョーシカが映った。
「おやおや、あなただけですか? まぁ、しょうがないですね。ゴールしたと思われていたあの女は、次の扉を開けようとして…この通りです。クックッ」
奴の笑い声がここまで気持ち悪いと思ったことはなかった。寛の心の奥底に、憎悪が芽生えた。
「俺は、どうなるんだ…?」
怯えながら聞くと、奴は
「あなたには、次のステージに挑んでもらいます。いつもどおりですよ」
と当たり前のように言った。
いつまでこのゲームは続くんだ、と思った。だが、くよくよしていても仕方がない。
「説明は?」
「あなたしかいないので、私からいたしましょう」
そう言って奴は、説明を始めた。
奴の長い説明が終わり、モニターがぷつんと切れた。寛は目の前にある扉に手を掛け、さっきのステージと同じように勢いよくひいた。
光に包まれるのにももう慣れ、目は開けたままでいた。周りの光が弾けると、紅葉のステージにいた。周りは紅葉で囲まれており、ところどころに木々が立っていた。
「こんな綺麗な場所になにが…」
そんなことを呟くと、目の前の遠い木に女の影があった。寛は、その木に向かって歩みを進めた。
木の目の前に来ると、女は手招きをしていた。寛は、精神的に疲れていたからなのか、女の方に歩いていた。女はずっと手招きしている。女に近づいた寛は、スッ、と女と一緒に消えていった。
その時の彼の目は光を失っており、消えていった時には、悲鳴も何も聞こえなかったという。




