出会いなんだからなっ!!!
「ふ~ん」
わずかに口角を上げ、不気味な微笑みを作る。
長く真紅の髪を吹き抜ける風になびかせ、指でピンクの唇をなぞる。
その行動はまるで少しでも大人の女性に見えるように、と受け取ることもできる。
はしごで登れるわずかな段差をジャンプで飛び降りる。
わずかにひるがえされるスカート。
少しつりあがった瞳を楓が走り抜けていったドアへ向ける。
と、また口角を上げて微笑む。
楓が知らぬところで、楓の行動はすべてこの少女に見られていた……
授業の終わりを告げるチャイムがあたり一面に響く。
教室の皆がそれと同時に動きだし、それぞれ限りある放課後を楽しもうとしている。
俺もいつもなら早く帰ってそこから遊んだり家でのんびりしたりと、それなりに放課後を満喫している。
……だが、今日はそうならない――否、そう出来ないんだ。
席を立ち、机の中に入っている教科書などを鞄に入れていく。
グラウンドを見てみると陸上部や野球部、サッカー部がそれぞれ練習に取り組んでおり、来るべき大会に備えて頑張っている。
陽もまだ春の様子を醸し出すかのようにゆっくりと傾くものの、陽の長さも徐々に長くなる。
階段を下り、靴を履きかえて指定の場所へ行く。
「……まだなのか……?」
辺りを見渡しつつ、そんな言葉を漏らす。
その時、
「奥崎我威斗ぉぉぉぉぉ―――――っ!」
そんな轟音にも勝りそうなほどの大きく高い声があたり一面に広がった。耳の鼓膜が悲鳴を上げ、校舎ですらビリビリと音を反響させている。同時に草木も風だけとは思えないほど揺れ動き、まるで何かのダンスをしているかのようだ。
けどそんなことは今関係ない。
まず、その声は〝どこから聞こえてきたのか〟だ。
俺はあたりを見渡す。
右、左、ともに誰もない。木の陰、建物の裏も見たがやはりいない。
「ったく、何なんだよ!?」
半ばやけくそに髪をかいたその時、
「こっちだ、バカ!」
と、まるで吐き捨てるような声が上から聞こえた。
上から、この場所から上と言えば校舎くらいしかない。
恐る恐る視線を上にあげる。
すると、二回のところで、小さな顔が半分だけ窓枠から出ていて、そのわずかな顔は俺を俯瞰している。
ふわふわと風に揺れる髪が俺の心を揺さぶってくる。
そんな髪の持ち主はピョコン、と姿を現し、そのまま……
「落とすんじゃねぇぞ~っ!」
窓から飛び降りた――
「ちょっ……え? はいぃぃぃぃぃっ⁉」
いきなり女の子が空中に身を投げ出した。
それと同時に体が勝手に反応する。
大地を強く蹴り上げ、女の子が落下するであろう地点までものすごいスピードでたどり着く。腰を低く構え、女の子がいつ落ちてきてもいいように構える。
なのに、
「チビだからってなめんなよなっ!」
「げぶっ⁉」
女の子は空中で反転し、態勢を整え、そして俺の顔面に綺麗に着地した。
勢いと体重でついた重さに逆らえず、情けないながらも後ろに倒れてしまった。
痛む顔を手で押さえ、地面で悶絶していると横で『ふんふんふ~ん♪』と鼻歌を歌っている声が聞こえる。おい、鼻歌よりも前に謝れよ!?
「いってぇ……」
足腰がわずかに痙攣する。それほどまでに威力のあるものだった。
状況を把握するため、目を少し開ける。すると前には腰に手を当て、まるで威風堂々。
真紅の腰まである長い髪、眼は少し吊り上っていてまつ毛がすごく長い。顔つきは高校生の割には子供っぽさを残し、何より――背が小さい。まるでお人形さんみたいだ。
「えっと、君さ、ちょっと背がちいさ――」
「チビだからってなめんなよなっ!」




