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朽ち果てる

作者: 春樹


僕が家に帰ったのは、夕方の六時ごろでした。

部活が終わって、自転車で帰って来たのでもうヘトヘトです。いつものことなんですけどね。僕は倒れるようにベットに横たわり、眠りにつきました。ここまではいつもと同じなんです。少ししたら、父が帰ってきて、母がご飯だよと僕を呼ぶ。これが毎日繰り返されてるから、この日も同じ…はずでした。

この日は珍しく電話が鳴りました。父からの残業の知らせか、学校からの電電話か…。その音で目覚めた僕は、母の元へと向かいました。なんの電話?と訊くと、母は泣きながら答えるのです。警察の人からよ、と。


何があったのかきくと、母はこう言いました。お父さんがね、死んでしまったの。泣いてかすれている声のはずなのに、死という言葉だけははっきりと聞き取れました。いつもなら疲れて帰って来る父。彼はもうこの世にいないんだと実感したのは、その日の八時です。病院の霊安室に、青白く冷たい姿で横たわっているその人は、紛れもなく僕の父親でした。放心状態の母にかまってる暇はなく、拳を握りしめながらうつむく僕は無力でした。

どうしてこんなことになったのか。何故死んでしまったのか。そんな疑問を頭に浮かべながら、その日は家に帰りました。疲れているはずなのに、眠りにつきたいのに、こういう時だけは意識がはっきりするものなんですね。神様は僕を眠りにはつかせて下さいませんでした。


学校にも行く気にならず、何かを食べる気にもならず、ただ屍のように横たわっていた僕を見かねて、母はおにぎりを作って来てくれました。そんなんじゃお父さんが悲しむわ。男の子でしょ。と言う母を見て、無性に父に会いたくなりました。母の顔は見れたものじゃありません。一日にしてやつれ、老いてしまった。どうしてこの人を置いて行くようなことをしたんだ、何故だと言ってやりたかった。母と二人で泣いたのは、この一度きりだったと思います。これからは僕が母さんを支えるよ。漫画のような台詞でも、これしか僕は言えなかった。


父の葬式はすぐに行われました。会社員の父は慕われていたらしく、たくさんの人が葬儀に来ました。母も僕も、お礼を行ったりするのに疲れていたけれど少しはマシになったと思います。そうそう、父の死亡原因が自殺だと知っていたのは僕たちだけだったんです。そんなことが知られれば、これから先どんな目で見られるか。理由も自分なりには考えたんです。仕事が上手くいかなかったとか、なにか病気になったのか。母は心あたりはないと言います。

以前、家に仕事仲間を連れて来た父さんは本当に楽しそうだった。笑ってて、冗談を言い合って、そこは僕のような年齢の奴とは変わらないんだなと。そんな矢先の出来事ですよ。とても自殺だなんて思えません。とりあえず父の遺品をあさったりしました。真面目人間だったからろくな物はありませんでしたがね。葬式の前日まで考えた結果、会社の人にきいてみようということになりました。自殺だとバレないようにね。


なるべく声をかける人は少ない方がいいので、母はあの人だけにしようと言いました。あの人とは父の会社の同僚で、前原さんって人です。優しくて、家に飲みに来た時は何度も声をかけてもらいました。あの人なら信用できる。僕もそう思ったので、頷いて了承しました。母は一人でききに行ったので、何を話したかは知りません。でもたいした収穫は無かったみたいですね。

会社で何もなかったのが良かったのか、ちょっと母は笑顔だった気がします。加えて前原さんは困ったことがあったら頼ってくれと母に言ったんだとか。いい人ね。そう母が呟いてたのを覚えています。そうだね。父さんは幸せ者だよと僕も言いました。でも結局、父のことはわかりませんでした。



それから一週間後のことです。

学校に復帰した僕は、あの日と同じように

家に疲れて帰りました。つらそうにしていた母も、ようやく現実を受け入れられるようになってきたみたいでした。また寝て、ご飯だよと言われているのを待っていました。

すると僕の部屋をノックする音が聞こえて来たんです。入ってもいい?母の声でした。いいよと軽く答えると、母は手袋をしていました。手術とかに使うアレですよ、ゴム製の。掃除でもしてたのと尋ねると、母はこう言ったのです。掃除は今からするのよ。

それと同時に、僕の首を絞めてきました。一瞬なにが起きてるのかわからず、目を見開きました。見たことのないような母の顔。ニヤリと笑いながら、呟いてるんです。


「あなたが死ねば、またあの人が会いに来てくれるわ」


あのとき、前原さんが偶然家に立ち寄らなかったらと思うとぞっとします。

僕は遠のく意識の中で父にいいました。もしかして、父さんも母さんに?とね。あの人とは、多分前原さんです。母の前原さんと話していた時の笑顔や、見つめる目は恋愛感情によるものみたいです。前原さんに会ってほしくて。かまってほしくて。父さんを殺し、僕をも殺そうとした。


ねえ、刑事さん。

僕の家族は、どうして朽ちてしまったんでしょう。



被害者の男の子が、刑事の人に話しをしてる設定。

ざっと一時間もかかった(汗

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