第零話 自宅にて
注:この小説は作者の夜のテンションで書かれたものです。生温かい目で見守ってくれるとうれしいです。
誤字脱字、改善するべき所があったら教えてください。なにぶんド素人なもので…
ご指導よろしくお願いします。
與 冬夜 (あたえ とうや)
これが僕の名前らしい。
「らしい」というのは、実際この事実を確かめる術が現時点で何も無いからだ。何時だったか、大分前に「兄」と名のる人に教えて貰ったきりだ。その時から僕は僕で、僕が全てだった。否、周りに何も無かった、それだけの事だった。
扉のない部屋、必要最低限の設備、嫌に大きい書庫に、たった1人、孤独と世界が隣り合った空間で、僕はつらつらと息を吸っては吐き、起きては寝る。そんな日々に身を置き、生きてきた。
今日も忙しい1日が始まる。といっても、ベットから降りて、朝食を食べ、紅茶をすすり、カーディガンを羽織って書庫に行く…この繰り返しなだけなのだが。
いつものペースで朝をすごした僕はため息をついて鉛筆とノートをとりにいく。…今日は何冊用意すればいいのか…この悩みも一体いくら思ったのだろう、本当に嫌になる…。
僕の「家」の書庫の本は、全ての本にある共通の特徴がある。
いままでの全ての本の題名に、「全て」という文字が入っている。例外なく、どれもだ。僕は一度も外に出た事は無いから、この言葉が定かなのかは分からないけど、おそらく本当だ。少なくともそう思える程の量がそれらの本にはあった。
だからこそ、「兄」さんは僕に言ったのだろう。この書庫と、無知な僕だからこそ出来る事。「調べ学習」をしろ、と。
とにかく何かについて調べるのだ。1週間に何か1つ、ノートに書き溜め、奥にある引き出しに入れて置き、何時いるかも分からない「兄」に読ませる。ずっと、少なくともこの10年間はこうやって生きてきた。
いつものように、今日は何を書こうかな、と本棚を漁る。と、分厚い本が落ちて来た。足に激突。なんだもう、…痛い。
埃を払うと題名が見えた。同時に、言葉を無くし、なんだか分からない何かが、渦を巻いている。そんな気がした。
なんでなのか 直ぐに分かった。当然だったのだ。
僕が知らない中で最も重要、かつ最大の謎。
「世界の全て」
外の事に関する知識がほとんどないといってもいい僕にとって、このテーマは実に興味深く、同時に、自分が上辺だけの、浅はかな人間であるという事に改めて気づいた。
次の瞬間、向こうから音がした。自分以外誰もいないはずなのに、
驚いて振り向くと、 声がした。変わらない、そして狂いそうなくらい懐かしい…
「よぉ、随分変わったな。元気か?」
…あの「兄」さんの声だった。
「前に会ったのっていつだったっけ?」
「あ、あ……」
驚きと、日頃声を出さない事が相まって、思うように声が出ない。
「なんだよ、そんなに驚くほどかい?」
…相変わらず多少ひねくれた言い方をする人だ。
「…お、お久しぶりです。前に会った時はまだ本棚の上の方に手が届かなかったですから、5、6年ぶりですかね。」
所々つっかえながら話した。
「おぉ、もうそんなかい。いやそれにしても大きくなったもんだな。我が敬愛なる弟、冬夜よ。」
なんだか調子が狂う。
「それで、今日はどうしたんですか?いつもは上手いぐらいのタイミングで消えてるくせに。」
「ん?…あぁ、そうだそうだ。お前に1つ訪ねたいんだがよぅ。」
訪ねたいなんて、毎週「調べ学習」のノートを見てるのに、今更何を聞こうというのか。まったく。
「はぁ…なんでしょうか。」
「お前、ここから出てみないか?」
「……! はぁ!? 今なんと!?」
この10年はなんだったんだろうか、と、思える程の台詞を、あっさりと言われた。
そう思うと、嘘みたいに不思議と声が出た。
(何故?どうして!?なんのために!?)
瞬間、どうにも理解できないものが、頭をよぎる。
そんな気がした。