9.双子(1)
いつかの、遠い声がする。
――めーこちゃん、アキくんと双子なんだよね?
それは、期待が外れてがっかりした顔で言われる言葉。
馬鹿にするように笑って指をさされて、言われたこともある。あるいは、目配せと共にひそひそとささやき合われたこともある。
私はそれが大嫌いだった。勝手に期待して、勝手に失望しないでほしい。アキと比べるのではなく、「私」をちゃんと見てほしい。
何度もそう叫んだのに、届くことはなかった。
家族と仲の良い友達は、私のことをわかってくれる。本当は、それだけで満足すべきなのかもしれない。でもやっぱりもっとわかってほしくて、周りの人に「私」を訴えかけるけれど、いつも「アキ」の幻影に打ち砕かれるのだ。
――めーこちゃんは、全然違うよね。
過去に突き刺さった声が、もうずっと前のことなのに、何度も頭の中に響いている。
もう嫌だ。大嫌いだ。
部屋に閉じこもって、私は頭から布団をかぶっていた。
最悪の気分で学校から帰って来て以来、ずっとこうしている。とうに夕食の時間は過ぎていた。お腹はすいているけれど、私はベッドの上に座りこんだまま、動けなかった。お母さんには、ちょっと具合が悪いのだと言って誤魔化した。
でも、全くの嘘じゃない。少し頭が痛いし、胸の奥が重く沈んでいるようで、息苦しかった。……風邪をひいたわけではないけれど。
石橋さんの言葉が、昔の嫌な記憶までどっと呼び起こして、頭がパンクしてしまいそうだった。厳重に鎖を巻いて鍵をかけていた箱が、いきなり破裂してしまったかのようだ。押し寄せた負の感情に混乱して、一歩も動けない。ただ布団の中で丸くなって、じっとしているしかなかった。
どうして私は、アキと比べられて、軽蔑されなきゃいけないんだろう。石橋さんの冷ややかな目が、保育園の時の意地悪な女の子たちと重なった。
もしかしたら、石橋さんはアキのことが好きなのかもしれない。だから私のことが余計に気に入らないのだろう。できそこないのくせに、アキの双子の妹だから。
なんだやきもちか、と笑い飛ばしてやろうとしたけど、駄目だった。私は膝を抱えて、腕に額を押しつけた。
遠くへ行ってしまいたかった。
控えめな、ノックの音がした。意識がそれに引っぱり上げられて、私は顔を上げた。照明が眩しくて、目がチカチカする。
もしかして今、少し寝ていたのだろうか。何時なんだろう、と思いながら、私はドアの方を向いた。
「……誰?」
「俺だけど。めーこ、体調悪いんだって?」
そう言って顔を覗かせたのは、アキだった。
「大丈夫?母さんが、何か食べれるかって」
心配そうな表情をしたアキは、布団をかぶった私の姿を見た途端、ぷっと吹き出して笑った。
「何してんの。まんじゅうみたいだ」
軽い楽しげな笑い声が、今の私には癇に障った。少し遠ざかっていた嫌な気分が、ひたひたとまた戻ってくる。
「……何、それ。人のことそんな風に言わないでよ」
「だって、丸くなって面白かったから」
アキはくすくす笑ってから、私の顔を窺うように少し首を傾けた。
「それで、体調は?何か食べれそう?」
アキはきっと、善意で私の部屋に様子を見に来てくれたんだろう。でも、駄目だ。今のぐちゃぐちゃな私には、素直に感謝することはできなかった。
私の間抜けな姿を笑いに来たのかって、苛立ちが胸に湧き上がった。