第4話 毒味を通った晩餐
その日の午後、十年前の記録は、使われていない書見室の卓へ運ばれた。
緊急審問の綴りは、結論の行だけが太かった。毒味の後に遅効性の毒を加えられる位置にいた、当時の料理長による暗殺。その下に、使用された毒物を記す欄がある。
空白だった。入手経路の欄も同じだ。残っていた料理と葡萄酒からは、既知の活性毒が検出されていない。
「結論が決まっていて、毒の名がありません」
「そこだけが、最後まで埋まりませんでした」オスカーが言った。「毒味役は無事でした。同じ皿から取った者が倒れず、その後に召し上がった方々が夜半から倒れた。ならば毒は毒味の後に入ったと考えるほかない。当時はそう積み上げました」
弁解の調子はなかった。
「公の結論を、この場で否定はいたしません」クラリスは言った。「ただ、いったん脇へ置かせてください。倒れた方だけでなく、倒れなかった方も、同じ紙へ並べたいのです」
レオナードは卓の端の席にいた。答えの代わりに、綴りを彼女の側へ寄せた。
クラリスは原本に触れず、新しい紙を広げて罫線を引いた。食べた肉、飲んだ物、発症まで、症状。左端には、どの記録から写したかを示す印の欄を作った。
献立、配膳記録、酒の記録、診療記録。別々の綴りから、一行ずつ写していく。
最初に埋まったのは、倒れた四人だった。
前公爵の行には、脂の多い月角鹿が二切れ、濃い焼き汁のソースとともに、と残っていた。酒の記録には、長期熟成の赤が三杯。
「発症は食後およそ三時間」オスカーが自分の診療記録を繰った。「最も早く、最も重い。翌未明に亡くなられました」
前公爵夫人は、脂身のついた肉を一切れ半ほど、同じソースとともに。赤は二杯。倒れたのは食後およそ四時間後で、翌朝に亡くなっている。
クラリスは三行目へ移った。
「閣下は」
「赤身を一切れ」レオナードは言った。「縁の脂は皿に残した。酒は、成人の乾杯として一杯だ」
「脂を残された、という証言は、当時の審問記録にもございます」クラリスは印を添えた。「発症は」
「五時間半ほど後です」オスカーが答えた。「呼吸が弱まり、二日間戻られなかった」
四行目は父方の叔母だった。赤身を半切れ強、ソースは少量、赤は一杯。およそ七時間後に吐き気と手足の痺れが出て、翌夕には回復している。
クラリスは四行を見た。
「多く口にした方ほど、早く、重い。順序はそろっています」
「では、量が原因ということになりますか」
「まだ申せません」彼女は筆を置いた。「重い症状ほど肉と酒の量は多く、脂のつき方も違います。これでは、何が効いたのか分けられません」
オスカーは四行を指でなぞった。
「当夜、我々はこの方々を《同じ料理を食べた被害者》として、一つに数えておりました。救命が先でしたので、誰が何をどれだけ、とは並べていない」
「ですが、書いてはくださいました」クラリスは言った。「量も、時刻も、症状も残っています。残っていなければ、この紙は作れません」
彼女は紙の下半分へ罫線を伸ばした。
「ここからが本題です。倒れなかった方を、同じ紙へ戻します」
最初の一行は毒味役だった。配膳記録には、肉とソースを一口。勤務中のため、葡萄酒は口にしていない。
「毒味役が無事だったという事実は、動かしません」クラリスは言った。「動かすのは、その事実が何を証明できるか、という範囲です。毒味役は、同じ物を同じように食べたのではありません。一口を、酒なしで確かめただけです」
「同じ皿から取ったことは確かです」
「同じ皿からでも、同じ条件ではありません」
扉が叩かれ、若い娘が入ってきた。
「妹のエミリアだ」レオナードが言った。「エルモンド調査官に答えてやってくれ」
当夜は十一歳で、同じ卓に着いていた娘だった。クラリスは椅子を勧め、筆を持ち直した。
「十年前の晩のことを伺います。一つずつお答えください。まず、何を召し上がりましたか」
「主菜のお肉です」エミリアは少し考えて言った。「兄と同じ、月角鹿を焼いたもの」
「どの部分か、覚えておいででしょうか」
「脂のついたところも食べました。柔らかいので、好きでした」
「その夜、何をお飲みになりましたか」
「果汁です」
クラリスは配膳記録を引いた。子供席へ果汁を出した記載がある。写し取り、左端へ二つの印を並べた。当夜の記録と、本日の証言。
「お加減は」
「何ともありませんでした」
さらに二行が加わった。
司祭は肉を断り、前公爵たちと同じ長期熟成の赤を二杯飲んでいる。発症していない。
招待客の騎士は、脂の多い月角鹿を多く食べている。杯にあったのは、同じ産地、同じ品種の若い赤。こちらも発症していない。
クラリスは行を一つずつ指した。
「肉だけを食べた方は無事でした。熟成した酒だけを飲んだ方も無事です。肉を食べ、赤い葡萄酒を飲んだ方でも、酒が若ければ倒れていません」
「ならば、古い酒が」
「そこも、まだです」彼女は言った。「若い酒と古い酒で違うのは、年数だけとは限りません。今日この紙で言えるのは、肉だけでは倒れず、酒だけでも倒れず、若い酒との重なりでも倒れなかった、というところまでです」
酒の記録へ戻ると、欄が一つ足りなかった。銘柄と本数はある。何年に仕込まれた酒かが書かれていない。
「寝かせた年数が要ります」クラリスは言った。「同じ蔵の酒でも、年数が違えば別の物として並べます」
短い沈黙があった。レオナードが紙の端へ指を置き、それから言った。
「十八年だ」
クラリスは筆を止めた。
「父が、私の生まれた年に仕込ませた。成人の祝いに開けると決めていた酒だ。あの晩のために、十八年取っておいた」
エミリアが兄を見た。何も言わなかった。
クラリスは罫線の外へ新しい欄を作り、日付を添えて書いた。
「今のお話は、当夜の記録ではなく、本日うかがった証言として、別に記します」
「それでいい」レオナードは短く答えた。
酒蔵の古い帳面には、宴の日に私蔵の古酒を出したという記載までは残っていた。年数の裏付けにはならず、父がその年の酒を息子のために取っておいたという意味も、帳面は証明しない。
クラリスは証言の欄の下へ、蔵の仕込み記録を当たる、と書き添えた。
紙が埋まると、彼女は確かめられたことと、まだ確かめられていないことの間へ、太い線を一本引いた。
線の上に残ったのは、発症した四人に共通する《月角鹿と長期熟成の赤》だった。どちらか一方だけ、あるいは若い酒との組み合わせでは、誰も倒れていない。毒味役もまた、一口、酒なしという別の条件へ置き直された。
線の下には、一行だけ書いた。月角鹿の量、あるいは部位と、長く寝かせた赤が、同時にそろったときにだけ危険が生じた可能性。
「可能性です」クラリスは言った。「月角鹿の何が関わるのか、年数が本当に条件なのか、二つがどう働くのかは、何ひとつ確かめておりません」
「どう確かめる」
「一度に混ぜません」彼女は答えた。「まず月角鹿を、赤身、脂、銀色の筋膜と分けて、同じ量、同じやり方で調べます。次に量を変えます。酒を並べるのはその後で、若い物と長く寝かせた物を比べます。違いは一つずつです」
「人に食べさせるのか」
「いいえ」クラリスは即答した。「試すのは器の中だけです。人にも、生き物にも、口へは入れません」
「月角鹿は食用禁止です」オスカーが言った。「手に入りますか」
「角と皮、毒嚢と魔石のために、討伐は続いていると伺いました。肉は捨てられているとも。確保はできるはずです。ただし、厨房にも食材庫にも入れられません」
レオナードが立ち上がった。
「何が必要だ」
「月角鹿を一頭。食卓ではなく、検査台へ載せるために」




