ボス戦前日はちょっと不安、
「なぁ、初頭効果を知ってるか?」
ま、知りませんよね。
そのキョトンとした顔を見れば、知らない言葉なのだと簡単にわかる。
「初頭効果というのは、相手から最初に得た情報は後の選択に大きく関与してくる、というものだ。つまり、お前が俺に与えた初頭効果は『英雄』だ」
「……英雄」
「あぁ、そうだ。だから、俺は今後ずっとお前を俺たちのパーティーへ入れたいと思い続ける。だから、今すぐでなくてもいい。お前が自分の本心に、自分のエゴに気づくことができたら、声をかけてくれ。ちなみに、俺たちのパーティーではフラットな関係がマストだぞ。たとえ弱くてもだ」
本当は今すぐがいいのだが。無理そうなため諦めよう。
永久輝と俺だけでそれなりに上へ行くことはできるだろう。
「……空賀。……僕も自分の本心に気づくことができた気がするよ。……だから、入っていいかな?……パーティーに」
そうやって絞り出すように海隅が声を出す。
案外、人は簡単に変われるのだな。
「あぁ、よろしくな――『秀才』」
――こうして、俺たちは三人パーティーになった。
***
「……なぁ、知ってるか? あの三人組の噂」
「あぁ。三十二階層までをたったの一ヶ月で登った奴らのことだろ?」
ギルドの一角で二人の冒険者がとある噂を話している。
普通の人間ならばその会話を聞き取ることは難しい。もちろん、俺は例外だ。
俺はギルドの掲示板に貼られている依頼を見ながら、その会話に耳を傾ける。
「……普通なら、数年かけて三十階まで登るものだが、そいつらはたったの一ヶ月。それも、三人中二人が『稀スキル』、一人が『スキル無し』だそうだ」
うんうん。もっと褒めようか。
特に俺を。重点的に俺を。
「……何、ニマニマしてるんですか」
右隣にいる、永久輝はゲスを見る目。左隣りにいる、海隅はちょっと動揺している。
もっと聞いていたいが、これ以上は何されるかわからない。
「それで何か見つかりましたか?」
魔物の素材はギルドで買い取ってくれるが、それは高値ではない。
ギルドに登録したものであれば、自由に素材の回収の依頼を掲示板に貼ることができる。基本的に商人がそれをする。
その依頼はギルドで買い取ってもらうより、高値のことが多い。
そのため、商人は自分の欲する素材を、冒険者は高値の報酬を得ることができる。お互いウィンウィンというわけだ。
空が落ちてくる、というタイムリミットがあるため、できれば上の階層へ行く理由になる依頼がいいのだが。
「空賀。これはどう?」
海隅が依頼の書かれた紙を掲示板から剥がし、俺に見せてくる。
『三十四階層で生成される。魔石を100kgほど回収してほしい。報酬はうちの鍛冶屋で永続的な割引き』
三十四階層。俺たちは今、三十二階層なため、三十三階層の攻略がマストになる。
永続的な割引きはかなり魅力的だし、受けてもいいかもな。
だが、問題もある。
三十三階層、六十六階層、九十九階層には『守護者』――簡単に言えばボスがいる。
……俺たちの実力で勝てるのだろうか。
だが、いずれ戦わなくてはならない敵になる。これをきっかけに挑んでみるか。
「……よし、それじゃあ、その依頼を受けるか」
その後、俺たちは依頼受注の手続きをする。
三階層先の依頼まで受けられるというルールがこのギルドにはある。
そのため、何の問題もないのだが、受付嬢に心配された。
まぁ、俺たちはまだ、元いた世界では高校生だもんな。……俺は三十年以上生きているが。
***
――明日、三十三階層に行く。
今日は体や精神の疲労を回復し、明日に備えようという話になった。
他の二人が何をしてるか知らないが、俺は宿でアビリティを考えることにする。
<<エゴスロット>>
・空賀龍輝
<<アクティブスロット>>
1:兎(脚力、聴力)
2:狼(持久力、嗅覚)
3:オーク(筋肉)
4:蜘蛛(糸、壁面吸着)
5:スライム(物理攻撃耐性)
こんな感じか?
三十三階層にはボスのみが出現する。
それはいいんだが、入るパーティーによってボスは変化するという、噂を聞いたことがある。
つまり、情報なしで三十三階層は攻略しなくてはならない。
とりあえず、万能なアビリティを詰め込んでみたが、大丈夫だろうか。
――いや、絶対に勝てる。勝たなくてはならない。
より決意を固めるため、窓の外を見上げる。
もう遅い時間のはずだが、それを感じさせない、光り輝く太陽。
その空を見て俺はこう感じる。
「……あと……七年か」
残りのタイムリミットを改めて考えた後、俺は就寝する。……つもりだった。
……やべぇ。日光見たせいで寝れねぇ。




