トラウマを消せる魔法はあるのかな?
俺の苦手なものを、聞いてほしい。
俺は虫が『とても』を付けていいほど苦手だ。
いやぁ~子供の頃は大丈夫だったのに。
これも、大人になったということなのだろう。
なぜ、こんな話題を出したかって?それは現実逃避のためだ。
「……は、早く進んでください」
「いや、待ってくれ。俺にとって『アシダカグモ』はトラウマなんだよ」
お互いに帰りたい、その気持ちは同じなはず。
だがこんなところで帰るべきではない、そんな理性もお互いに残っている。
「剣を持っているじゃないですか。素手で触れるわけではないので、空賀さん一人で討伐してきてください」
「いやいや、自分の物に触れられるだけで嫌なんだよ。というか、なんでお前は来ないんだよ」
――カサッ。
……蜘蛛は爪とか毛が擦れたときにカサッ、という音を発するらしい。だが、その音は微細すぎて実際に聞くことは難しいんだとか。
なのになんで今聞こえたんだ?
考えられるとしたら……
「「……でっか」」
驚きではなく、絶望の声が二人から発せられる。
『アシダカグモ』は虫を食うらしいが、これはどう考えても人間を食いそうな見た目だ。
くっ、覚悟決めて、戦うか。
俺が戦闘態勢を作った瞬間、永久輝はどうしたと思う?
――逃げたんだよ。俺を置いてけぼりにして。
「待ちやがれぇー!! 」
ふざけていやがるあの野郎。
せめて、一緒に逃げようぜ。俺だって逃げたかったんだから。
俺が走り出すと、ぐんぐん永久輝との距離は縮まる。
「残念だったな。俺に走りで勝てるわけないんだよ。バァーカ! 」
――前に何かいる。この形、人間か?
その人物に巻き込んで悪い、と心のなかで謝る。
俺が永久輝を追い越そうとすると、体に何かが巻き付く。
ああ、これはあれだ。ゲームとかで蜘蛛がよくやる、糸を相手の体に巻きつけるやつ。
……っ! やばくね、それ。
兎の脚力、熊の筋力があったにも関わらず、俺は引っ張られる。
……あっ、俺は死ぬんだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、誰か助けてくれ。
体に巻き付いた糸は驚異的な粘着力があり、俺の体から離れない。
――一瞬、視界に何かが入り込む。
すると、俺は地面に叩きつけられ、体に衝撃が走る。
誰かが、蜘蛛の糸を切ってくれたようだ。拘束が解かれている。
俺の目の前には蜘蛛、そして男性が立っている。
……永久輝は?
俺は立ち上がり、戦闘態勢をとる。
ただ、それは必要のないことだった。
彼は蜘蛛の糸を全て避け、そのまま懐に潜り込む。その勢いを殺さず、蜘蛛の体を斬りつける。
痛みで蜘蛛の体勢は崩れる。
彼はその後も攻撃をやめず、足を斬りつけ移動を封じる。
その後は頭を斬りつけ、殺してしまう。
……強すぎるだろ。
「大丈夫か? 」
おいおい、心配までしてくれるのか。逃げた仲間とは大違いだぜ。
「あぁ、精神以外は大丈夫だ」
「常に精神は壊れているじゃないですか」
聞き覚えのある声。その声の主は永久輝。
この野郎。どの面下げて戻ってきてるんだよ。
「ありがとうな。お前が助けてくれなかったら、今ごろアイツの胃のなかだった」
「当然のことをしたまでだよ。それより、二人はパーティーかい? もしそうなら、助け合ったほうがいいと思うよ」
「だってよ。永久輝」
「私、『導光』の弱点話しましたよね」
「範囲があまり広くないことか?」
「それもありますけど違います。私が攻撃した場合、相手にバフを贈ることになってしまうことです」
これがスキルの条件。だから、永久輝とパーティーになったが、戦うのは俺だけになる。
「さっきも言ったが、お前のスキルの範囲はそこまで広くないんだよ。だから、それは理由になってねぇよ」
俺たちがいがみ合っていると、彼に笑われてしまう。
「悪いな。命の恩人がいるにも関わらず、俺たちの話をしていた」
「大丈夫だよ。それに僕は他人の会話を聞くのは結構好きなんだ」
「会話するんだったら、ここから出ませんか? ご飯でも食べに行きましょう。きっと、空賀さんが奢りますよ」
「永久輝が言うのはおかしいと思うが、命の恩人にそれくらいはさせてくれ」
「わかった。それじゃあ出ようか」
だが、俺にはまだやることがある。
それは蜘蛛に手をかざし、アビリティをもらうこと。……やりたくねぇ。
<<アビリティ>>
蜘蛛:糸の生成、スキル『壁面吸着』が使用可能
……このアビリティをセットすると、今日を思い出しそうだ。
***
「何でこんなに安い店を選んだんですか? 」
「うーん。落ち着くから……かな」
「お前が選ぶ店がおかしいんだよ! さっきの店、単価が異常だったぞ!」
俺の命の恩人、海隅 日彩がここを選んでくれなかったら、どうなっていたことか。もし、永久輝の意見に流されていたら、払えない、なんてオチがあったかもしれない。
「というか、海隅は一人なのか? まぁ、お前ほどの強さだったら、パーティーなんていらないかもだが」
「……う、うん。僕はソロで攻略しているよ」
……これ以上、この話題は広げないほうがよさそうだな。
「海隅さんはやはり、剣技の才能を上げるスキルですか?」
「……いや。違うんだ」
……マジかよ。この話題もか。
「もし、『稀スキル』だとしても私たちは馬鹿にすることはしませんよ。なんて言ったって、二人とも『稀スキル』ですから」
「……へぇ。そうなんだ」
海隅は俺のような偏見を抱かれるスキルなのだろうか。
それとも、別の理由が存在するのだろうか。
今の彼は塔で出会った彼とは別人だ。




