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焼けた空間


「へぇー。そんな事があったんだ」


「……すげえ、大変だった」


 ――六十五階層で、例の漢方事件の話が出てくる。

 それも、それなりに盛り上がっていると思う。


 ……俺を除いて。


 俺のテンションには理由がある。

 もちろん、内容が気に食わない、というのもあるが……


「……遠くない?」


 目線を上げると、手のひらサイズに見える二人と、一本の金属線が目に入る。

 

 そして、俺の手にはブリキ缶が一つ。


 ……そう、俺たちは今、糸電話を使っている。


 理由は……


「だって臭いじゃん」


 ……だそうだ。


 すげぇー……悲しい。

 ……加齢臭で距離を取られた、お父さんの気分。


「もうすぐ、六十六階層に到着しますよ。早くその悪臭を取り除いてください」


「犯人はてめぇだろうが」


 もうすぐ『守護者』との戦いだというのに、なんだよこのざまは。

 瓶に負けて、仲間に距離を取られる俺。

 ……本当に格好がつかないぜ。


「早く風でなんとかしてください」


「体と服に匂いが染み付いちまったから、効果はイマイチだと思うぞ」


「常に気流を出しておけば、紛れるんじゃないですか?」


「お前、まさか戦っている最中もそうしてろ、なんて言うんじゃないだろうな」


「もちろん、そうしてください」


「そんなこ……いや、わかったよ」


 体に微弱な気流を巡らせる。

 これで、匂いの範囲は広がったが、強さは下がったな。


「……マシにはなりましたが、まだ臭いですね」


「確かに匂いが弱まったね。……まだ臭いけど」


「……てめぇら、臭いという言葉は他人を傷つけることを理解しているか?」


 これでようやく、三人が近くに集まる。


「事実ですから」


「事実なら全てオーケー。んなわけあるか!!」


「……二人とも、階段があったよ」


 目の前に石造りの扉が現れる。

 何度も見てきたはずだが、今回は少し緊張する。


「どうする? 一度戻るか、このまま行っちゃうか。ちなみに僕はどちらでも」


「私もどちらでもいいです」


 二人が同時に俺を見る。

 俺が決定する、みたいな雰囲気だな。


 一度戻るのもいいが、今のところ、疲労も怪我も微々たるもの。

 ……だったら。


「……行くか」


 そのひと言に二人は頷き、俺たちは六十六階層へ向かう。


 ***


「……っ!」


 空気が重く、呼吸がしづらい。

 熱気が体を覆い尽くし、額に汗がにじむ。


「……嫌な感じだ」


 俺は環境に顔を歪ませながらも、目線を上げる。


「あれは……寺と……鐘?」


 視線の先には、焼けた大地の中央に、半壊しながらも佇んでいる寺と、その直ぐ側で横たわっている鐘が見える。


「……いないね。何も」


「ああ。だが、怪しいものはある」


 調べてください、とでも言いたげな寺と鐘。

 なんだか、堂々としすぎて罠な気もしてきた。


「とりあえず、逃走手段の多い俺が見てくる」


「気を付けてくださいね」


「ヤバいと感じたら、すぐに戻ってきて」


「ああ。任せてくれ」


 軽く手を振り、二人から距離を取る。


 ――一歩、さらに一歩と、足を運んでいく。


 そして、寺の目の前で足を止める。


 正直に言おう。……とても怖い。

 でも、やらなきゃなんだよなぁ〜。


 ……数秒、寺を睨みつける。

 ――だが、音も気配もない。


 やるしかない!! 意を決しろ!!

 

 一気に寺の扉へ走り、扉を開ける。

 バンッ、という音を立て、扉が横へ打ち付けられる。


「……なんにもないのかよ」


 手に入った情報は、至るところに穴と焦げ跡があるくらい。

 生き物どころか、物すらない。


 ……鐘に何かあるのか? それとも、ここら周辺にはいない?


 目に止まったものは、寺と鐘の二つだけだが、全体の広さは広大。

 壁などの空間の終わりは見えないし、何かしらがあるかもしれない。


「……とりあえず、鐘……調べるか」


 目先の怪しい存在を調べるため、足を動かす。


 高さが大体1.5メートルくらいで、俺より小さい。

 直径もそれなりにあって、人間なら簡単に入れそうだ。


 俺は一呼吸おいた後、姿勢を低くし、中を覗く。


 中には、何も無い。

 ただ、内側全体が焦げていた。

 ……それと、変な匂いがする。


「……クソッ。自分の匂いが強くてよくわからん」


 俺は頭を突っ込み、手で仰ぎながら匂いを嗅ぐ。


「……いや、わからん」


 狼のアビリティを使う……いや、俺に染み付いた悪臭が強すぎる。

 それに、匂いの詳細を特定したところで、守護者がいないという事実は変わらない。


 ……一旦、合流するか。


 ――俺は二人の元へ駆け寄る。


「……収穫なし」


「……そうですか。……では、別の場所を捜索しますか?」


「そうだな。というか、それくらいしか選択肢がないよな」


 ――そんな時だった。


 ……ゴンッ!


 その音に反応し、全員が鐘を見る。


「……中、空だったよな」


 何もなかったはずだ。あったのは匂いと焦げのみ。


 ……ゴンゴンッ!


 今度ははっきり聞こえた。

 ……絶対に何かがいる。


 ――音の主がゆっくりと姿を現す。


 その姿は……


「……人?」


 姿を現したのは、着物姿の女性。

 ただ、肌はまばらに焼けており、痛々しい姿だ。


 その女性が足を動かす。

 だが、足音が異常だ。

 彼女の足が地面に触れるたび……


 ……ジュッ! ……ジュッ!


 という、焼けるような音が響く。


 彼女が近づくほど、熱気が強まり、肌に痛みを感じる。


 だが、彼女は突然足を止める。

 すると、傾けていた頭を上げ、俺たちを見る……いや、俺を見ている。


 ……なんだかヤバそう。


 この時はまだ、ゆとりがあった。

 ――だが、一瞬でそれは壊される。


「……っ!!」


 一瞬のはずなのに、彼女は俺の目の先に立っていた。

 そして、手を伸ばしてくる。


 ……狙いは……首!!


 それをのけぞり、間一髪で回避する。

 

 ――ただ……


「……アッツ!!」


 首元を見ると、黒く焦げている。

 

 掠っただけで、この有様かよ。

 まともに触れられたら……間違いなく


 ――死ぬ。

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