呪い、再び
「てめぇ……マジで、なんてもん持ち込んでくれたんだよ」
「ただの厚意ですよ」
何が厚意だ。
あれはどう考えても特級呪物だろ。
ギルドの一角で、漢方についての会話を繰り広げていた。
「一昨日と一昨々日、帰宅したら悪臭が放たれていた」
「知りませんよ」
「てめぇが買ったんだろ。何かしらの情報は持っているはずだ」
永久輝は目を逸らしてくるが、そのまま続ける。
「恐らく、それがペナルティだ。ただ、発動した瞬間は見ていないから、確証はない」
これらは俺の憶測に過ぎない。
ただ、こいつに一泡吹かせる方法は、これしかない。
「――だが、タイミングが近すぎる。つまり、時間で区切られてる可能性が高い」
「そうかもしれませんね」
「そして、ペナルティが発動したのが、二日とも帰宅直後ということから、24時間ほどだとわかった」
俺は不敵に笑い、こう言い放つ。
「……そろそろ、なんだよ」
俺は懐に手を入れ、例の物を取り出す。
――その瞬間、俺はギルドを全力疾走で退出する。
……これで、お前はおしまいだ。
ペナルティが発動し、悪臭が放たれる。
悪臭はたちまち、ギルド全体に充満し、ギルド内にいる全員の鼻を刺す。
――すると、犯人探しを始める。
そうなれば、簡単に永久輝が犯人とわかるだろう。
「……ブッハハハハハハ!! ざまぁないぜ!!」
いやぁ~愉快だ。
――そう思った瞬間……
「……っだ!!」
――背中に衝撃が走る。
何かがぶつかった。
硬いが、あまり大きくない。
反射的に振り返ると、そこには……
「……っぐ!! くせぇえ〜〜!!」
――例の物が転がっていた。
なぜ? などと考える時間はない。
周りを見ると、通行人は鼻を覆いながら……
「……くっさ!」
「……なんだこの匂い!」
こう言いながら、発生源を探す。
――そして、俺に視線が集まる。
冷や汗が止まらない。
……俺の精神はこの状況に耐えられない。
ただ、この状況は長くは続かなかった。
我慢の限界なのか、通行人は足早にここを次々と立ち去っていく。
――そして、俺と悪臭だけが、残される。
……は、早く俺も逃げないと。
俺は何とか足を動かし、この場を離れる。
……瓶を置いて。
――走り始めて、数秒後。
通行人は悪臭から逃げた。そのため、ここには誰もいないはず。
にも関わらず、背中に妙な気配を感じる。
……嫌な予感が。
足を止めるな!! 絶対にだ!!
少しでも距離を取り、犯人候補から俺を外せ!!
***
息は乱れ、肩は不規則に上下している。
あの後、何とか逃走に成功し、今は宿の自分の部屋。
扉も窓も完全に施錠した。
しかも、窓を割って入ってくる、というのが容易に想像できたため、糸で強度を上げておいたぜ。
……俺の勝ちだ。
勝利の余韻に浸るため、腰を下ろす。
――その瞬間、部屋に衝撃音が響き渡る。
……パリーン、と。
「いやいや、せめて壁をぶち破るとかにしてくれよ。……俺の努力がちっぽけに見えるじゃん」
窓ガラス、糸が飛び散る。
ただ、そんなものは一瞬しか目に留まらない。
俺の目に留まっているのは……
――無傷の瓶。
悪臭を放つそれは、人間を癒すものとは、ほど遠い。
……本当にこれ作った奴はバカだろ。
諦めムードが俺には漂っている。
足掻く術はもう浮かばない……
――わけないだろ!!
俺は瓶を手に取り、蓋を開ける。
悪臭は強まるが、そんなこと気にしない。
割れた窓へ向かい、瓶を傾ける。
中身が空を舞う。
さらに追い打ちだ!!
俺は強風を発生させ、視認できないほどの距離まで吹き飛ばす。
……勝った!! 瓶のない漢方なんて、恐れるに足りない。
――そう思ったが、違った。
……匂いが一切薄れない。それどころか、より強くなっている。
俺は恐る恐る振り返ると……
――瓶が漢方を生成している現場を目撃する。
「……どんだけ飲ませたいんだよ」
……降参です。漢方はすべて飲み切るので許してください。




