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異常な薬

 ……か、体中が痛い。

 ここ最近、自分を酷使しすぎた。


 ベッドの上、ここから動くべきなのは理解している。

 だが、少し動くだけで、鈍い痛みが体中に巡るのだ。

 ――だから動きたくない。


 空が落ちてくるという、タイムリミットはあるが、まぁ……まだ大丈夫だろう。


 ――コンコンッ。


 そんな俺の耳にノック音が入ってくる。


 ……居留守だ、居留守を使おう。

 これは動けないから、不可抗力だし。サボりじゃないからね。


 ――ドンドンドン!!


「どうせ、いますよね?」


 なんで決めつけてるんだよ。……いるけど。

 

 返答を返すのは負けを示す。ゆえに、沈黙を貫く。

 息を殺し、物音一つ立てず、無人アピールをする。


 だが、退散するどころか、ドアを叩く力が強くなっていく。

 ドアは軋みだし、部屋は揺れ出す。


 いやいや、ヤバすぎるだろ!!

 これは止めなきゃ、いずれここを破壊する。


「待て待て待て、やめろバカ!!」

 

 勢いよくベッドから移動したせいか、体中に激痛が走る。


「ぐぁっ……!!」


 痛みに体が反応し、転んでしまう。

 筋肉痛に、転んだ痛みが加算され、顔を強張らせる。

 ……だが、そんなこと気にしている場合ではない。


 疲労と痛みで震える足を無理やり立たせ、ドアノブに手をかける。

 震える手でドアノブを回し、扉を開ける。


「イカれてんのか!! 破壊寸前だったぞ!!」


 扉の前には永久輝が一人で立っていた。


「やはり、居留守ですか」


 呆れたように、言葉を発される。


「確かに居留守はした。だが、扉の破壊はおかしいだろうが!!」


「強硬手段が有効だと思ったので」


「いやいや、それは最終手段にしてくれよ!!」


「ちゃんと段階は踏んだと思います」


「どこがだよ!!」


 ……くっ! 体の限界が近い。

 俺は戸当たりに手をかけ、なんとか体勢を維持する。


「どうしたんですか?」


「無理しすぎただけだ」


「そうですか」


 ……反応薄っい。


「……も、もうちょい何か反応をくれよ」


「一応、心配してますよ。一応は」


「なぜ、一応を強調するんだよ」


「過度な期待を持たれると困るので」

 

「お前、情がないな……」


 ……まぁ、知ってたけど。

 そんなことを考えていると、永久輝がため息交じりに訊いてくる。


「薬などは飲んでいるのですか?」


「飲んでない。めんどくさいし、金がないからな」


「そうですか。いります?」


「……そりゃあ、欲しいけど」


 その言葉を聞き、永久輝は持ってきていた鞄を漁る。


 ――その後、一つの瓶を差し出してくる。


「なにこれ?」


「漢方です。疲労回復用の」


 俺は瓶を受け取り、蓋を開けてみる。


 ――中身が空気に触れた瞬間……


「……っ!?」


 鼻におぞましい香りが、突き抜ける。


「な、なんだよこれは……。腐ってんじゃ……」


 俺が永久輝を見ると、袖を使い、鼻を覆っていた。

 そして、ジェスチャーで閉じろ、と指示してくる。


 その指示通り、瓶の蓋を閉じる。

 ――ただ、残留臭は残り続ける。


「な……なんてもん持ってきたんだよ。この匂いから察するに、とんでもない味な気がするのだが」


「もちろん、苦いです」


 ……飲みたくなくなってきたんだが。


「これ、ただの漢方ではありませんよ。付呪してあります」


 付呪って、エンチャントみたいなものだったよな。

 ……つまり、効果は凄まじいんだろうな。


「店員さんに聞いたのですが、飲まないとペナルティがあるらしいですよ」


「ぺ、ペナルティ?」


「はい。詳細は知りませんが」


「……まさか、それが付呪?」


「はい」


 あっさり、答えてくる。

 ……本当に、なんてもん持ってきたんだよ。


「では、私は帰りますね」


「おいっ、ちょっと待て」


 バンッ、と勢いよく扉を閉め、永久輝は帰っていく。


 ――臭い、苦い、ペナルティ。

 この三つの言葉が俺の脳内を巡る。


「……飲みたくはない。……だが、ペナルティが」


 オブラート……はこの世界にあるわけないよな。


 何かを混ぜる……そんなことして、大丈夫か? 


 大量の水で薄める……それは、飲んだ判定になるのか?


 そのまま飲む……これが一番……だよな。


 俺は無言で瓶を睨みつける。

 明けた瞬間のあの悪臭が、脳裏に蘇る。


「……逃道……ないよな」


 俺は水を用意し、覚悟を決める。

 

 深呼吸をし、瓶の蓋に手を伸ばす。

 震えながらも、蓋を回し、中身を空気に当てる。


 ――匂いは一気に広がり、部屋は悪臭に染められた。


「……ぐっ!」


 悪臭に顔を歪ませられながらも、まず水を口に含み、その後流れるように漢方も入れる。


 ――舌に漢方が触れる。


「……つっ!!」


 苦みが舌を刺し、痺れる。


 ――吐き出す、この言葉が頭に浮かぶ。


 だが、ペナルティ、という言葉がそれを阻止する。

 そしてこう言う、早く飲み込め、と。


「……っ! ……ぐっ!」


 飲み込むことに成功するが、苦みは口に残り続ける。

 それだけでは飽き足らず、喉、胃にまで悪影響を与える。


 ……ただ、体に何か……。

 体中がじわじわと熱を帯び始め、それと同時に体中の痛みも消えていく。


「……すげぇ効果……二度と飲みたくはないが」


 部屋、体、そして口に悪臭を残し――俺の脳にトラウマを刻み込んだ、漢方との戦いは終わった。

 

 ……はずだった。


 ***


 ――翌日。


 塔から帰宅し、疲労に体を蝕まれながらも、ロビーを抜ける。


 そして、自室の扉の前に到着する。

 染み付いた悪臭を想像し、思わずため息が出るが、選択肢がないため、扉を開ける。 


 ――その瞬間、堪え難い悪臭が俺を包む。

 それも、今までとは比べ物にならないほどの悪臭が。


「……ぐっっっ!!??」


 何故だ、蓋は閉めたはず。

 

 ……まさか。


「ペナルティ……か?」

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