終わらない依頼
今日は一人だ。
俺らのパーティーは塔での攻略は全員で、という暗黙のルールが存在する。
他二人は用があるらしく、俺に突然の暇ができた。
金の足りない俺は、依頼をこなすことにした。
依頼内容は『草刈り』だ。
草刈りにも関わらず、金貨三枚(三十万円)を支払われると聞き、笑顔で依頼を受けた。
指定された場所まで来たのだが、家は見えない。
目の前に広がるのは草木が生い茂りすぎたジャングル。
……嫌な予感が。
俺が目の前の景色に圧倒されていると、一人の男性が歩いてくる。
「君が依頼を受けてくれた冒険者かい?」
「……は、はい。そうです」
な、なんだか帰りたくなってきた。
いや、まさかここなわけないよな。
だって、草刈りなんて次元じゃないし。
「よかった。じゃあ、依頼の説明をしよう。ここは、俺の土地なんだが、目を離した隙にこんな有様になってたんだ」
目を離し隙なんて次元じゃねぇよ。
「だから、君には草刈りを頼みたい。広いけど、草刈りにしては破格の報酬だから、頑張ってくれ」
「……い、一応聞きますけど、普通の草木……ですよね?」
「わからないな。なんて言ったって、俺が生やしたわけじゃないから」
絶対に何かある、と俺の勘がそう告げる。
拒否権はあるのだろうか。
***
「熱ぃ、臭ぇ、汚ぃ、最悪だよ」
愚痴をこぼしながら、風と自分の腕を使いながら草刈り(?)を進めていく。
体中に泥が付着し、動きづらい。
……帰りたい。
俺が現実逃避するため、上を見上げると、カラスが飛んでいる。
風を使って逃げようかな。
――だが、その考えは一瞬で消える。
そのカラスを蔦が捕まえる。
カラスは暴れ、抵抗する。
だが、二枚の葉が持ち上がってくる。
次の瞬間、その二枚の葉が開き、烏を捕食する。
「……ハ、ハエトリグサ……だよな?」
怖すぎるだろ、異世界。
俺はあれも刈り取らなきゃならないのか?
などと考えていると、俺の足に何かが絡まる。
……ヤバッ!!
引っ張られるが、強化された筋力と風により、それを防ぐ。
素早く腰の短剣を手にし、蔦を切り落とす。
だが、今度は二本の蔦が俺を襲う。
蔦は右腕と胴に絡まる。
こっちから仕掛けない限り、この状況が続く。
……だが、近づくと何されるかわからない。
ただ、新たな蔦が伸び、左腕に絡まる。
このままじゃ、ジリ貧だ。覚悟を決めるしかない。
俺は力を弱め、蔦に身を任せる。
このまま、何事もなく蔦の主の元に行く……はずだった。
蔦の主は目が見えていない、もしくはわざとなのか、俺を木々にぶつけながら引き寄せる。
「……痛ってぇ!!」
枝が体に突き刺さる、幹と俺の骨が軋む。
これ以上は体が保たない、脱出だ。
風の刃を生成し、蔦を切り落とす。
拘束が解け、俺の体は落ちていく。
だが、なんとか受け身をとり、着地する。
目線を上へ上げると、そこには蔦が伸び、禍々しい存在が、そこにはいた。
……ウツボカズラか? ……いや、そもそも植物なのか?
――などと考えていると、五本の蔦が俺にめがけて、伸びてくる。
風で軌道をそらし、回避していく。
だが、これを長時間続けるのは無理だ。
風の刃を生成し、本体らしき部分を切り裂いてみる。
奴は、案外あっさり切り裂かれる。
――だが次の瞬間、切り裂かれた部分が再生されていく。
単純な攻撃は効かないのかよ。
一応持ってきていた奥の手、試してみるか……。
俺は持ってきていた水筒を、本体らしき部分に、投げつける。
そして、風の刃を生成し、水筒を一刀両断する。
――次の瞬間、水筒の中身が飛び散る。
その水筒の中身である、熱湯が奴に触れた瞬間、ジュッ、という音が鳴る。
――動きが鈍った、いける!!
そのまま、俺は姿勢を低くし、地面に手を触れる。
地面の固まった土や小石が、砕ける音を響かせながら、地面が隆起していく。
――そこか!!
土の陰から、奴の根が姿を現す。
植物の弱点は根に決まってる……多分。
俺が根に攻撃を仕掛けようとすると、蔦が俺の体を掴む。
そのまま、勢いよく捕虫袋に連れ込まれそうになる。
「そんな死に方、絶対に嫌なんだよぉ!!」
もう一本持ってきていた、水筒を切り刻み、熱湯をばらまく。
――ジュッ!!
奴はその音が鳴った瞬間、苦しみ出す。
その後、捕虫袋の真上で落とされるが、風で体を押し出し、回避する。
受け身に失敗し、地面に叩きつけられるが、苦しんでいる暇はない。
すぐさま立ち上がり、手のひらに風を集める。
狙うは露出した――根!!
「気持ち、悪いんだよぉ!!」
蔦が俺へ伸びてくるが、体に到達する前に風の刃が根に命中する。
――ズンッ!
次の瞬間、バタッ、と音を立てながら、蔦が地面に落ちていく。
捕虫袋は倒れることなく、そのまま口を開いたまま動かない。
「……勝利……なのか?」
返事はない。
ただ、さっきまで暴れていた蔦は、一切動かない。
「つ、疲れた……」
息は荒れ、服はボロボロ、体は傷だらけ。
――ただ、命はある。
……危ねえ、アビリティを忘れるところだった。
<<アビリティ>>
ウツボカズラ:消化液の発達
……帰ろう。
***
「あちゃ~。全然終わってないね。こりゃ、明日も来てもらうことになりそうだ」
俺は心の隅で、場所が違った、というオチを求めている。
「……い、一応聞きますけど、場所はここで合ってますよね?」
俺はジャングルを指しながら、質問する。
「合ってるけど……それがどうしたんだ?」
……マジかよ。
――週に二回、ここへ通うのが俺の日課となった。




