偽りの空が見える世界
俺の目標。
それはただ一つ。#####を殺し、この『偽りの空』の降下を止めること。
俺はヒーローでも勇者でもない。ただ、生きたいと懇願する男。
もう二度と『死』の苦しみを味わわないために。
***
俺は普通だった。
何の変哲もない凡人高校生。俺を表すにはこれだけで十分である。
そんな生活に飽き飽きしていたはずなのに、今は戻りたいと思ってしまう。
なぜかって?理由は単純明快。
今の俺は自分の特殊な『スキル』のせいで偏見を持たれているからだ。
俺、空賀 龍輝は転生者。
不慮の事故のせいで命を落とし、赤ん坊から新たな人生を歩んできた。
死という存在は気分を悪くする。冷たいアスファルト、大勢の悲鳴、怪我の痛み、どれをとっても『不快』という言葉が出る。
この不快感を二度と味わってたまるか。その意思を尊重し、俺は安全な生活を確保する。というのが理想だったんだが、神様は叶えてくれなかった。
俺の新たな命は小さな田舎の村で誕生した。
その村での生活はお世辞にも良かったとは言えないな。
これには俺の『スキル』と、とある人物が大きく関わっている。
『簒奪者』という俺のスキルは強い偏見を抱かれる。そんな俺にその人物が追い打ちをかけて村にいられなくなった。
……これ以上考えるのはやめよう。鬱になってしまう。
今は目の前のことに集中するべきだ。
だだっ広い草原にうさぎが六匹。
うさぎの大きさは元いた世界と同等。ただ、凶暴。
小回りの利く短剣を使おう。それと、あれも……。
うさぎたちが俺めがけて飛びかかる。
俺へ到達するのが一番早いのは……
――アイツだ!
二歩前へ踏み出し、最小の動作でうさぎめがけて短剣を振るう。
刃は深く入れずに外傷を最小限に。
一匹目、二匹目、――三匹目、四匹目、――五匹目、六匹目、――終了だ。
「毒はやっぱり、役に立つな。他のアビリティと同時使用がしやすい」
俺のスキル『簒奪者』はその名の通り、他者から能力を奪い取ることができる。
ただ、殺した相手のみ、という条件付きでだ。
うれしいことに人間でなくても奪い取ることができるため、俺は人は殺さず魔物を狩る。
死の感覚を覚えてしまったから、人間の死に敏感になったようだ。まぁ、魔物を狩る時も少しだけためらいがあるのだが。
俺の足元で泡を吹きながら、横たわっている一匹のうさぎに手をかざす。
<<アビリティ>>
兎:脚力、聴力を発達させる
脚力、聴力。単純なステータス強化だし、今後も使えそうだな。
小動物がどれだけ戦えるか、は不安だが。
とりあえず試してみるか。
<<エゴスロット>>
・空賀龍輝
<<アクティブスロット>>
1:兎(脚力、聴力)
2:蛇(毒)
3:鷹(視力)
4:熊(筋力)
5:亀(体の一部を硬化)
さて、鷹のアビリティで的となってくれる魔物でも探すとしよう。
鷹は人間の十倍ほどの視力を持っている。そのため、こんなふうに索敵に活用しやすい。ほら、簡単に見つかった。あそこにちょうどいいオオカミがいる。
流石にオオカミには短剣より、長剣のほうがいいよな。
俺は短剣を戻し、腰から長剣を取り出す。
距離はざっと300mほどか。兎のアビリティを試しやすい距離だ。
俺は姿勢を低くし、走り出す準備をする。
そして、
――全力疾走!!
速い……いや、速すぎる!!まずい、体勢が。
標的だったオオカミから少し離れた、木に激突する。
亀をセットしていて良かったと思う。少しだけだが、痛みが緩和された。それ以外は最悪だが。
激突した時に響いた衝突音が周りの魔物を引き寄せる。
オオカミが三匹、熊が一匹、カメが四匹。合計八匹の魔物が姿を現す。
「うさぎを狩ることが、メインのはずだったんだけどな」
重労働になる予感がする。というか、絶対になる。
こいつらは強力な魔物ではないが、油断は死を招く。堅実に戦うべきだろう。
……いつ帰れるかな。
などと考えていると、一匹のオオカミが飛びかかってくる。
何回戦ってきたと思ってる。そんなの予測していたに決まっているだろ。
俺は噛みつこうと飛びかかってくるオオカミを慣れた手つきで体をひねり、回避する。
飛びかかるという攻撃は、隙が大きい。
俺は首めがけて剣を振るい、首を落とす。
熊はやはり有能だ。魔物の首を包丁で野菜を切るようなの感覚で切れる。
この調子なら、短時間で済みそうだ。
――数十分後。
ここは草原。そのため、匂いが充満することなどないはずだが、血の匂いがここら一帯を覆い尽くしている。
オオカミは初めて倒したから、奪っておくか。
<<アビリティ>>
狼:持久力、嗅覚を発達させる
これもまた、ステータスを強化してくれるものだな。有能そうだ。
とりあえず、蛇を外してみるか。
<<アクティブスロット>>
1:兎(脚力、聴力)
2:狼(持久力、嗅覚)
3:鷹(視力)
4:熊(筋力)
5:亀(体の一部を硬化)
<<アビリティストレージ>>
・蛇(毒)
狼のアビリティを試したいところだが、もう夕方だ。そろそろ帰路につくことにしよう。
……あぁ、そうだった。この世界には『夕方』なんてもの存在しないんだよな。
俺は目線を上へ上げる。そこに広がっているのは『偽りの空』。
その『偽りの空』は常に太陽を出し続け、夜や夕方になることはない。
前世の知識、鷹の視力が合わさったことで理解した。あれは空なんかじゃない、『ホログラム』だ。
雲や太陽の動き、天候が変化するタイミング、そして映像特有の微かなラグ、これらの情報により俺はこの空はホログラムだと理解した。
それは別にいいんだ。そんなことよりもっと重要なことがある。
それは『偽りの空』が降下していること。
この降下している物体を避けるなど不可能。だから俺は降下を止める方法を考えた。
その中で一番可能性の高いものそれはあれに登ることだ。
ここら周辺に住んでいる者ならば必ず見たことのある塔。『四柱』の一つ、――『青龍の塔』。
……まぁ、今の俺じゃあ下層の攻略すら無理なんだけどね。
この世界では凶暴な生物全てを魔物と呼ぶ。さっき狩ったうさぎたちも魔物と呼ばれている。
四柱ではうさぎなんて下の下の下だ。四柱内では元いた世界の言葉を使うなら、モンスター、神話の生物、が発生している。そいつらはどいつもこいつも強力で凶暴。
そんな奴らに勝つ自信がないため、今は平原などにいる魔物を狩って力をつけている段階だ。
偽りの空に一番近い塔の最上階へ到達、それは俺でなくても構わないのだが、俺なんかが「空が落ちてきてる!! 」などと言っても信じる奴がいると思うか? だから、俺がやるんだ。死ぬのはもうごめんなんだよ。
ここはフィクションの世界なんかじゃない。血の匂いと疲弊した体がそう告げてくる。
絶対に2度目の命を落としたりしない。俺はこの世界で、
「……絶対、生き延びてやる!!」




