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転生先の原作ゲームを知る俺、推しの姫騎士を守護るため、盗賊との恋愛フラグを全部へし折ります。  作者: 英 慈尊


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1/8

覚醒、そして目標

 毎日一話投稿で、四話目であらすじ消化し終わりますので、よければそこまでお付き合い頂ければ幸い。

 高空から吹き降ろす風は温かく、生命を慈しむかのようであり……。

 この山岳国ローファンで催されている精霊祭に、風の精霊自らが喜びの言葉を送っているかのようだ。


 石材を組み合わせて作られた建物が立ち並ぶ中、飲めや歌えやと、それぞれなりの形で祭りを楽しむ民たちの顔は――明るい。

 それは、例年通りの豊作を喜んでいるからであるし、あるいは、今年も大過なく過ごせたからでもあった。

 しかし、それ以上に大きな喜びが、今年の精霊祭には存在し……。

 本日、特別に開け放たれた城の大正門をくぐった俺もまた、人々が生み出す熱狂の中にいたのである。


「オズル、手を離すなよ。

 人混みに飲まれたら、あっという間に迷子だぞ」


「分かっているよ。

 それにしても、これは、国中の人間が押しかけているんじゃないか?」


 商売人ということもあり、やや線の細いところがある親父に手を引かれながら、俺は大声でそう話しかけた。

 なぜ、声を張り上げているのか?

 それは、俺ごとき10歳の小僧ではそうでもしない限り、周囲の雑音に飲まれてかき消されてしまうからである。

 それほどまでに、人が多い。

 三千人は入れるはずのローファン城中庭が、駆けつけた人々で埋め尽くされ、足の踏み場もない有様なのだ。


「そりゃあ、そうだろうさ。

 今日は、ディース様がアマゾネスの一員に加わる日なのだからな」


 しっかり俺の手を握り締めた父が、商人の象徴であるターバンを撫でながらほほ笑んで見せる。

 笑顔にも様々な種類があるが、ここで父が浮かべた笑みに宿っているのは、誇りと見て相違ないだろう。

 自分たちの属する集団……国家が、ますます素晴らしいものになっていくことを、実感しているのだ。


「アマゾネス、か」


 そんな父の言葉を受けた俺は、各所で槍を持ち警備する女騎士たちに視線を向けた。

 やはり、彼女らアマゾネスで最も特徴的なのは、身にまとっているその装備だろう。

 下腕部や脛を甲冑で守っているのは、通常の戦士と同じ。

 ただし、それ以外の箇所……特に肝心の胴体は、ひどく貧弱な装いだ。


 ――レオタード。


 このローファン付近に生息する固有モンスター――ゴライムから得られるナイロン布で作られた民族衣装である。

 ピッチリした布地は、要点を覆っていると言えば聞こえはいいが、逆に言うならば、要点以外覆っていない。

 肩から先は完全に露出しており、しかも、股部へ食い込んだ布地が、鋭い逆三角形を描いているのだ。

 結果、よく鍛えられていてしなやかな四肢が、付け根からほぼ露わとなっていた。


 つまり、アマゾネスという我が国固有の女騎士集団は、戦闘者でありながら、ほぼほぼ鎧をまとっていないのである。

 これは、一にも二にも、動きやすさを重視している結果だ。

 そして、これは重要なことだが……断じて、おかしな格好ではなかった。

 その証拠に、幼い頃の俺が「なんであのお姉さんたち、あんな変な格好してるの?」と聞いた時、周りの大人たちは揃って怪訝な顔をしたものである。


 父いわく、「オズル、どこが変なんだ?」。

 母いわく、「オズル、アマゾネスっていうのはああいう格好でしょ?」。

 道具屋であるうちの隣で防具屋を営むハンスさんも、「オズル、うちは先祖代々アマゾネス用のレオタードを作ってきたんだぞ?」と言ったものだ。

 身近な大人たちに半包囲されてそう言われ、俺はようやく、自分がズレていることに気づけたのであった。

 

 振り返ってみると、あそこで感覚のズレに気づけたのは、大きな収穫だったな。

 この俺ことオズルは、天才とか神童とか、そんな風に呼ばれることが多い。

 3歳くらいの頃にはまともな会話ができるようになっていたし、読み書きも、7歳の頃には一般的な単語をおおよそ習得。

 とりわけ相性が良かったのは算術で、実のところ、もううちの出納帳は俺がつけていたりする。


 そんなわけで、道具屋の出来息子というのは、城下町におけるちょっとした名物。

 父から聞いたところによると、評判を聞いた大臣の一人から、もっと高度な教育を受け、やがては要職に就いて国を支えてはどうかという打診もきているらしい。

 まあ、打診というか、これは半ば決定事項。

 家業の方は、本日、母と共に留守番している妹が将来婿を取り、継いでもらう計画らしい。

 いやっはっはっは! 人気者は困るね!


 ……実際、困っていることとして、レオタードの件しかり、早熟さと引き換えに、俺は色々な感覚が世間様とズレている。

 例えば、結構な貴重品である紙を走り書きに使おうとしてしまったり、他人から見たら奇異に映るほど頻繁に手を洗ったりな。

 もし、将来に城勤めをするのなら、こういった感覚の違いは早々に直していかなければ、やがて苦労することになるだろう。

 なんて心配をするのもまた、きっとズレているのだろうけど。

 などと、ズレにズレた思考へ埋没している間に、ただでさえ騒がしい人々が、ひと際大きく声を張り上げ始めた。


「おお! 出てこられたぞ!」


「ディース様だ!」


「なんてかわいらしいの!」


「アマゾネスの恰好が、よくお似合いになっておられるわ!」


 同時に、場の熱がひどく高まり、興奮の渦が広まっていく。


「オズル! 上だ! バルコニーを見ろ!

 ディース様がおられる! 国王陛下と弟の王子殿下もだ!

 お前、お姫様を見るのは初めてだろう!」


 熱狂しているのは父も同じで、商人の象徴であるターバンを手に持って振り回しながら、遥か上方のバルコニーを見上げていた。


「あれが……」


 周囲の人々が大いに盛り上がり、ローファン万歳! ディース様万歳! と騒ぐ様子を尻目に、俺自身もバルコニーを見上げる。

 せいぜい記憶に刻み込んで、母たちへの土産話としてやろう……などという気楽な行動であったが、しかし、それが俺にもたらした効果はといえば、劇的なものであった。

 まるで、雷に打たれたかのような衝撃。

 あるいは、脳が内側からめくれ上がったなら、このような感覚を覚えようか。

 全く新しい思考と記憶が、雪崩のように俺を飲み込んだのである。


 いや、これらは既知の記憶であり、考え方か。

 今この瞬間まで、忘れ去っていたもの……。

 前世――日本における記憶だ。

 それを呼び起こしたのが、バルコニーに立ち、はにかみながらも俺たち国民へ手を振っている少女。


 端的に言って、美少女であった。

 しかも、生半可なそれではない。

 一つの国家に、一人いるかどうか……という奇跡的なまでの美少女である。

 ただ顔立ちが整っているというだけではなく、気品やたおやかさ、かわいらしさという似ていて非なる美の要素が、絶妙かつ最高のバランスで備わっているのだ。

 また、腰のあたりまで伸ばした黄金の髪は、毛先のところをリボンでまとめており……。

 額は、大きな宝石が特徴的なサークレットで飾られていた。


 そんな彼女は、アマゾネスレオタードこそまとっているものの、年齢を考慮してか手甲や脚甲は免除されている。

 そして、まだまだあどけなさが残っていながらも、すでに凛々しさと美しさの片鱗を感じさせた。

 いや、俺の場合は、感じているのではない。

 はっきりと、それを知っているのだ。


 山岳国家ローファンの王女にして、アマゾネス隊の隊長――ディース。

 俺の記憶にある彼女の姿は、16歳の少女としてのものである。

 いや、彼女の姿……などと、現実で見知っているかのような言い方はするべきじゃないだろう。

 俺が知っているのは、ゲームに登場するグラフィックや、あるいは公式イラストに描かれた彼女の姿なのだから。


 ――セイントソード・サガ3。


 1995年……バブルが弾けてから数年は経たけど、日本がまだまだイケイケ感に溢れていた時代、発売されたアクションRPGゲームだ。

 特徴的なのは、プレイ開始時、総勢六人いる主人公から、メイン一人とサブ二人のキャラを選んでパーティー構成すること。

 この国の王女であり、本日見習いアマゾネスとしてお披露目されている彼女――ディースは、その主人公の一人であった。

 正確には、今からおよそ六年後……16歳となり、アマゾネス隊の隊長となった彼女が主人公の一人なのである。


 今の彼女も、お人形みたいだとか、妖精みたいだとか、俺ごときの持ち得る語彙全てを使っても表しきれないほどの美少女であるが、16歳となった彼女の可憐さと美しさは、神がかったものだ。

 何しろ、発売から20年以上もの時を経て尚、定期的にお絵描きSNSなどでイラストがアップされるからな。


 俺たち世代にとって、ドット絵のRPGは夢中になって遊んだ青春。

 そして、ディースこそは、その青春時代を代表する神ヒロインの一人なのであった。

 2020年に発売されたフル3Dリメイクでも、そのかわいさは余すことなく再現されていて、たまらんかったなあ。


 というか、俺って合計何百時間くらいあのゲーム遊んだんだろ?

 さすがに、一万時間……とまではいかないだろうけど、六人かつ、それぞれ四つの最終系にクラスチェンジする主人公たちの組み合わせは、リメイク前後共におおよそ試したはずだ。

 無論、その上で最推しと断ずるのは、ディースをおいて他にいない。


 そんな彼女が、ゲーム内の回想シーンで見られる幼少時よりもやや成長した姿で、俺たちを見下ろしながら手を振っている……。

 これは……こんなの、あり得るはずがない。

 こんなこと、現実であるはずがない。

 だが、道具屋の息子オズルとして過ごしてきた10年間の記憶が! 日本人としての記憶が……!

 それら二つの符号が、この状況を一つの言葉で定義していた。


 すなわち――転生。

 ゲーム世界への転生というやつが、この身に起きたのだ。

 日本でいつ死んだのかは、記憶にないので思い出せない。

 ただ、俺がやけに早熟だった理由、みんなとの感覚にズレがあった理由は、これで説明がつく。


 早熟なのは、そもそも日本で教育を受けた残滓があったから。

 算術を教わっている時、既知の知識をあらためて学び直しているような錯覚があったが、それは当然のことだ。実際、既知だったのだから。

 俺は、天才ではなかった。のび太君が秘密道具で神童としてやり直すエピソードと、同じ状況だったのである。


 アマゾネスレオタードに疑問を抱いたような感覚のズレも、これで納得。

 冷静に考えて、手足ほぼ丸出しの水着みたいな格好で戦いに挑むなど、正気ではない。

 でも、それがあり得るのだ。

 そう、90年代のJRPGならね。


 今生における俺の父が、商人の象徴として理由なくターバンを受け入れ装着しているのも、同じ。

 ゲーム内において、なぜか商人は、ターバン装着したインド人みたいなグラフィックで統一されているからである。


 そんなわけで……。

 ゲーム世界の住民と、現代日本の感覚を知らず引きずっていた俺との間で、乖離が生じるのは当然であった。


「ディース様! 万歳!」


「ローファン王国万歳!」


 父を含む周囲の人間が熱狂する中、状況認識を終える。

 そして、認識し終えた上での問題が二つ。


 一つは、こうして今現在、万歳三唱されているこのローファン王国が、六年後には滅びてしまうこと。

 なんとなれば、さらわれた弟王子――国王に抱かれている幼子だ――を助け出し、滅亡した祖国の復興を誓うというのが、ディースシナリオのプロローグであるからだ。


 何しろ、何度となく周回プレイした俺であるから、滅ぼされたローファンの光景は記憶に焼き付いている。

 その中では、当然、道具屋も無残に破壊されていた。

 ……全年齢のゲームだから詳しく描写してないだけで、これ、住民――つまり俺たち一家だ――は死んでるんじゃなかろうか。


 もう一つの問題……実は、俺としてはこちらが自分の命よりも大事な問題であるのだが、将来、ディースが結ばれ得る相手についてだ。

 その人物もまた六人いる主人公の一人であり、名は――クロウ。

 砂漠地帯を縄張りとするブール盗賊団に所属する盗賊の一人で、恋多き美男子である。

 シナリオ上の大きな特徴は、ディースのそれと大筋が一緒であるということ。

 と、いうのも、実はこのローファン王国を滅ぼすのが、黒幕である魔界王子一派に操られたブール盗賊団なのであった。


 だからか、彼とディースは接点が非常に多い。

 まず、全主人公共通で発生する中盤の山場――ローファン奪還イベントにおいて、クロウは必ず登場し、ディースにキザな台詞を言い放つと同時、あろうことかその頬にキスをする。

 それだけでも許されざる行為であるが、ディースと一緒にパーティーメンバーとして選んだ場合、エンディングでディースと幸せなキスをして終了しやがるのだ。


 まるで、制作者から「エンディングだぞ? 泣けよ?」と言われているような気分。

 ああ、俺は何度も泣いたね。血の涙を流したね。


 まず、憧れのディースがゲームの中とはいえ、他の男に取られたショックは、はなはだ大きい。

 しかし、それ以上に大きいのは、それをするのがよりにもよってクロウだという点である。


 いや、もちろん、やり込む中で幾度となく彼を起用した俺であるから、軽薄そうに見せかけているだけで、実際は義に厚い好漢であることをよく知っていた。

 ただ、それは置いておいて、とにかく女好きな男なのである。

 それはもう、病的なくらいに。


 何しろ、やはり主人公の一人である剣士ムントの叔母を、口説いたりしてるくらいだからな。

 そりゃ、特に2020年のリメイク版では若々しくて美人だったけど、お前と同年代であるムントを育て上げた母代わりやねんぞ?


 その上……その上、だ。

 こいつ、旅立った理由の一つが、呪いをかけられた幼馴染の少女を助けるためであったりする。


 お前!!!!!!!!!! 本命いるじゃねえか!!!!!!!!!!


 ちなみにだが、別に相手の一方通行な想いだったりするわけではなく、普通に相思相愛だ。

 その証拠に、ディースoutクロウinのパーティー構成でエンディングを迎えた場合、クロウは幼馴染と幸せなキスをして終了していた。


 つまりは、だ。

 クロウは旅の最中、あちこちで女性を口説きまくる女好きであるが、基本的には幼馴染を本命としている。

 が、ディースと出会い、共に旅をした場合に限り、本命がディースへと変わるということであった。


 神ゲーかつスルメゲーと呼んで差し支えないセイントソード・サガ3において、俺が唯一納得いかないのが、このカップリング。

 もちろん、クロウ側にも言い分はあるだろう。

 後から出会った相手をより好きになるなど、現実でもよくあることである。

 だが! 俺は! 幼馴染こそお前にとって運命の相手であると、確信している!

 そして、色んな女の子へ声をかける軽薄な男に、清楚可憐時々武士な性格のディースが惚れるというのは、大いなる解釈違いなのであった。


 要するに、俺はクロウ×幼馴染原理派であり、ディー×クロ否定派であるということ。

 もっと言うならば、ディースには誰ともくっつかず清純な乙女でいてほしいと願っているユニコーン野郎なのだ。


 結論が出たな。


 俺の身に起こった原因不明なゲーム世界への転生。

 考えねばならないことは山ほどあるが、絶対的な二つの目標が定まったと言える。


 目標の一つ目は、ローファン王国が滅びる運命をどうにかして避ける……あるいは、俺たちが死なないように立ち回るということ。

 目標の二つ目は、ディースを守護(まも)るということ。

 モンスターからではない。

 主人公の一人……クロウと結ばれる運命から、だ。

 


 お読み頂きありがとうございます。

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