第九話 巨大都市を目指して
もし、貴方が誤って世界から外れ落ちてしまえば、湿気を帯びた異臭を放つカーペット、狂気じみたモノイエローの壁紙、そしてハム音のけたたましく鳴り響く、果てしなくどこまでも続く空虚な空間 "バックルーム" に迷い込んでしまうことになる。付近でなにかの気配を感じたならば、それは確実に貴方の声を聞いているだろう。不条理と不合理に呑まれた貴方に、あらん限りの救いを。
旅の準備が整ったことをレイに伝え、3人は頑丈な装甲車に乗り込んだ。巨大なタイヤが8つあり、まるで軽戦車のようにも見える。
「まず、レベル11に行くには、レベル9を経由しなければならない。そこからレベル9の標識に従って進んで行くと、レベル11にたどり着く。いいか?レベル9ははっきり言っておくが、危険だ。生存クラスは5。命がけの移動になるが、レベル8を経験しているんなら、きっと大丈夫だ。」
レイがエンジンを起動し、全ての窓ガラスが厚い防弾プレートに覆われる。モニターにレベル8の地図、そしてレベル9からレベル11に行く経路図が表示された。
「じゃあ、しっかり掴まってろよ」
シェルターの扉が空いた途端、アクセルを全開にして、急発進させる。レベル8の暗闇に、重厚なエンジン音が響き渡る。それと同時に大量のエンティティを引き寄せた。
「エンティティが…、こんなレベルで足止めされてる暇はねぇんだよ!」
レイは苛立ちと共に、エンティティを蹴散らしていく。彼の視界には、モニターに表示されている複合光学潜望鏡と、わずかなヘッドライトの光に頼っている。洞窟の奥からは、巨大なクモやスマイラー、デスモスなど、複数の影が蠢く気配がする。彼らを完全に振り切るには、この車で一気に駆け抜けるしかない。
「ナビゲーション、Level 9への最速ルートを導け!」
自動音声が冷静に指示を告げる。
「ルート確立。最短経路を算出中」
装甲車は、岩だらけの道を猛スピードで突き進んだ。時折、天井からぶら下がった岩筍や鍾乳洞をかすめるように通過し、巨大な空洞を横切る。タイヤが軋み、車体が大きく揺れるが、レイは卓越した運転技術でコントロールを保った。
アキトが車内の後部カメラを見ると、そこには大量のエンティティが追いかけていた。中には見たことの無い、巨大で黒色の触手が生えているエンティティもいた。ここで車が横転したらと思うと、思わず背筋がゾッとする。
やがて、洞窟の出口が見え始めた。それはレベル9へと繋がる、巨大な開口部だった。
「よし、見えたぞ!」
レイはアクセルをさらに踏み込んだ。装甲車は唸りを上げて加速し、一気にその開口部へと突入する。
Level 9: The Darkened Suburbs(暗闇の郊外)
光の壁を抜けた瞬間、周囲の景色は一変した。岩肌の洞窟は消え失せ、代わりに、どこまでも続くアスファルトの道と、薄暗い街路灯が並ぶ空間が広がっていた。
ここはLevel 9: The Darkened Suburbs(暗闇の郊外)。生存クラスは5。理解度は30%。(探索済みの割合)常に夜中で、住宅街が立ち並ぶ、しかし住民のいない不気味な空間だ。
道路の標識に→や←といった謎の案内記号が書かれている。その案内に沿ってハンドルを切っていく。
レイはさらに速度を上げた。装甲車のヘッドライトが、不気味に静まり返った家々の壁を照らし出す。暗闇の奥に何かがいる気配がするが、躊躇することなく、猛進する。ここで止まれば、恐らくエンティティの餌になることは間違いないだろう。
「もうすぐだぞ!」
アスファルトの道を走り続けること数分、視界の先に、別の光の歪みが見えた。それは、Level 11への出入り口だ。レイは迷うことなく装甲車を滑り込ませた。
Level 11:The Endless City(無限の都市)
俺たちは無事Level 8を脱出し、Level 11: The City(都市)へと踏み入れた。防弾プレートが格納され、窓の向こうに映し出されたのは、俺たちがこれまでに経験してきたバックルームのレベルとは、まるで別世界のような場所だった。
高くそびえ立つ近代的なビル群と、青い空、そして活気あふれる街の風景。バックルームの中でも最も発展している、人類が築き上げた巨大なレベルだ。
「すごい…!」
思わず、俺は声を上げた。目の前には、現実世界のフロントルームにある都市と見紛うばかりの光景が広がっていた。
レイは装甲車を止め、大きく息をついた。
「ふう、ようやく着けたみたいだな。このままMEGの拠点まで送ってやるよ」
「レイさんはこの後、どうするんですか?」
「俺はまたレベル8に戻る」
「え!せっかくたどり着けたのに…」
俺は驚いた。
「Backrooms コロニストとしての任務があるからな。このLevel 11へお前達を届けた後は、速やかにLevel 8に戻って、次の物資輸送ルートの確保と、そこで拠点の防衛に当たらないといけない。あのうるさい奴も心配してるだろう。残念だが、ここでお別れみたいだな」
「それと、アル。君はもう大丈夫だ。お兄ちゃんも見つかっただろ?それにアキトもいる。ここLevel 11は、バックルームの中で最大のコミュニティがある。お前達はここで、新たな生活を始めることができるんだぞ。」
「レイ兄、今までありがとー!」
「礼はいい。放浪者を安全なレベルに送り届ける事が私の仕事なんだ。またレベル8に落ちて来たら、遠慮なく頼ってくれ。いつでもお前達を歓迎するぞ」
レイはそう言い残すと、装甲車を加速させ、街の向こうへと去っていった。
都会
「本当に広いなー…」
発展したレベルを見て、俺は感心していた。
レベル11には、様々な文化圏の建築様式を反映したビルや店舗が立ち並び、広々とした道路、緑豊かな公園、さらには地下街や地下鉄の入口まで存在する。内装も現実のものと変わらないほど充実しており、レベルの生成で生じた「トマソン」と呼ばれる行き止まりの階段のような奇妙な構造も散見された。
「ここは、一番多くの放浪者が居住しているレベルみたいだね。バックルームの中でも、めっちゃ安全な場所の一つなんだ」
レベル11の人口は約13万人。生存クラスは0。理解度は90%。空には太陽は見えないが、常に45度の角度から太陽光が降り注ぎ、街全体を明るく照らしている。その方角が「南」と呼ばれているらしい。気温は常に24℃、湿度は50%と、信じられないほど快適な環境だ。
街中には活発なコミュニティが形成されており、至る所にMEGの拠点がある。飲食店やオブジェクト販売、武器や装備の販売店が無数に軒を連ねている。
商店の棚には食料や道具、建材などが豊富に並んでおり、誰も見ていない時に何もない所から補給されるという、不思議な原理で成り立っているらしい。インフラも常に機能している。
「ここでしばらく休もう。旅の装備を整え直す必要がある」
カイが提案した。この安息の地で、まずは体力を回復し、これからの旅の準備をすることにした。
新たな道
Level 11の賑やかな通りを歩いていると、偶然にも見慣れた顔を見つけた。MEGのメンバー、タクヤだ。Level 1ではぐれて以来の再会だった。
「タクヤさん!生きていたんですね!」
俺が声をかけると、タクヤも驚いた顔でこちらを振り返った。
「アキト!無事だったのか!生きてたんだな!あの後、後方支援が間に合って、うまく対処できたんだ。数名の犠牲者が出てしまったがな」
タクヤは俺たちの無事を喜び、このLevel 11でのMEGの活動について教えてくれた。彼はこのレベルのMEG支部で、主に連絡員として活動しているという。
「ここLevel 11は、バックルームの中では別格の場所だ。比較的安全で、食料や物資も手に入りやすい。俺も最初は驚いたが、多くの放浪者がここに定住しているんだ。街の紹介もできるし、必要なら店の求人も紹介できるぞ」
このLevel 11で、俺たちは休息を得た。俺達の目標は、このバックルームを脱出し、元のフロントルームへ帰ることだ。新たな希望を胸に、いよいよ本格的に動き出す──。
今まで登場したレベル・エンティティの概要
レベル
・Level.0 「ロビー」:生存クラス1 理解度90%
最初に放浪者のほとんどがたどり着くレベル。常に空間が変化するので、迷子に要注意。
・Level.1 「ハビタブルゾーン」:生存クラス1 理解度90%
巨大な地下駐車場。スマイラーがたくさんいる。
・Level.2 「パイプドリーム」:生存クラス2 理解度80%
基本的に一方通行。長居するとパイプが増えて蒸し焼きにされるので、長期滞在はお勧めしない。
・Level.-1 「グリッチホール」:生存クラス2 理解度10%
レベル自体が意思を持っている空間。精神的な攻撃を仕掛けてくる場合が多い。
・Level.4 「廃オフィス」:生存クラス0 理解度80%
コミュニティが多く存在する。近頃、BNTGがレベル4にある資料空間の解体を行っているので要注意。(レベルの荒らし行為はいい加減やめてくれ…)
・Level.37 「プールルーム」:生存クラス2 理解度80%
バックルームでも有名なレベル。プールの水は固有のバクテリアが潜んでいるため、飲んではいけない。
・Level.3 「電気局」:生存クラス4 理解度50%
配線に注意。感電します。
・Level.8 「洞窟網」:生存クラス5 理解度10%
かなり生存が厳しいレベル。運命に身を委ねよう。道が開けるかもしれない。
・Level.9 「暗闇の郊外」:生存クラス1(家の中) 理解度30%
生存クラス5(道路) 理解度30%
必ず道路標識に沿って進もう。逆らって進むと、Level.69 η(廃キャンプ場)にたどり着いてしまうため、要注意。
・Level.11 「終わりなき街」:生存クラス0 理解度90%
一番多くの放浪者たちが定住している。コミュニティも活発で、永住する人も少なくない。
・The void 「虚空」:生存クラス:デッドゾーン 理解度5%
フロントルームとバックルームの両方を内包しているとされるレベル。このレベルから脱出した者は一人もいない。
エンティティ
・Entity number 4 – Deathmoths
デカい蛾。オスは体が小さく飼い慣らすことすらできるが、メスはオスの数倍大きく酸を吐くなどして完全に敵対的。またその凶暴さは巣に近づくほど増すらしい。 割と色んなLevelで見られる。
・Entity number 8 - Hound
黒い長髪が生えた痩せぎすで病弱そうな四つん這いの人型エンティティ。振る舞いは凶暴な犬そのもので、故にか上から目線で見下ろして威圧すると少しの間ビビる模様。 といってもやはり唸り声が聞こえたら静かに逃げるのが一番の安全策だ。
・Entity number 10 - Skin Stealer (スキンスティーラー)
背の高いざらついた人型のエンティティ。声真似が上手く、人の皮を剥ぎ取り擬態して狩りをする。しかし目が白く窪んでいるのと背が高いこと、血が透明であることは誤魔化せない様なので見分ける際のヒントになるだろう。 また、あくまで声真似が上手いだけでありコミュニケーション能力はない。そのため凡そ会話が成り立たず、そんな現象が起きたなら相手がスキンスティーラーの擬態であることを疑った方が良いかもしれない。
・Entity number 3 - Smiler
体部分は闇に溶けて見えず、鋭い牙の並んだ笑顔の口と目だけが白く不気味に光っている。光に敏感で、また放浪者がパニックになったり大きな音をたてると襲ってくる。 一番の対処法は目を合わせたまま静かに後ろに下がって逃げること。また光源を持っているなら光源を遠くに投げればば囮にしてその隙に逃げれる。
・Entity number 5 - Clump
人の手足が塊の様に絡み合ったエンティティ。半径2.4m以内に入った生物をその手を伸ばして捕まえ、鋭い牙の並んだ口で貪り食う。また地面を滑るように転がり、移動速度は侮れないぐらいには結構速い。 こいつの対処はとにかく半径2.4m以内には入らないこと。
※これはFandom版Back rooms wikiによる情報です。
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