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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第三十八章 一対一の死闘

 白光の祭壇が一度、淡く脈動したのち――

 突如として、神殿全体に重苦しい振動が走った。

 直哉なおや麻希まきが共鳴の力で封印を起動させたその瞬間、神殿に残っていた“黒いささやき”の核が最後の抵抗を始めたのだ。

 「……まだ、残っていたのね。しつこいにもほどがあるわ」

 ラウラが歯噛みしながら呪文を再展開し、ナディアが結界を張り直す。

 だが、遅かった。

 祭壇の光が一度、軋むように揺れたのを境に、黒い霧の柱が噴き上がる。

 その中心から――再び、グレオスの姿が現れた。

 「……まだ、終われん……私の中に、まだ“それ”が囁いている……!」

 先の戦いで救われたはずの彼の心が、再び闇に染まりつつあった。

 いや、それはもはや“彼自身”ではなく、“黒いささやき”が彼を依代にして暴れ始めているのだった。

 「ラウラ! 麻希を守ってくれ! ナディア、封印を続けろ!」

 直哉は叫びながら、グレオスの前へと歩み出た。

 「直哉っ……待って、それじゃあなたが――!」

 麻希の声を、振り返らずに直哉は遮った。

 「大丈夫。俺は……もう、迷わない。守りたいものがあるから」

 その横顔には、どこまでもまっすぐな意思が宿っていた。

 黒の鎧に覆われたグレオスの剣と、直哉の光の剣が交差する。

 激しい衝撃波が神殿内を揺らし、崩れかけの天井から石片が降り注ぐ。

 直哉は何度も弾かれ、打ち据えられ、それでも立ち上がる。

 身体は限界を超えていた――けれど、足を止める気は一切なかった。

 (麻希が待ってる。みんなの未来が、ここに懸かってる)

 血がにじむ掌で剣を握りしめ、彼は再び立ち向かう。

 その一瞬――麻希の声が、ふわりと彼の心に響いた。

 『……あなたなら、大丈夫。信じてる』

 その声は、まるで心の奥から湧き上がるような、暖かさだった。

 ――そのとき、直哉の中に眠っていた力が、完全に覚醒する。

 “逆転の閃光”――完全解放。

 剣が光を帯び、まるで時間そのものを切り裂くような鋭さを帯びていく。

 「……この光は……?」

 グレオスがたじろいだその瞬間――

 直哉の一閃が、彼の胸元に深く突き刺さった。

 爆音と共に、黒き瘴気が砕け散る。

 グレオスが膝をつき、もとの姿を取り戻して倒れ込んだ。

 ふらつく直哉の身体を、真っ先に駆け寄った麻希が抱きとめる。

 「直哉っ……! もう……もう、無理しないで……っ!」

 彼は満足げに微笑んで、彼女の頬に額を預けた。

 「……間に合った、だろ……?」

 「うん。……うん、ちゃんと、来てくれた。わたしの“声”に応えてくれた……」

 麻希の瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。

 「……あなたが負けられないって言ったとき、わたし……本当に怖かった。でも今は、すごく誇らしいよ」

 彼女の手が、直哉の頬に添えられる。

 その優しさに、彼は安心したようにまぶたを閉じた。

 「なあ……麻希」

 「うん?」

 「……好きだよ。心の底から、お前が――」

 その言葉の続きは、麻希の唇がふわりと触れることで遮られた。

 それは静かな、けれど確かな“答え”。

 世界の崩壊を止める力よりも、もっと強くて、もっと深い、恋の証。

 「わたしも……好き。あなたがいてくれるこの世界が、何より好き」

 ふたりの唇が離れたとき、神殿の奥から再び封印の光が満ち始める。

 ラウラが、小さく呟く。

 「……完全な共鳴。心と心が重なり、愛が、黒いささやきを塗り潰した。これは、もはや奇跡よ」

 ナディアがそっと目を閉じる。

 「恋が、世界を救ったんですね……」

 ――そして、最後の封印の扉が、静かに、ゆっくりと開かれる。


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