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ささやきの運命  作者: 乾為天女


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第二部:第三十一章 荒野の一騎打ち

 封印の神殿まで、あとわずか――

 だがその前に広がる“灰の荒野”は、風すら切り裂くほどの緊張を孕んでいた。

 乾いた大地に陽が照りつけ、視界の先に蜃気楼が揺れる。

 その中から、一陣の騎兵隊が姿を現した。

 「……帝国の精鋭部隊。しかも、この気配……ただの兵じゃない」

 ラウラが低く呟く。

 やがて、騎兵の中央から、ひときわ威圧感を放つ男が馬を下りた。

 グレオスの副官・ザルト。

 魔力強化を施された重装戦士であり、グレオスの“意志”を代行する存在。

 「共鳴者のひとり……直哉なおや、だな」

 「そうだ。用があるなら、正面から来い」

 直哉は迷わず前に出た。

 その背を、麻希まきが見つめている。彼の影が大きく見えた。

 「ならば……貴様と“力の価値”を確かめる。ここで一騎打ちだ」

 ザルトが剣を引き抜く。砂塵が巻き上がる中、直哉も剣を構えた。

 「直哉……」

 麻希が思わず声を出しそうになったが、ナディアがそっと止めた。

 「信じてあげて。今の彼なら……きっと、届くわ」

 剣が火花を散らす。

 ザルトの一撃は重く、鋭い。受けるたびに直哉の足がめり込み、息が削られる。

 だが彼は、決して下がらなかった。

 (麻希の前で、絶対に倒れられない)

 (彼女が信じてくれてる。その気持ちに、応えたい――!)

 その瞬間、彼の体に再び“あの光”が宿る。

 ――逆転の閃光。

 剣が一閃し、ザルトの鎧をかすめる。

 「……お前……その力……!」

 「俺はもう、ただの“巻き込まれた存在”じゃない。俺の意思で、お前と向き合ってる!」

 直哉が吠えるように踏み込んだ瞬間、ザルトが膝をついた。

 静寂の中、風が吹き抜ける。

 「……見事だ。……共鳴者の名に、偽りなし……」

 そう言って、ザルトは剣を地に突き刺し、撤退を選んだ。

 帝国軍の残兵も、それに倣うように姿を消していく。

 戦いが終わった後。

 直哉はふらふらと戻ってきた。

 「なおや!」

 麻希が走り寄り、彼の腕を取る。直哉はへらっと笑った。

 「……ただいま」

 「バカっ……心配したんだから……!」

 麻希の目には、涙がにじんでいた。

 「お前、泣くほど心配してたのか?」

 「してたに決まってるでしょ! 何かあったら……わたし……」

 彼女の手が、彼の頬に触れる。指先が、震えていた。

 「……あんまり、無茶しないで……お願いだから……」

 直哉はその手をそっと包み込んで、まっすぐに言った。

 「麻希。俺がここまでこれたのは、お前がいたからだ。お前の声が、気持ちが、俺を支えてくれた」

 「……直哉……」

 ふたりの距離が縮まっていく。

 荒野の風の音も、熱を帯びて流れる空気も、何もかもが消えていく。

 「だからもう、離れんなよ」

 「……離れない。絶対に」

 静かに重なった手と手――そこから伝わる鼓動が、言葉以上に強く、ふたりの絆を物語っていた。

 ラウラが遠くからぽつりと呟く。

 「……あれは、もう誰にも壊せない。共鳴なんかじゃない。“心の誓い”よ」

 そして、ナディアが小さく微笑む。

 「きっと、このふたりが世界を救うわ。恋を力に変えて――」

 ――荒野で交わされた“想いの勝利”は、神殿の扉を開く鍵となった。


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