第二部:第三十一章 荒野の一騎打ち
封印の神殿まで、あとわずか――
だがその前に広がる“灰の荒野”は、風すら切り裂くほどの緊張を孕んでいた。
乾いた大地に陽が照りつけ、視界の先に蜃気楼が揺れる。
その中から、一陣の騎兵隊が姿を現した。
「……帝国の精鋭部隊。しかも、この気配……ただの兵じゃない」
ラウラが低く呟く。
やがて、騎兵の中央から、ひときわ威圧感を放つ男が馬を下りた。
グレオスの副官・ザルト。
魔力強化を施された重装戦士であり、グレオスの“意志”を代行する存在。
「共鳴者のひとり……直哉、だな」
「そうだ。用があるなら、正面から来い」
直哉は迷わず前に出た。
その背を、麻希が見つめている。彼の影が大きく見えた。
「ならば……貴様と“力の価値”を確かめる。ここで一騎打ちだ」
ザルトが剣を引き抜く。砂塵が巻き上がる中、直哉も剣を構えた。
「直哉……」
麻希が思わず声を出しそうになったが、ナディアがそっと止めた。
「信じてあげて。今の彼なら……きっと、届くわ」
◆
剣が火花を散らす。
ザルトの一撃は重く、鋭い。受けるたびに直哉の足がめり込み、息が削られる。
だが彼は、決して下がらなかった。
(麻希の前で、絶対に倒れられない)
(彼女が信じてくれてる。その気持ちに、応えたい――!)
その瞬間、彼の体に再び“あの光”が宿る。
――逆転の閃光。
剣が一閃し、ザルトの鎧をかすめる。
「……お前……その力……!」
「俺はもう、ただの“巻き込まれた存在”じゃない。俺の意思で、お前と向き合ってる!」
直哉が吠えるように踏み込んだ瞬間、ザルトが膝をついた。
静寂の中、風が吹き抜ける。
「……見事だ。……共鳴者の名に、偽りなし……」
そう言って、ザルトは剣を地に突き刺し、撤退を選んだ。
帝国軍の残兵も、それに倣うように姿を消していく。
◆
戦いが終わった後。
直哉はふらふらと戻ってきた。
「なおや!」
麻希が走り寄り、彼の腕を取る。直哉はへらっと笑った。
「……ただいま」
「バカっ……心配したんだから……!」
麻希の目には、涙がにじんでいた。
「お前、泣くほど心配してたのか?」
「してたに決まってるでしょ! 何かあったら……わたし……」
彼女の手が、彼の頬に触れる。指先が、震えていた。
「……あんまり、無茶しないで……お願いだから……」
直哉はその手をそっと包み込んで、まっすぐに言った。
「麻希。俺がここまでこれたのは、お前がいたからだ。お前の声が、気持ちが、俺を支えてくれた」
「……直哉……」
ふたりの距離が縮まっていく。
荒野の風の音も、熱を帯びて流れる空気も、何もかもが消えていく。
「だからもう、離れんなよ」
「……離れない。絶対に」
静かに重なった手と手――そこから伝わる鼓動が、言葉以上に強く、ふたりの絆を物語っていた。
ラウラが遠くからぽつりと呟く。
「……あれは、もう誰にも壊せない。共鳴なんかじゃない。“心の誓い”よ」
そして、ナディアが小さく微笑む。
「きっと、このふたりが世界を救うわ。恋を力に変えて――」
――荒野で交わされた“想いの勝利”は、神殿の扉を開く鍵となった。




